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第1部

*悪い子だね ー4ー

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一度、二度と緩慢な射精が長く続き、筆の柄で擦られ、傷付いた尿道管の中をゆっくりと精液が通っていくのが分かる。
呼吸が詰まる度に腰が跳ね、勃起したペニスから僅かに精子が漏れると力の抜けるようなじっとりとした解放感に目を閉じる。
目蓋の裏側に火花に似た光が明滅し、身体全身で味わう深い快感に苛まれ、宮原は沢海のワイシャツに精液を浴びせてしまった事に気付けないでいた。

「…ったく、もうこのシャツ、着れなくなちゃっただろ。
我慢、出来なかったの?」

唾棄される言葉に宮原はゆっくりと目を開けると柔らかさが欠けている口の線は曲がり、当惑した表情を浮かべる沢海が目の前に近付く。
ほら、と汚れた精液でシャツを宮原に見せ付けるように引っ張り、威圧を与える。

「…だって…
だって、さ…
ーーーあんな事、されたの…
初めてだもん…
…我慢、出来ないもん」

宮原は紅潮した頬を膨らませ、沢海を上目に見詰めるとボソボソと口籠もり、半ば開き直る。
意味のない無駄な抵抗だと分かっていても、形だけの虚勢を張る事で自分自身の体裁を保とうとするが沢海には簡単に見透かされてしまう。
色素の薄い両眼で見詰められるだけで宮原は両肩を小さく窄め、上げていた視線を直ぐに足元に落としてしまう。

「ふーん…
そうなんだ?
我慢、出来なかったんだ?」

襟足の長い髪が重く項垂れた首筋に掛かり、見え隠れする淡い肌理に沢海は手を伸ばすとあどけなさの残る耳朶を弄る。
人肌の温かさと産毛の柔らかさに触れ、沢海は指先で遊び、宮原の顔を上げる。

水を帯びたように潤む宮原の眸が沢海を捉えると許しを請うように沢海の腕の中に入り込まれ、凭れていく。
甘える仕草で胸に頬を寄せられ、背中に両手を回され、沢海は観念したのか軽く嘆息し、宮原の首元に顔を埋める。

「こういう事、されると困るよ…
…悪い子を叱れない…」

同時に首筋を舌先でベロリと舐め、鎖骨を剥き出しにすると皮膚の薄い箇所を吸い、真っ赤なキスマークを残す。
飢えた獣が血肉を欲するように剥き出しの歯牙を立て、痩せた身体を旨そうに食む。
そんな欲望に満ちた愛撫を強制的に受け入れなければならない宮原は長い睫毛を震わせ、沢海の背中を引っ掻く。

「…っ!
ヤ、ヤダっ!
痕、つけちゃヤダって!!
ーーーそんなに……
そんなに、怒らなくってもいいじゃんかっ!」
「何だよ。
気持ち良いいんだろ?
感じているのなら、もっと素直になれよ。
ーーーまだ足りないよね?
もっと、してあげるよ」
「……直哉……」

擦れ違う視線に宮原は下唇を噛み締めると細く長い溜息を吐き出し、身体の力をゆっくりと抜く。
乱れる感情が不安定に揺れ、宮原はどうしたらいいのか分からずに只管に沢海の行為を受け入れるしかない。

頸部の皮膚の上を濡れた口唇が這い、呼吸の熱を擦り付けられるとそのまま吸われ、幾つものキスマークを残される。
沢海の力強い腕に抱かれ、重なる胸を通してお互いの心臓の鼓動を感じ、宮原は恍惚の表情を浮かべながら、もう一度「…直哉…」と呟く。

隠し切れない感情を全て剥がされ、抉じ開けられた欲望を目の前に引き摺り出され、心を一糸纏わぬ裸にされる。

ーーー知っている。
今、何を求めているのか。
ーーー分かっている。
今、何が欲しいのか。

何度も吐き出される掠れた嬌声の混じる呼吸を止めようとしても、溜息のように次々と溢れてしまう。
沢海の背中に回した腕が掻き抱き、引き寄せ、宮原は憂いを帯びた表情を浮かべながら沢海の眸を見詰める。

