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第1部
*いつもと同じ朝、いつもと違う朝
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変わらない日常の朝。
朝焼けの陽光が棚引く雲の中に翳る中、宮原は守衛室からサッカー部の部室の鍵を借り、小走りに建物内へ向かっていた。
部室へ続く通路沿いに天然芝のピッチがあり、朝露に湿る風が吹き抜け、宮原の頬を嫋やかに掠めていく。
遠くの空の隙間から鴉の鳴き声が聴こえ、細い日差しの眩しさに眸を閉じると時間の経過さえ忘れてしまいそうになる。
まだ肌寒い室内に入るとエアコンのスイッチを入れ、ベンチシートにリュックを置き、ゆっくりと一息を吐く。
無機質な程に整頓されている環境は、数十分後には個人の私物が散乱した見慣れた室内に変わっていくのだろう。
粛として声もない中、数時間前の耳元に残響する沢海の睦言が吐息と共に伝わる錯覚がある。
沢海の骨張った指先に身体の隅々を探られ、自分が知らずにいた発情の感覚を教え込まれ、貪欲な官能に突き落とされてた。
触れられる柔らかい温度と発せられる熱い湿度は沢海の手の中で擦れ、宮原の薄桃色のペニスを簡単に昂らせていく。
記憶が鮮明に蘇る度に全身を覆う火照るような重怠さに引き摺られ、下肢に煮え滾る射精感が広がり、ジクジクと下火に燻る疼きを覚える。
執拗に甚振られるように何度も、何度も繰り返され、勃起してしまう。
沢海の指先が肌理の上を滑り、愛撫を落としていくと体温を強制的に上げられ、感覚を鋭く敏感に反応していく。
「……はぁ……」
甘ったるさの残る溜息は宮原を現実を置き去りにし、身体の最奥まで刻まれている記憶を目覚めさせていく。
「…テーピング、しよ…」
宮原は気持ちを切り替えようと薄手のピステを脱ぎ、ボクサーパンツだけの姿になる。
その肢体は宮原の性感帯に直結する箇所でもあり、沢海に激しく愛された残痕が深く刻まれていた。
宮原は左右の腕を上げ、自分の肉体を注視してみると特に首筋、胸、内股を中心に酷い鬱血が残っている。
「…ったく、これじゃあ人前で着替えられないよ…」
トレーニング最中にシャツが捲れて見えてしまわないようにリュックの中からハイネックのコンプレッションシャツを取り出し、着替える。
持参してきたシャツの特質上、加圧の負荷によって生地が身体に密着し、骨格から筋肉の流線が浮かび上がる。
薄い胸筋の中央にぷっくりと腫れ上がる乳首が露骨に剥き出されてしまい、シャツに擦れてしまう。
擽られるようなむず痒さに腹部から手を入れ、シャツを引っ張るが、スパンデックスの固い裏地に乳首がどうしても当たってしまう。
「ーーーなんか、チクチクするなぁ…
あ!そうだ!」
宮原は再度、リュックの中からテーピングを取り出すと5cmくらいの長さを2本用意する。
そして、勃起した乳首を上から押さえ付け、ニプレスの代用として貼り付けてみる。
「…やっぱり、ヘン…だよな…」
生地に擦れる度に過剰に反応し、ツンと尖る乳首を目立たなくさせる為にテーピングは効果的なのかもしれない。
だが、肌にピッタリと粘着する事で突っ張るような違和感を覚え、感覚の不自然さに宮原はシャツを四方へ伸ばしたりしている。
宮原が悪戦苦闘してる最中、部室の扉が開き、眼鏡をかけた沢海が出入り口に立っているが、宮原は全く気付く様子はない。
沢海は「おはよう」と声を掛けてみるが、宮原は出入り口に対して背中を向けている所為か無視をされてしまう。
沢海は眼鏡を外し、制服のポケットに入れるとゆっくりと宮原の方へ歩き出す。
「ーーー悠……」
囁く吐息と共に宮原を背中から抱き締め、首筋に口唇を這わせると腹部で腕を交叉し、ぴったりと身体を寄せる。
温もりを分けてもらうような抱擁に沢海は陶然と酔いしれる。
項垂れるように俯いている衿足の髪の隙間から柔らかい頸が見え、蜜を吸う仕草で唇と舌で愛撫する。
「…うわっ!
誰だよっ!
ーーーやめ…ろって!」
突然の行為に宮原は激しく驚愕し、腕を振り上げようとするが背後から抱き竦められ、僅かな身動きでさえ取れずにいた。
辛うじて振り向くと変わらずに見惚れる程の眉目清秀な沢海の表情が見え、肩を撫で下ろす。
「なんだよ!沢海先輩かよっ!
