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第21話 Love Thy Enemy
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「奴はもうジェイではない。セントウダ=サトシだ」
ウラトは断言した。
それを聞いたカナは、戸惑いの色を見せる。
「じゃあ、ジェイさんは……」
「いや、リリーみたく表に出てきてないだけだろう」
「そうなんでしょうけど……」
ジェイはサトシを乗っ取っていないようだ。今はただ、表に出てきてないだけだろう。
ジェイがいなくなっているわけではない。それはわかってはいる。わかってはいるが、それでも戸惑いは隠せなかった。
「サトシ、調子はどうだ?」
サトシはベッドの上に座っていた。ウラトはサトシの方を向いて尋ねた。
「大丈夫です。傷口は塞がりました。ただ……」
サトシは両手で頭を押さえていた。
「傷口が塞がったなら、何も言うことはない」
ウラトは医務室を出ようとした。出る前に振り返り、こう言い残す。
「余は先に戻る。セントウダ、後でアサトと一緒に余の元に来るんだ」
ウラトは医務室を出ていった。アサトは後ろ姿を見送る。
医務室のドアが閉まったのを見て、アサトはサトシの方に向き直った。
「セントウダ。貴様が何を企んでいるかは知らない。けれど、なにかしてみろ。どうなるか……わかっているな?」
アサトはサトシに釘を刺した。
「わかってるよ! どっちにせよ、多勢に無勢だ。大人しくするよ」
サトシは苛立ち紛れに返す。
「私はウラト様からこんなものを託された。何かあったら、それを使えということだ」
アサトはスマホを取り出す。それをサトシに渡した。
「わざわざ、どうも」
サトシはぶっきらぼうに受け取る。
「私は今からウラト様のところに行く。貴様も来るんだ」
アサトはサトシに命令する。アサトの目は冷ややかになっていた。
「ご主人のところに行くんですね。わかりましたよ。ワンちゃん」
「誰がワンちゃんだ!」
アサトは犬扱いするサトシを睨みつけながら、二人は医務室を出ていく。
カナは二人の後ろ姿を見送るように見ている。カナは一人、医務室の中で立ち尽くしていた。
『サトシ、ワンちゃんってなんだ』
サトシの頭の中で、ジェイが声をかける。
「黙れ!」
それを受けてサトシは一人、喚く。
「ジェイは変わりないようだな」
アサトはサトシの様子を見て、微笑を浮かべた。
「何がおかしいんだ!」
他人事のようなアサトの態度に、サトシは苛立ちを隠せない。
「着いたぞ」
アサトは執務室のドアを開けた。
「失礼致します。ウラト様」
「セントウダも一緒か」
カナは椅子に腰をかけていた。
「あんたが、イハラ=ウラト様ですか」
部屋に入るなり、サトシは喧嘩を売るかのような口調で話しかける。
「貴様! 無礼だぞ!」
「ほほう。いい根性をしておるな」
アサトは怒りをあらわにしていた。対して、ウラトは楽しそうな表情をしている。
「その様子を見るには、特に悪いところはないようだ。まともに受け答えできるようになったし」
「ええ、すこぶる快調です。幻聴があること以外」
『私は幻聴ではない』
ジェイは訴えかけたが、サトシは無視した。
「お前は奴を吸収したのだろう。もとより規格外の化け物だ。それに未知の生物がくっついている。まぁ、ありえん話とは言いきれまい。その未知の生物というのが、今、お前の頭の中にいるジェイだ」
「ああああああああぁぁぁ!!!」
それを聞いたサトシは頭を抱え、悲鳴を上げた。顔面は蒼白状態になっている。
「いい加減受け入れんか。いちいち錯乱してると身が持たないぞ。なまじ再生力があるから、狂気と正気を行ったり来たりしとるんだろうが」
「再生力、ですか。そういえば、奴はミコトに撃たれてましたね。弾は銀弾です。ヴァンパイアであるならひとたまりもない。ということは、奴の再生力を手に入れたということでしょうか」