「ーーー直哉………」

自分の中を満たしていく蜜のように甘美な毒を求めてしまうのはいけない事なのだろうか。
欲望の虜に成り下がり、覚え立ての淫欲に耽る事に躊躇いを感じているのだろうか。

余計な感情は猜疑心を生み、精神的な歯止めを失ってしまうのだと分かっていても、このまま本能に抗う事もなく、セックスという肉欲に溺れてしまえれば、どんなに簡単なのだろうか。

ーーー知っている。
今、何を求めているのか。
ーーー分かっている。
今、何が欲しいのか。

「…セックス、したい…
ーーーして。
…入れて…
足りない、よ…
もっと、したい…
ーーー傷付けていいから…」
「ーーー!!!ーーー」

沢海の端厳な顔立ちが歪み、冷ややかな眼光で宮原を見詰め返しながら、浮かび上がる動揺を必死で隠そうとする。
自分の胸の中で非力な程、必死に訴える存在が感情を揺らがせ、沢海の中に僅かに残る理性を蝕んでいく。

「…そんな事、言って…
ーーーもう、知らないよ…」

自傷さえ厭わないような言葉に沢海は苛立ち、宮原の両手首を頭の上で再び拘束すると、真正面から睨み付ける。
沢海は抑制出来ない感情のまま手指に力を込め、この状況下でも全く危惧もなく、惚ける宮原に態とらしく大きな溜息を吐く。

「覚えておいて…
悠を傷付けていいのは、オレだけだよ。
例え悠自身でも、身体も、心も絶対、傷付けちゃダメ。
オレが悠を傷付けて、メチャクチャに壊すから…
ーーーだから、イヤだって泣いたって…
もう、絶対に止めない」

見開かれた黒曜石の眸が沢海を映したまま、全てを受け入れる為に静かに閉じていくと上向く唇が口付けを待つ。
沢海は僅かに震える睫毛を咎めずに見過ごすと宮原の掠れる呼吸を乱暴に奪う。

犬歯を覗かせた口が柔らかく膨らむ口唇を丸ごと食み、息苦しさに歯列が開いた瞬間に沢海は舌を入れる。
強張る舌を吸い、無理矢理に絡めていくと体内から溢れる熱に唾液までも蕩け、いやらしく糸が引いていく。

「ーーーん、あぁっ……
…はぁ…ぁぁ…っ…」

宮原が喘ぎながら口を開けると沢海は性感帯のひとつでもある口蓋を舌先で舐められ、呼吸のタイミングさえも奪われる。
震える舌が息をする為に必死に伸ばすが、沢海に根本から貪られ、唾液を吸い尽くされてしまう。

縺れる嬌声が咽喉で絡まり、宮原が僅かに残る粘つく唾液を嚥下した事を確認すると口元から人差し指を入れ、歯列を開かせる。

沢海は再び宮原の口内へ自らの舌を差し入れると今度は多量の唾液を注ぎ、乱暴に撹拌させていく。
当然、宮原は2人分の唾液を飲み込めずに何度も溢れさせ、口元を汚してしまう。
勿体無いと言わんばかりに沢海は宮原の輪郭を伝う唾液までも舌で掬い、またそれを口内へ戻される。

痺れたように段々と覚束なくなる宮原の舌が咽喉の奥へ引っ込もうとする事さえ許さず、沢海は緊く甘噛む。
更に沢海は舌を入れ、開いたまま閉じられない、だらしのない口唇を吸い、叱るように噛み付く。

沢海の腕の中から逃れようと仰け反る背中を何度も引き寄せ、一切の退路を断つ。
呼吸をする当然の自由を一方的に支配され、茫洋とする視界に体温が上昇し、うっすらと汗が刷く肌を撫でていく。

空いた片手で宮原の尻を揉み、吸い付くような柔らかい肌の感触を確かめ、アヌスの皺を辿る。
性行を求める如何わしい指の動きに素直に反応し、キュッと窄まるアヌスに沢海は薄く笑い、宮原の小さい尻臀を左右に広げる。

「…や、やぁ…
ん、ぅ……あぁ…あ…
…は、ぁ……」
「…ここ…
まだ、柔らかいかな?」

右手を股座に入れると中指を軽く曲げ、陰嚢から会陰を掻き、アヌスの凹みを擽る。
無遠慮に性器を弄り、アヌスの縁を引っ張ると少しだけ指先を立てながら押し込み、体内の薄桃色の肉を捲る。