ビックリした!
ーーーど、どうしたんだよ?」
沢海は宮原の問い掛けに応じる事はなく、宮原を離さないまま更に甘えるように首筋に顔を埋め、目を閉じている。
宮原は沢海の深く吐き出される呼吸の温かさを感じ、抵抗を止めて様子を伺う。
そして、腕の中で抱き締められる心地良さに自然と笑みが溢れ、頬を擽る沢海の髪を指先で梳いていく。
「…沢海先輩?
…大丈夫?…」
「ーーー悠……
……ごめん。
1人にして、ごめんね。
一緒にいたかったよ…
ずっと傍にいたかったよ…
ーーーごめんね…
好き……大好き……」
沢海は不安そうに酷く弱い声で訴えると顔を上げ、宮原と視線を合わせる。
宮原の眸を見詰めるとひとつ、ひとつを確かめるように宮原の紅潮した頬、艶のある唇、産毛の生える耳朶を弄る。
宮原も沢海のぎこちなさの残る行為に甘く翻弄され、沢海の与える全てを受け入れようと制服の裾を掴み、少しだけ引き寄せる。
「ーーー直哉……」
「・・悠……」
優しく触れてくる沢海の指が宮原の後頭部を支え、顎を上げられていくと宮原は待ち切れずに沢海の噛み締めている唇を奪う。
沢海の強張る口唇を解すように宮原は触れるだけの口付けを数度繰り返した後、舌を伸ばし、薄い唇の膨らみを潤していく。
弛緩していく頬が沢海の表情を柔らかく作ると宮原は隙間を開けてくれた口内へ舌をぬるりと差し入れる。
歯列を割り、滑る舌の感触を見付けると宮原は目蓋を震わせながら沢海の口内を犯そうと身体を擦り寄せていく。
沢海は宮原の背中に腕を回し、逸る心臓の鼓動をありのままに伝えていく。
力強く抱き締められる身体は独占欲を剥き出しにした優しい束縛のようで宮原は沢海に全てを委ね、真っ直ぐに沢海を見詰めた。
「ーーー目が覚めたら、直哉の部屋じゃなくて…
…直哉もいなくて…」
「…うん…」
「ひとり、だったんだよ…
ーーー寂しかったんだよ…」
「…うん、ごめんね…」
宮原は抑えていた心情を一切隠す事はせず、全て吐露し、必死に沢海に訴えていく。
「ーーー直哉……」
大好き…
・・・大好きだよ」
そして、繰り返し何度も、何度も伝えたい告白を沢海へ捧げ、宮原は沢海の身体を抱き締め返す。
自分を見失う程に引き裂かれても、自分が傷付く程に壊されても、自分の心と身体を蹂躙され、自暴自棄に狂う事があっても、もう決して憂慮に堪える事はない。
『大切な存在』は『大事な恋人』へと変わり、宮原自身にある不安定に軋む感情を瓦解していく。
重なり合う気持ちは求める事も、求められる事も強引に欲張り、改めて自分が我儘な性格なのだと自覚する。
「ねぇ。
ーーー悠…
朝、お母さんから何か言われた?」
「ん?朝に?
寝癖で頭が爆発しているわよって言われたけど?
ーーーなんで?」
「………………
…なんでもない…」
「なんだよ。
その笑い方!」
「ーーーなんでもないんだ…
……悠……
もう一回…
今度はオレから、キス、していい?」
沢海は素直に甘えると宮原と額を合わせ、鼻先を擦り合わせる。
「…しょうがないなぁ…
もう一回だけだよ?」
「ーーーうん」
宮原は居丈高な口調で沢海を諭すと幸せそうに口角を上げ、目を閉じて沢海の口付けを待つ。
胸元に手を置き、無防備に上向くと足りない身長差に爪立つ可愛らしい仕草に沢海は夢中で見入ってしまう。
眸を閉じていると長い睫毛が上気する頬に陰影を落とし、淡く染まる吐息が柔らかく溶けていく。
すると沢海はスラックスのポケットからスマートフォンを取り出し、消音設定にしたカメラを宮原に向ける。
沢海は宮原が快感を欲する甘く蕩けた表情をこっそりと撮影し、メモリー登録を確認すると何事もなかったかのように平然と振る舞う。
唇を重ねられる感触を待つ宮原の目蓋が我慢出来ずに開いていくと目尻を下げた沢海の笑顔が待ち受けていた。
「ーーー!!!
何だよっ!