再生力と聞いて、アサトは口を挟む。
「成程な。それはともかく、ミコトに撃たれたということが気になる」
「どういうことでしょうか?」
「撃たれたということは、ミコトに認識されたということだ」
「……もしかして、認識阻害を失ったということですか?」
「うむ」
アサトの問いかけに、ウラトは頷いた。
「完全という訳ではないようだな。吸血した相手の能力を吸収する能力とやらは」
「力は完全じゃないのに! 頭に虫がいる!! アハハハハハハ!!!」
サトシは狂ったように笑いだした。
「もうひとつ、気になっている点が」
「なんだ」
「なんで奴、ジェイは、みすみす撃たれるような真似をしたのでしょうか。見慣れぬものがいたとすれば、まず警戒するでしょうに」
「それもそうだ。言われてみれば、たしかに気になる」
アサトの疑問に対し、ウラトはもっともだと頷いた。
「ジェイに、真意を聞きたいところですが……」
「それどころではないな」
アサトとウラトはサトシの方を見る。サトシは笑い転げていた。
***
『カナ、大丈夫? なんかぼんやりしてるけど』
「心配してくれてるのね。ありがとう、リリー」
カナは、医務室から自分の部屋に戻る途中である。カナは考え事をしていた。
『だって、カナになにかあったら困るもん』
リリーが心配しているのは、カナは自分の宿主だからだろう。それでも、カナは嬉しかった。
「ジェイさんが引っ込んでるのは別にいいんだけど……ジェイさんは乗っ取らないって決めたってことだし……でも……」
カナは「なぜジェイは乗っ取らなかったんだ」という思いがよぎった。その考えを振り落とすように、頭を左右に降る。
「私、セントウダさんを赦さないといけない。わかってるけど……でも……」
カナは自分の部屋の戸を開けて、中に入った。
「神様。私、ジェイさんのためにも、赦さないといけないんです。神様。あなたはセントウダさんを赦しました。どうか、私も、セントウダさんを赦せるようにしてください」
カナは必死になって祈る。目から血の涙が滲んでいた。
ウラトは断言した。
それを聞いたカナは、戸惑いの色を見せる。
「じゃあ、ジェイさんは……」
「いや、リリーみたく表に出てきてないだけだろう」
「そうなんでしょうけど……」
ジェイはサトシを乗っ取っていないようだ。今はただ、表に出てきてないだけだろう。
ジェイがいなくなっているわけではない。それはわかってはいる。わかってはいるが、それでも戸惑いは隠せなかった。
「サトシ、調子はどうだ?」
サトシはベッドの上に座っていた。ウラトはサトシの方を向いて尋ねた。
「大丈夫です。傷口は塞がりました。ただ……」
サトシは両手で頭を押さえていた。
「傷口が塞がったなら、何も言うことはない」
ウラトは医務室を出ようとした。出る前に振り返り、こう言い残す。
「余は先に戻る。セントウダ、後でアサトと一緒に余の元に来るんだ」
ウラトは医務室を出ていった。アサトは後ろ姿を見送る。
医務室のドアが閉まったのを見て、アサトはサトシの方に向き直った。
「セントウダ。貴様が何を企んでいるかは知らない。けれど、なにかしてみろ。どうなるか……わかっているな?」
アサトはサトシに釘を刺した。
「わかってるよ! どっちにせよ、多勢に無勢だ。大人しくするよ」
サトシは苛立ち紛れに返す。
「私はウラト様からこんなものを託された。何かあったら、それを使えということだ」
アサトはスマホを取り出す。それをサトシに渡した。
「わざわざ、どうも」
サトシはぶっきらぼうに受け取る。
「私は今からウラト様のところに行く。貴様も来るんだ」
アサトはサトシに命令する。アサトの目は冷ややかになっていた。
「ご主人のところに行くんですね。わかりましたよ。ワンちゃん」
「誰がワンちゃんだ!」
アサトは犬扱いするサトシを睨みつけながら、二人は医務室を出ていく。
カナは二人の後ろ姿を見送るように見ている。カナは一人、医務室の中で立ち尽くしていた。
