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第一章 藤林疾風『戦国の伊賀に登場』

閑話2 決戦 VS 北畠具教(霧隠才蔵)

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 俺は、藤林家の下忍、霧隠才蔵きりがくれのさいぞうと言う。
 幼少の頃から、藤林家の御曹子、疾風様の近習として仕えている。

 御曹子とは、忍びの修行を共にし、秘伝の知識を授けてもらったりもしている。
 おかげで、俺独自の忍法《霧隠れの術》も編み出すことができた。

 元々、伊賀や伊勢、熊野の山中は霧が多く発生する土地だが、御曹子にはその発生のしくみを教わった。
 そして多少の条件さえ整えば、俺にも霧を作ることができるのだ。
 湿度の高い空気中に核となる微粒子を散布することで、空気中の水分と結び付き、霧が発生する。
 御曹子の指示に従い、石灰を高温で焼いて誘い薬(生石灰)と、乾燥させた小麦を石臼で限りなく細かく引いた粉を所持している。
 誘い薬(生石灰)は空気にさらしていると、効き目が消えてしまい、保つのが難しいが、御曹子にいただいた容器ペットボトルで保管している。
 霧は視界を遮るためだけではなく、小麦の粉に眠り薬や毒物を混ぜたり、条件次第では粉塵爆発などの幅広い使い道がある。

 あと俺と佐助は、御曹子が作った伸縮自在の鋼鉄縄を収めた腕輪を駆使し、肩から足首に渡る背中の外套マントを広げ、森の中でムササビ飛びや屋根に登る高跳びが得意だ。
 一方、御曹司の幼馴染でもある佐助は小柄で身のこなしが軽く、体術が得意だが隠密の術より火遁の術を好んでいる。



 多気城を計略どおりに火攻めで攻略した翌日、大河内城に向う途中で野営して休養を取った。
 そして翌朝、再び大河内城を投擲火炎瓶で奇襲攻撃して、城の建物を炎上させ、たまらず城から出てきた軍勢と交戦した。

 御曹子は突撃などの接近戦を禁じられ、鉄砲や火炎瓶での遠距離からの攻撃に撤するよう命じられ、敵勢が迫って来た時は一定の距離を保ちながら後退して、あくまでも遠距離攻撃で対処するように命じられた。
 だが引くまでもなく、敵勢を半壊させた頃、突然に味方の伊賀の援勢が現れて苦もなく敵を殲滅してしまった。
 俺は戦に夢中で、味方の軍勢が現れたことに気づくのが遅れたが、御曹子は周辺に斥候を放っており、いち早く味方だと知っておられた。さすがだ。

 味方(1,800人)を率いて後詰に来たのは、服部家の頭領、服部半蔵殿だった。
 半蔵殿の放った斥候の報告によると一刻程で北畠の軍勢8,000が到着するとのことで、御曹子は、城の2km西にある森に挟まれた麦畑を戦場に選ばれた。

 味方は6つの部隊に分かれ、俺達奇襲部隊は正面の囮部隊となり、塹壕陣地の前方200mに落し穴と地雷原を敷いた。
 そして、俺達の所在には敵勢に知らしめる藤林家の『荒鷲』幟旗のぼりばたを掲げた。



 北畠勢は伊賀から後詰が来て、伏兵がいることを知らない。
 御曹子は、俺達の2km後方に投擲部隊200を配して後方陣地とし、その間に3ヶ所の塹壕と馬防冊の陣地作りを命じた。
 俺達奇襲部隊は、敵を鉄砲で迎撃しながら囮となって、後方の塹壕陣地を利用しながら後退して、敵勢を伏兵の潜む地点まで引き込む役割だ。
 左右の森の中には、2組の鉄砲部隊と2組の槍兵の伏兵部隊が伏せている。


 そして慌ただしく斥候が戻ると、北畠家の軍勢 8,000が西から姿を見せた。
 我らが少数の鉄砲隊と見極めると、先陣を切って500騎余の騎馬隊で突撃して来た。
 多数の騎馬で一気に距離を詰め、我らを殲滅するつもりなのだろう。しかし、塹壕の前方には三重に逆木の馬防柵が設置してあり、
騎馬で体当りしても容易には突破できない。