しないのかよっ!」
「本当、素直で可愛いね」
写真を撮られた事に全く気付けなかった宮原は後日、沢海の待ち受け画面に大絶叫するのであった。
朝焼けの陽光が棚引く雲の中に翳る中、宮原は守衛室からサッカー部の部室の鍵を借り、小走りに建物内へ向かっていた。
部室へ続く通路沿いに天然芝のピッチがあり、朝露に湿る風が吹き抜け、宮原の頬を嫋やかに掠めていく。
遠くの空の隙間から鴉の鳴き声が聴こえ、細い日差しの眩しさに眸を閉じると時間の経過さえ忘れてしまいそうになる。
まだ肌寒い室内に入るとエアコンのスイッチを入れ、ベンチシートにリュックを置き、ゆっくりと一息を吐く。
無機質な程に整頓されている環境は、数十分後には個人の私物が散乱した見慣れた室内に変わっていくのだろう。
粛として声もない中、数時間前の耳元に残響する沢海の睦言が吐息と共に伝わる錯覚がある。
沢海の骨張った指先に身体の隅々を探られ、自分が知らずにいた発情の感覚を教え込まれ、貪欲な官能に突き落とされてた。
触れられる柔らかい温度と発せられる熱い湿度は沢海の手の中で擦れ、宮原の薄桃色のペニスを簡単に昂らせていく。
記憶が鮮明に蘇る度に全身を覆う火照るような重怠さに引き摺られ、下肢に煮え滾る射精感が広がり、ジクジクと下火に燻る疼きを覚える。
執拗に甚振られるように何度も、何度も繰り返され、勃起してしまう。
沢海の指先が肌理の上を滑り、愛撫を落としていくと体温を強制的に上げられ、感覚を鋭く敏感に反応していく。
「……はぁ……」
甘ったるさの残る溜息は宮原を現実を置き去りにし、身体の最奥まで刻まれている記憶を目覚めさせていく。
「…テーピング、しよ…」
宮原は気持ちを切り替えようと薄手のピステを脱ぎ、ボクサーパンツだけの姿になる。
その肢体は宮原の性感帯に直結する箇所でもあり、沢海に激しく愛された残痕が深く刻まれていた。
宮原は左右の腕を上げ、自分の肉体を注視してみると特に首筋、胸、内股を中心に酷い鬱血が残っている。
「…ったく、これじゃあ人前で着替えられないよ…」
トレーニング最中にシャツが捲れて見えてしまわないようにリュックの中からハイネックのコンプレッションシャツを取り出し、着替える。
持参してきたシャツの特質上、加圧の負荷によって生地が身体に密着し、骨格から筋肉の流線が浮かび上がる。
薄い胸筋の中央にぷっくりと腫れ上がる乳首が露骨に剥き出されてしまい、シャツに擦れてしまう。
擽られるようなむず痒さに腹部から手を入れ、シャツを引っ張るが、スパンデックスの固い裏地に乳首がどうしても当たってしまう。
「ーーーなんか、チクチクするなぁ…
あ!そうだ!」
宮原は再度、リュックの中からテーピングを取り出すと5cmくらいの長さを2本用意する。
そして、勃起した乳首を上から押さえ付け、ニプレスの代用として貼り付けてみる。
「…やっぱり、ヘン…だよな…」
生地に擦れる度に過剰に反応し、ツンと尖る乳首を目立たなくさせる為にテーピングは効果的なのかもしれない。
だが、肌にピッタリと粘着する事で突っ張るような違和感を覚え、感覚の不自然さに宮原はシャツを四方へ伸ばしたりしている。
宮原が悪戦苦闘してる最中、部室の扉が開き、眼鏡をかけた沢海が出入り口に立っているが、宮原は全く気付く様子はない。
沢海は「おはよう」と声を掛けてみるが、宮原は出入り口に対して背中を向けている所為か無視をされてしまう。
沢海は眼鏡を外し、制服のポケットに入れるとゆっくりと宮原の方へ歩き出す。
「ーーー悠……」
囁く吐息と共に宮原を背中から抱き締め、首筋に口唇を這わせると腹部で腕を交叉し、ぴったりと身体を寄せる。
温もりを分けてもらうような抱擁に沢海は陶然と酔いしれる。
項垂れるように俯いている衿足の髪の隙間から柔らかい頸が見え、蜜を吸う仕草で唇と舌で愛撫する。
「…うわっ!
誰だよっ!
ーーーやめ…ろって!」
突然の行為に宮原は激しく驚愕し、腕を振り上げようとするが背後から抱き竦められ、僅かな身動きでさえ取れずにいた。
辛うじて振り向くと変わらずに見惚れる程の眉目清秀な沢海の表情が見え、肩を撫で下ろす。
「なんだよ!沢海先輩かよっ!
