上 下
5 / 60
第一章 藤林疾風『戦国の伊賀に登場』

第5話 築城 藤林要塞砦と、戦火の足音。

しおりを挟む
永禄2(1559)年10月 伊賀藤林館 藤林疾風

 未来から持って来た情報の中に、伊賀の土壌の情報データがあり、それによると凝灰質泥岩 
と花崗岩の地層が大半であるとあった。
 また、員弁郡藤原には石灰岩が豊富にあることがわかった。
 この時代は石灰いしばいと呼ばれ、畑の肥料に使うほか、石灰石を焼成して石灰練コンクリートの試作をしていたが、うまくいったようだ。 この石灰練コンクリートを使って、新藤林砦を造る。
 中に入れる鉄筋は、青銅鋼で代用する。

 一番先にやったのは、藤林砦近くの石灰の採掘、東の大山田にある銅鉱山の採掘と棒道の整備と舗装、それに荷馬車の製造だった。
(上野と島ヵ原には亜炭があるけど保留だ。)
 
 不便なことにこの時代には馬車がない。
 平安京には貴族の牛車があったが、馬より力が強いので使われたのだろう。
 悪路と車輪のベアリングがないため、酷く負荷が掛かり荷物など積むと動かないのだ。
 四苦八苦して作りましたよ滑空輪ベアリング
 青銅で二重輪のレールと、その間に挟めた青銅球で。球の型は鉄砲玉だ。
 『ゴムタイヤ』もないから、藁の畳床の要領で外周りを薄い銅板で覆って作った。


 藤林の館は、標高200m余の小丘陵にあり、室町時代に藤林のご先祖が築城した砦という名の小さな山城である。
 館は忍者屋敷でなので、隠し扉や罠など、各種の仕掛けが施されている。

 俺は旧砦を拡張し、南の低地の畑を囲い込み、一面が100~150mのほぼ八角形にへいほりをまず作った。
 堀を掘って出た土砂の砂利は、篩に掛けてコンクリートに混ぜ、塀の壁に使った。
 砦の正面となる低地に作ったコンクリートのへいなのだが、外周と敷地側までは幅20mもあり、壁の入口が一箇所だけで内部を迷路として、敷地内には繋がっていない。
 敷地内側からの通路には、小穴が開け弓や鉄砲で攻撃ができるようにした。
 つまり、完全に罠として作ったのだ。

 本当の出入口は、東西南北4ヶ所に、塀の上から滑車で操作する木製の跳ね橋の階段が取り付けてあり、ここから出入りする。
 塀の高さは3m。内壁側には段差の通路があり、守備兵が鉄砲や弓で攻撃ができる。

 外周に設けた低地側の堀は、巾が30mもあり水深も3mで、舟でもないと渡って攻めるのは容易でない。
 また、八角の角に当たる場所には、円柱形二階建てのくるわを設けて、籠城戦に備えた。


 敷地の中は藤林館のほか、一階に大広間、二·三階を兵の休憩室とした別館を建てた。
 さらに地下1F地上3Fの1棟60戸1DK住戸アパートを8棟建て、郭も併せれば3,000人位は楽に籠城できる。
 地下は食糧などの資材貯蔵庫だ。
 そして、残った敷地は田畑だ。長期の籠城には食糧の確保が不可欠だしね。堀の底から水を引いたが井戸も豊富にあり、碁盤の目のように石灰練コンクリートの道が敷かれている。


 唯一あまり変ってないのは館だが、周囲の四方に趣きの違う庭園を造った。
 北側は、鯉が泳ぐ池を配した木々が色濃い和風庭園。南側は芝生に木々が所々にある。
 東側は草花の花壇で満たされ、西側には竹林が静けさを醸し出している。
 草花が好きな母上のために造った東側の庭には、振子椅子ブランコ長椅子ベンチ、そして木陰でお茶(麦茶)でも飲んでもらおうと東屋を造った。

 外周部の迷路の塀と水堀は3ヶ月。敷地内の施設は更に3ヶ月掛かって春に完成した。


「あなた。領民達に私達がなんて言われてるか知ってるかしら?」

 南側の東屋で、綺羅キラを抱いた母上が父上に笑いながら、話し掛けている。

「よくは知らんが、大方、鳶が鷹を産んだとでも言っておるのじゃろう。はははっ。」

「惜しいわ。近いけど、もっと凄いのよ。」

「なんじゃ、もったい付けずに、教えてくれても良かろう。」

「あのね、猛虎と孔雀が麒麟を産んだのですって。くすっ。」

「なんじゃそりゃ、褒め過ぎじゃわい。」

「そうなのよそれでね。『綺羅きら』のことは、智慧、長寿、富を与えてくれる『弁天様』の生まれ変りに違いないのですって。」

「やれやれ、疾風のせいで、儂らまで祭り上げられてしまうわい。」

「領民達からしたら、疾風は救いの神にも等しいのでしょうね。
 暮らしが豊かになって、今の伊賀は争いもなく、堺の次くらいに活気に溢れてるって、商人達も言っているわ。」

