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第1部

目が覚めて

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ふわふわとした暖かい温もりに全身を包まれ、その心地良さに宮原は首を傾け、頬を擦り付けるように寄せる。

宮原は自分の唇と目元に柔らかい何かが何度も触れている感触が分かり、左右に首を振り、時折顔を顰めてしまう。
外耳から首筋に何かが線を描くように這い、擽ったさに肩を竦めると体熱のある方向へ引き寄せられ、身体を仰向けに転がされる。

閉じた目蓋の裏から影が差し込み、呼吸を遮るように何かに口唇を割られ、舌を絡められる。
そして、手荒く蹂躙するように口腔内を掻き回され、口元から溢れた涎が垂れてしまう。
口蓋を舐められ、舌を吸われる気持ち良さに宮原は顎を上げ、更に快感を求めようと無意識に口を開け、何かを待ち侘びる。

浅い意識の中で求めていた感触が直ぐに訪れ、もっと欲しいと甘えるような喘ぎ声が漏れてしまう。
甲高い声音は無機質な室内に響き、自分の声に驚いた宮原はパチッと目を覚ましてしまう。

塞がれていた意識が現実に戻り、見開くように開眼すると宮原の鼻の先の距離で沢海の顔を直視してしまい、声を上擦らせ、驚いてしまう。

「ーーーう…うわぁっ!
…んぅっ……ん…」

沢海は苦笑いの表情のまま宮原の唾液塗れの上唇を食むと歯列をなぞり、凝り固まった舌を引き摺り出す。
混乱をした状態のまま深い口付けを求められ、息継ぎのやり方さえも忘れてしまった宮原は沢海の裸の胸を押し、弱く抵抗をする。

「……え?……
…沢海、先輩??
な、何?何で?」
「おはよ」
「ーーーざい…ま、す…
…あ、あの…
起き抜けから…
…すっごく…
いや、とっても、心臓に悪いんですけど…」

見惚れる程の笑顔で挨拶をする沢海とは対照的に宮原は顔を真っ赤に染めたまま俯いてしまう。
沢海は下を向く宮原の顎を長い指で掬い上げると悪戯をするように頬に軽く『目覚めのキス』をする。

「王子様のキスで起きましたか?」

沢海本人からすると自虐的で自惚れた台詞を流暢に話しているつもりだが、実際に外見だけは秀麗さの滲み出る端正な顔立ちでもあるので質が悪い。
宮原は怪訝そうな表情のまま未だに慣れない沢海との口付けに鼓動を走らせ、いつまでも落ち着かずに体温を上げてしまう。

沢海は宮原の紅潮する顔を隠す前髪を掻き上げ、泣き腫らした目蓋を見付けると、その膨らんだ箇所を指でなぞる。
睫毛を湿らす涙を払い、優しく触れてくる沢海の指を更に強請り、充血した目を瞑る。

「昨日、そのまんまで寝ちゃったから…
シャワー、浴びてこうよ…」
「ーーーあ、はい…」

沢海は自分の身体にも掛けられたシーツの存在に気付くと分け与えてくれた温もりに笑みが溢れる。
そのまま揺蕩いながら微睡む時間を宮原と一緒に過ごしていたい、そんな2人だけの自堕落な気持ちを辛うじて収めていく。

シーツを捲り、全裸で立ち上がると沢海は宮原の方へ手を伸ばし、そのまま引き寄せる。
すると宮原の肩に纏われていたシーツが腰元で撓み、上肢が剥き出しに現れてしまう。
胸を中心に脇腹、二の腕、手首と赤い鬱血が残り、如何にも事後の形跡なのだと分かり、宮原は羞恥心に駆られてしまう。

宮原は下肢に巻き付くシーツを抑えながらフローリングの床に足を着き、立ち上がろうとするが両足の感覚が鈍り、擦れてしまう。
当然、腰が抜けたように前屈みに倒れてしまい、沢海の腕の中ですっぽりと抱えられてしまう。

「…わっ!」
「ーーーっと、やっぱりね。
…よいしょっと」

沢海は宮原をシーツに包み直しながら、そのまま軽々と肩に持ち上げてしまう。

「…ちょっ、と!待ってってば!!
また、こうやって抱えるし!!
ーーー降ろせって!」
「立てないのに無理しないの。
お姫様抱っこしたいんだけど、それだと廊下を歩けないから、さ。
お風呂場に行くよ」
「いいって!
歩けるから!」
「ーーーこら!大人しくしろっ!」

沢海に身体を抱えられているにも拘らず、宮原は沈溺する人のように両手足をバタバタと動かし、沢海の悪手から逃れようとする。
流石に全身を使って必死に暴れる宮原を支える事は容易ではなく、狭い廊下でバランスを崩してしまいそうになる。

「馬鹿っ!
危ない!」
「ーーー!!!ーーー」

沢海はシーツの隙間から覗く宮原の剥き出しの小さい尻を見付けると、折檻のようにペチンと叩く。
何気なく叩いてしまったとはいえ、現状の宮原にとっては身体の奥底まで重く響く疼痛でもあり、声にならない悲鳴を上げてしまう。

一瞬で拘縮した宮原の下肢に沢海は今更に気が付き、「…あ、ごめん…」と安穏とした表情で謝罪をする。

「ーーー沢海先輩……
今の絶対、狙っていただろ…」
「宮原も悪い」
「……もう…分かったよ…
…ごめんなさい…」

宮原は諦めたようにぐったりと四肢を弛緩させると沢海に再度両手で抱え直され、浴室へと強制連行されていく。

沢海は片足で乱暴に蹴り飛ばすように扉を開けるとタイルの床にゆっくりと宮原を下ろす。
その瞬間、臀部に針を刺したような刺激が走り、宮原は脊髄反射のように身体を竦ませ、息を詰まらせてしまう。

「ーーー!!ーーー
…も、ちょっ…と・・・ゆっくり…」
「ごめん…
やっぱり、痛かった…よね?
…ごめんね…
まだ、痛い?」

苦悶する宮原の顔を心配そうに覗き込み、途端に悄気返る沢海に宮原も逆上する気力が失せてしまう。
その要因として日常における完璧なまでの身性ではなく、反比例する程の『怯弱な沢海先輩』を目の当たりにし、可笑しくなってしまう。

宮原は勝手に緩む頬を辛うじて引き締め、笑みを誤魔化す。

「ーーーいいよ…別に…
沢海先輩だから…」
「…ごめんね…」

途端に音の止む時間に衣擦れだけが響き、宮原は呼吸を沈めると下肢にシーツを巻き付けたまま、上目遣いで沢海を見詰める。

宮原は薄暗い室内ではなく、煌々と照らされる光りの下で素肌を曝け出し、居た堪れなさにシーツを引き寄せてしまう。
火照った表情のまま一度、気怠そうに吐息を漏らすと沢海が喉を鳴らしたのが分かった。

「ーーー?…
沢海先輩?」

沢海は返事をする事もなくレインシャワーのコックを捻り、シーツに包まれたままの宮原の全身を流していく。
そして、シャンプーを手に取り、泡立てると宮原の黒髪に触れる。

「…目、閉じて。
頭、洗うよ」

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