ビックリした!
ーーーど、どうしたんだよ?」
沢海は宮原の問い掛けに応じる事はなく、宮原を離さないまま更に甘えるように首筋に顔を埋め、目を閉じている。
宮原は沢海の深く吐き出される呼吸の温かさを感じ、抵抗を止めて様子を伺う。
そして、腕の中で抱き締められる心地良さに自然と笑みが溢れ、頬を擽る沢海の髪を指先で梳いていく。
「…沢海先輩?
…大丈夫?…」
「ーーー悠……
……ごめん。
1人にして、ごめんね。
一緒にいたかったよ…
ずっと傍にいたかったよ…
ーーーごめんね…
好き……大好き……」
沢海は不安そうに酷く弱い声で訴えると顔を上げ、宮原と視線を合わせる。
宮原の眸を見詰めるとひとつ、ひとつを確かめるように宮原の紅潮した頬、艶のある唇、産毛の生える耳朶を弄る。
宮原も沢海のぎこちなさの残る行為に甘く翻弄され、沢海の与える全てを受け入れようと制服の裾を掴み、少しだけ引き寄せる。
「ーーー直哉……」
「・・悠……」
優しく触れてくる沢海の指が宮原の後頭部を支え、顎を上げられていくと宮原は待ち切れずに沢海の噛み締めている唇を奪う。
沢海の強張る口唇を解すように宮原は触れるだけの口付けを数度繰り返した後、舌を伸ばし、薄い唇の膨らみを潤していく。
弛緩していく頬が沢海の表情を柔らかく作ると宮原は隙間を開けてくれた口内へ舌をぬるりと差し入れる。
歯列を割り、滑る舌の感触を見付けると宮原は目蓋を震わせながら沢海の口内を犯そうと身体を擦り寄せていく。
沢海は宮原の背中に腕を回し、逸る心臓の鼓動をありのままに伝えていく。
力強く抱き締められる身体は独占欲を剥き出しにした優しい束縛のようで宮原は沢海に全てを委ね、真っ直ぐに沢海を見詰めた。
「ーーー目が覚めたら、直哉の部屋じゃなくて…
…直哉もいなくて…」
「…うん…」
「ひとり、だったんだよ…
ーーー寂しかったんだよ…」
「…うん、ごめんね…」
宮原は抑えていた心情を一切隠す事はせず、全て吐露し、必死に沢海に訴えていく。
「ーーー直哉……」
大好き…
・・・大好きだよ」
そして、繰り返し何度も、何度も伝えたい告白を沢海へ捧げ、宮原は沢海の身体を抱き締め返す。
自分を見失う程に引き裂かれても、自分が傷付く程に壊されても、自分の心と身体を蹂躙され、自暴自棄に狂う事があっても、もう決して憂慮に堪える事はない。
『大切な存在』は『大事な恋人』へと変わり、宮原自身にある不安定に軋む感情を瓦解していく。
重なり合う気持ちは求める事も、求められる事も強引に欲張り、改めて自分が我儘な性格なのだと自覚する。
「ねぇ。
ーーー悠…
朝、お母さんから何か言われた?」
「ん?朝に?
寝癖で頭が爆発しているわよって言われたけど?
ーーーなんで?」
「………………
…なんでもない…」
「なんだよ。
その笑い方!」
「ーーーなんでもないんだ…
……悠……
もう一回…
今度はオレから、キス、していい?」
沢海は素直に甘えると宮原と額を合わせ、鼻先を擦り合わせる。
「…しょうがないなぁ…
もう一回だけだよ?」
「ーーーうん」
宮原は居丈高な口調で沢海を諭すと幸せそうに口角を上げ、目を閉じて沢海の口付けを待つ。
胸元に手を置き、無防備に上向くと足りない身長差に爪立つ可愛らしい仕草に沢海は夢中で見入ってしまう。
眸を閉じていると長い睫毛が上気する頬に陰影を落とし、淡く染まる吐息が柔らかく溶けていく。
すると沢海はスラックスのポケットからスマートフォンを取り出し、消音設定にしたカメラを宮原に向ける。
沢海は宮原が快感を欲する甘く蕩けた表情をこっそりと撮影し、メモリー登録を確認すると何事もなかったかのように平然と振る舞う。
唇を重ねられる感触を待つ宮原の目蓋が我慢出来ずに開いていくと目尻を下げた沢海の笑顔が待ち受けていた。
「ーーー!!!
何だよっ!
しないのかよっ!」
「本当、素直で可愛いね」
写真を撮られた事に全く気付けなかった宮原は後日、沢海の待ち受け画面に大絶叫するのであった。
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