「うむ、百地殿も言っとる。おかげで、領民の衣食住ばかりか、鉄砲などの高価な武具の調達も容易になったとな。
 しかし、伊賀の平穏もいつまで続くかわからん。織田と今川、浅井と六角が戦になるじゃろうし、それに北畠は裕福になった伊賀を狙っておる。」



 そして今、秋の収穫後まもなく北畠具教が兵を起こし、伊賀攻めを開始した。その数は8,000余、大将は具教自らが出陣してきた。

 一方伊賀では、早くから情報を得ており、刈り入れ作業も、長柄鍬や千歯こきを使い、男衆も戦さ働きに出ていないので、藤林砦の敷地内の収穫を後回しにし、総力で刈り入れを行い、わずか4日で終わらせた。
 また、戦力は伊賀の5つの砦に集約し女衆と子らは、藤林砦に匿われた。


 別館で、伊賀全家の当主が集まった軍議の場が開かれた。

「北畠家の軍勢はおよそ8千。畠山や織田の備えに5千ほどを領内に残したようです。」

「半蔵殿、すると北畠具教の居城、多気城にはどのくらいの兵がいるのでしょうか。」

「御曹司。多気城には、およそ2,000の兵がいるものと思われますな。」

「とりあえず、籠城戦じゃな。小さな砦では護り切れぬ。斥候程度を留め兵を集約しよう。」

「百地殿、百地砦から鉄砲隊を100人お借りしたいのですが。」

「構わぬが、途中での奇襲は、難儀じゃぞ。
 おそらく、本陣の敵の構えは、相当厚いと見ねばならぬ。」

「いえ本陣には向かいません。多気城を落とします。
 藤林砦の投擲部隊50人と護衛の鉄砲隊50人、百地砦の鉄砲隊100人で奇襲部隊を編成し、北畠具教の居城、多気城(霧山御所)に火薬と油で火を放って丸焼けにします。」

「多気城が焼かれたら、北畠具教も伊賀攻めに構っておれんか。」

「引き返すでしょうな。本拠の多気城を荒らされては、面目が立ちませぬからな。」

「御曹司には、策がお有りなのですな。だだ籠城するだけでは、伊賀の田畑が荒らされるばかりで面白くありませぬなぁ。
 伊賀者一同、麒麟児と謂われる 御曹司のお手並みを拝見致しましょうぞ。」

( はあ、戦法たって城攻めだしなぁ。隙を突いての夜討ち朝駆けしかないぞ。
 まあ、放火して逃げて来るだけだな。)




【 弁天(弁財天)様 】

 神仏習合で、ヒンドゥー教の女神『サラスヴァティー』が仏教に取り込まれた呼び名らしい。
 その後、明治の神仏分離以降は多数が宗像三女神又は市杵嶋姫命を、少数は瀬織津姫を弁才天として祭っいる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

未熟な蕾ですが

黒蝶
キャラ文芸
持ち主から不要だと捨てられてしまった式神は、世界を呪うほどの憎悪を抱えていた。 そんなところに現れたのは、とてつもない霊力を持った少女。 これは、拾われた式神と潜在能力に気づいていない少女の話。 …そして、ふたりを取り巻く人々の話。 ※この作品は『夜紅の憲兵姫』シリーズの一部になりますが、こちら単体でもお楽しみいただけると思います。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

白き神よ永遠に

大空 ヒロト
キャラ文芸
16年前、日本から四季が消え冬のみになってしまった。原因は不明で8月でも10度に届くかどうか。 しかし今となってはそれは当たり前。俺もとくに気にもせず白く染まった道を学校に向けて歩いていく。

マイホーム戦国

石崎楢
SF
何故、こんなことになったのだろうか? 我が家が囲まれている!! 戦国時代に家ごとタイムスリップしたごく普通の家族による戦国絵巻?

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

ドS編集M男と少し売れてる漫画家A子

北条丈太郎
キャラ文芸
不器用で短気な編集M男と面倒くさい少女漫画家A子の仕事以上恋愛未満な物語

処理中です...