 先陣の騎馬隊500を鉄砲で次々討ち取っていると、その間隙を突いて長槍の足軽部隊3千が陣地に迫って来た。
 しかし御曹司の号令一下、塹壕から一斉に火炎瓶を投擲すると、塹壕付近に設置されていた地雷が次々と誘発して、隊列を組んだ敵足軽部隊を半壊させた。
 さらに敵勢の後詰め3千が出て来ると、俺達は第一の塹壕陣地を捨て、後方の塹壕陣地へと後退した。
 敵の主力部隊3,000 余が繰り出して来ると中原の地雷原に差し掛かったところで、後方の投擲機部隊から一斉に大型の火炎瓶が投擲され、後詰めの兵が固まる中原を襲い地雷の誘発と相まって、一斉に爆発が起こり後詰の部隊を大混乱に落とし入れた。

 それでも、これで我らの罠は出尽くしたと判断したのか、ついに北畠の本陣旗本1千の部隊も出陣して来た。
 俺達は二手に分かれて後退し、200mごと交互に、鉄砲で迎撃しながら後退する。
 そして投擲部隊のもとへ辿り着くと、必死の迎撃を行うが、敵の生き残りは仲間の屍を乗り越えて迫る。
 これ以上は接近戦をやるしかないと覚悟した時、左翼から伏兵の騎馬隊が敵勢の横腹を蹴散らして、後に続いた長槍隊が敵の本陣の軍勢の前に立ちはだかる。
 さらに、右翼からも鉄砲隊が現れ、敵本陣へ攻撃を開始し、長槍隊が本陣から出た軍勢に攻め掛かり、敵勢は大混乱に陥った。


 すると御曹司が、藤林家の側近佐助達と、馬を引いて現れた。

「才蔵、この馬に乗れっ。」

「御曹司、この馬はっ?」

「荷馬車の馬だ。皆の者、これより敵大将を討ち取りに参るっ。騎乗して俺に続けっ。」

 そう言うと御曹子は、降りかかる矢をものともせず、敵勢の真っ只中を他の者を圧倒する速さで突撃して行った。
 俺は必死で御曹司の前へ出ようと駆けるが、後を付いて行くのが精一杯だ。
 そして、消炎の立ち込める戦場の中、混乱する北畠の軍勢を裂いて、あっと言う間に敵本陣に辿り着くと剣豪で名高い北畠具教と一騎討ちをされた。 

 俺は、北畠具教を護ろうと群がる馬廻りの武将達を追払うべく、二人の周囲を駆け巡った。
 そうして、俺が助太刀する暇もなく、御曹司はたった一人で剣豪で名高い北畠具教を討ち取って仕舞われたのだっ。

 御曹子は言わば初陣で、これまで戦の経験などないはずなのに、歴戦の武者のごとく、いや軍神のごとく見事な采配を採られ、唖然とするような武威を振るわれて仕舞われたのだっ。
 俺はただこの目に、その紛うこと無き雄姿を焼付けたのだった。


『お方様には、なんと申せばよろしいのだろうか。
 お方様には縋るような目で頼まれ、御曹司をこの身を挺してお護りすると約束したのに、後を追うことしかできなかった。はぁ~。』





【 騎馬武者 】

 騎馬武者と言っても、実際には騎乗した武士だけの部隊はほとんどなかった。
 必ず徒の従士を数名引き連れているのが普通であった。馬は餌代が膨大で維持することが大変であり、容易く所持できるものではなかったのである。
 ましてや、日本の在来種の馬はロバより少し大きい程度で、甲冑武者の重みに長時間耐えるのは負担が大きかった。

 それでも、騎馬を先頭に駆ける集団は突撃の速さと蹴散らされる怖さで、有益であった。
 戦国時代の初期には、騎馬武者は騎乗突撃をもって敵陣に突入していた。しかし馬を狙う戦法が広まり、足軽の対騎馬隊戦法(長槍の槍衾、鉄砲隊の射撃)により、後には東国でも戦場に着くと馬から降りた徒戦が主となった。
 しかし、騎乗突撃が無くなった訳ではなく、相手の戦法により柔軟に運用されていた。


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