僅かに緩んだアヌスを開くと中指を腸壁に沿って埋め、円を描くようにぐるりと回し、最奥にある前立腺の膨らみを探る。
半ば無理矢理、2本の指を揃えてアヌスへと挿入し、直腸を抉じ開けていくと見付けたと言わんばかりに前立腺の突起を指先でコリコリと擦る。

宮原は快楽を感じられない程の激しい刺激に悲鳴を上げる声までも無くし、身体を何度も痙攣させてしまう。
胎の中から煮え滾るような熱い疼きが背筋まで抜け、アヌスが異物を求めて蠕動するだけでなく、ペニスまでもピクピクと反応を示す。
教えられ、覚えたばかりの愛撫に身体が流され、宮原は不安気に視線を揺らし、沢海を見詰める。

まだ不慣れな性行は未成熟な陰部をひりつかせ、痛みの強い快楽しか生まないのだと分かっていても、沢海は宮原を犯す為に半ば強制的に濃密な快楽を引き摺り出そうとする。

乱暴な指先が宮原のアヌスの中で蠢き、咄嗟に沢海の胸を押し、距離を取ろうとする。
だが、身体を離そうとする度に腰を抱え直され、抵抗される煩雑ささえも享楽として変えられ、簡単に捕まえられる。

密着した下腹に沢海の股間を押し付けられ、スラックス越しに勃起したペニスの膨らみをグリグリと擦り付けられる。
衣服の上からでも激しく隆起する太く、固い陰茎は宮原の薄桃色のペニスとは違い、そのあからさまな精力に羞恥が沸く。

「ふふっ…
ねえ…
もっと、広げてみてもいい?
立ったまま、オレのチンポ入れてみても、いい?」
「……やっ!やだっ!
無理っ!
やめて!
ーーーあっ!あぁっ!」

沢海は宮原の拒絶を意に介す事もなく、左足を大きく開かせると自らの腰骨に足を回させ、態と不安定な体勢を取らせる。
右足を軽く爪立てた状態で自らの身体を支える事になり、宮原は上肢のバランスが取れずに沢海の首元にしがみ付いてしまう。

「ほら、そんなに力、入れないで…
ーーー大丈夫。
さっきだって、指、入ったんだから。
…いい?
動かないで…」

興奮をしているのか宮原の耳元で沢海が口早に諭し、同時にハァハァと過呼吸のような息に犯される。

自堕落なセックスへと引き摺り込まれる手管に宮原は泥沼の情欲に落とされ、勝手に弛緩してしまう身体に狼狽えてしまい、どうする事も出来なく顔を背ける。
心も身体も甘く蕩ける程に上気させ、肌の上を滑る指先の感覚を待ち侘び、産毛が逆立つ。

身動ぐ度に勃起したペニスが揺れ、壊れた尿道口から精子を垂らし、お互いの下腹を宮原の真っ白な精液が汚していく。
その独特な粘つきと臭気に沢海は宮原の陰茎を軽く持ち上げると裏筋を亀頭から根本へと何度も摩り、緩む精管を引き上げる。

「…ちょっと、握ってて…
我慢、してみて」

宮原は沢海が命令をするまま自らのペニスを握ると尿道管の中を逆流していくようなむず痒さに堪える事が出来ず、そのまま陰茎を上下に擦ってしまう。
そして、包皮を剥き下ろし、雁首が張り出すと敏感な亀頭を夢中で捏ね、精管の中にこびり付く精子を搾り出す。

沢海は目の前で行われている本能的な自慰に耽る宮原にうっとりと見入ってしまう。

「ーーーもう、入れちゃうよ?」

既に沢海のスラックスを窮屈そうに押し上げているペニスはファスナーを引き下げると更に勃起を高め、下着から食み出そうとしている。
衣服を下ろす間もなく、先端まで血液が満ちるペニスがずるりと露わになり、重い頭を擡げる。

宮原は自身のペニスとは違う成熟した肉の形に視線を外すこともなく、その卑猥さに喉を鳴らしてしまう。
自分が求めていた事を沢海から与えられる行為に無意識に更なる深い快感を求め、満たされていく感情に甘い吐息が零れる。
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