『サトシ、ワンちゃんってなんだ』
サトシの頭の中で、ジェイが声をかける。
「黙れ!」
それを受けてサトシは一人、喚く。
「ジェイは変わりないようだな」
アサトはサトシの様子を見て、微笑を浮かべた。
「何がおかしいんだ!」
他人事のようなアサトの態度に、サトシは苛立ちを隠せない。
「着いたぞ」
アサトは執務室のドアを開けた。
「失礼致します。ウラト様」
「セントウダも一緒か」
カナは椅子に腰をかけていた。
「あんたが、イハラ=ウラト様ですか」
部屋に入るなり、サトシは喧嘩を売るかのような口調で話しかける。
「貴様! 無礼だぞ!」
「ほほう。いい根性をしておるな」
アサトは怒りをあらわにしていた。対して、ウラトは楽しそうな表情をしている。
「その様子を見るには、特に悪いところはないようだ。まともに受け答えできるようになったし」
「ええ、すこぶる快調です。幻聴があること以外」
『私は幻聴ではない』
ジェイは訴えかけたが、サトシは無視した。
「お前は奴を吸収したのだろう。もとより規格外の化け物だ。それに未知の生物がくっついている。まぁ、ありえん話とは言いきれまい。その未知の生物というのが、今、お前の頭の中にいるジェイだ」
「ああああああああぁぁぁ!!!」
それを聞いたサトシは頭を抱え、悲鳴を上げた。顔面は蒼白状態になっている。
「いい加減受け入れんか。いちいち錯乱してると身が持たないぞ。なまじ再生力があるから、狂気と正気を行ったり来たりしとるんだろうが」
「再生力、ですか。そういえば、奴はミコトに撃たれてましたね。弾は銀弾です。ヴァンパイアであるならひとたまりもない。ということは、奴の再生力を手に入れたということでしょうか」
再生力と聞いて、アサトは口を挟む。
「成程な。それはともかく、ミコトに撃たれたということが気になる」
「どういうことでしょうか?」
「撃たれたということは、ミコトに認識されたということだ」
「……もしかして、認識阻害を失ったということですか?」
「うむ」
アサトの問いかけに、ウラトは頷いた。
「完全という訳ではないようだな。吸血した相手の能力を吸収する能力とやらは」
「力は完全じゃないのに! 頭に虫がいる!! アハハハハハハ!!!」
サトシは狂ったように笑いだした。
「もうひとつ、気になっている点が」
「なんだ」
「なんで奴、ジェイは、みすみす撃たれるような真似をしたのでしょうか。見慣れぬものがいたとすれば、まず警戒するでしょうに」
「それもそうだ。言われてみれば、たしかに気になる」
アサトの疑問に対し、ウラトはもっともだと頷いた。
「ジェイに、真意を聞きたいところですが……」
「それどころではないな」
アサトとウラトはサトシの方を見る。サトシは笑い転げていた。
***
『カナ、大丈夫? なんかぼんやりしてるけど』
「心配してくれてるのね。ありがとう、リリー」
カナは、医務室から自分の部屋に戻る途中である。カナは考え事をしていた。
『だって、カナになにかあったら困るもん』
リリーが心配しているのは、カナは自分の宿主だからだろう。それでも、カナは嬉しかった。
「ジェイさんが引っ込んでるのは別にいいんだけど……ジェイさんは乗っ取らないって決めたってことだし……でも……」
カナは「なぜジェイは乗っ取らなかったんだ」という思いがよぎった。その考えを振り落とすように、頭を左右に降る。
「私、セントウダさんを赦さないといけない。わかってるけど……でも……」
カナは自分の部屋の戸を開けて、中に入った。
「神様。私、ジェイさんのためにも、赦さないといけないんです。神様。あなたはセントウダさんを赦しました。どうか、私も、セントウダさんを赦せるようにしてください」
カナは必死になって祈る。目から血の涙が滲んでいた。
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