【R18】君に触れる、全てのものから

すぐる

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第1部

煙草

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落ち着かない身体を必死に抑えながら宮原は校舎の中に入り、廊下を走っていく。

心音が鼓膜の中までドクドクと響き、そのまま胸を貫かれるような痛みを伴いながら、宮原の股間を甘く痺れさせる。

トレーニングゲーム用の練習着からでも分かる程に陰茎が熱を持って勃ち上がり、更なる悦楽を求めている。

自分でも分からない深い奥底で火種がずっと燻り続けていたのか、宮原の身体は一度火が降り注ぐと抑え切れない欲望が瞬時に生まれる。

時折、自分の感情でさえも置き去りにされる程、貪欲な自分の身体が存在する。
頭の中で考えるより先に身体が反応し、堪え切れなくなる程、我慢が出来なくなってしまう。

宮原は火照る顔を左腕で伏せ、気の逸るままトイレに駆け込むと個室のドアを後ろ手に閉めた。

施錠の金属音が聞こえると、宮原は1人だけの空間に少し安心したのか、扉を背にしてズルズルと床に座り込んでしまう。

「ーーーはぁ……」

自分の両肩を握り締めるようにして掴み、腹の底から深い溜息を吐く。

『…いい声…
もっと、もっと聞かせて……
ーーー宮原…』

記憶として覚えている沢海の低い声、身体に刻み込まれている沢海の温かい体温、耳元にその熱量を伝えてくる沢海の激しい鼓動を思い出す。

そして、今、沢海に触れられていたばかりの下肢がまた雁首を持ち上げ、快感の波に溺れそうになる。

「………沢海、先輩…」
ーーー沢海先輩…」

ふいに奥の個室の方向からカチッカチッと機械的な物音が聞こえてくる。

実習棟の校舎の端にあるトイレは運動場から最も近く、学校外との練習試合の際に相手チームが実習室で控室も兼ねる場合や、部室のトイレが故障で使用出来なかった時に利用していた。

それ故に実習授業、部活が終わると人の気配が全くなくなり、当然利用者もいなくなる。

宮原は焦燥感に駆られた状態でトイレに駆け込んでしまい、他の個室には誰もいないものだと勝手に思い違いをしていた。
完全に気を抜いて油断をしていた為に何も考える事もないまま、自分の心の中にあった人の名前、沢海の名前をそのまま吐露してしまった。

艶めいた声音で沢海の名前を呼んでしまった事を思い出し、宮原は今更に動揺してしまい、掻き消すように水洗のレバーを押した。

水音に紛れて息を整え、ゆっくりと呼吸をしながら逸る気持ちを飲み込んでいく。

暫くすると、えがら臭い匂いと紫煙がトイレの中に広がってくる。

『…煙草?』

慣れない息苦しさに宮原は個室を出ると「ケホッ」と小さく咳き込んでしまう。

宮原は視線だけ動かすと、やはり出入り口から一番奥の個室が使用中になっている事に気付く。
煙草の煙は明らかにその場所から漂ってきていた。

宮原は顔を顰めると足早に洗面台に向い、蛇口を捻り、冷たい水で宮原は手を洗う。

少しずつだが癒えてきた指の傷は未だに完治はしておらず、細かい傷跡から水流が沁み込んでくる。
薄い皮膚が捲れ、その下からジワリと血が滲み、疼くような痛みに宮原は顔を曇らせた。

水を止め、ゆっくりと顔を上げると何か視線を感じ、目の前の鏡に視点を合わせる。

その鏡の中を覗くと自分の背後に誰かが立ち尽くしているのが映り、宮原の背筋が一気に粟立つ。

「ーーー!ーーー」

気が付かないうちにその男の気配が直ぐ後ろにあり、物音でさえも消され、突然の出来事に宮原は驚き、後ろを振り向く。

そこには自分の見知らない年上の生徒、野球部のユニフォームを着た男がいた。

宮原は隠し切れない動揺と怪訝そうな顔を表面に貼り付け、自分の身長よりも背の高いその男を見上げる。

その男は舐めるような視線で宮原を下から上まで見詰めると、ニヤリと口唇の端を上げた。

「よぉ。
どっかで見た事あるかと思ったら、サッカー部のお姫様じゃん」

以前から気にしている自分の容姿に対して、馬鹿にしたように揶揄され、宮原はその男を睨み付ける。

宮原の生意気な行動を不快に感じたのか、その男は宮原の顎を片手で掴むと、上を向かせる。

宮原はその手を邪魔そうに追い払い、顔を背け、男の無骨な指から逃れるが、今度は宮原の耳元から顎に手を掛け、強引に掴んでくる。
そうすると必然的に上を向くようになり、男の視線を正面から合わせるようにされる。

「おっかねー顔。
可愛い顔、台無し」

至近距離で男の下卑た笑いをされ、タバコの異臭がする男の口に宮原は眉を顰める。

「ーーー煙草、校則違反ですよ」

宮原の発した声が嘲るように低く、その男の感情を逆撫でしていく。

「……っせーなぁ…
真面目かよ。
コレは気分転換なんだよ」
「この事は野球部の顧問の先生に報告しておきます」
「あぁ?
お前、何フザけた事、言っちゃってんの?」

話す会話の内容も軽薄さを拭えず、ただ大声を張り上げるだけの高圧的な態度に辟易する。

暴力を振り翳すような素振りで全てを解決する頭の悪い行動に屈したくなく、宮原は奥歯を噛み締める。

だが、言葉の通じない相手をしたくないという拒絶が反射的に宮原の身体を後退りさせてしまう。

男はジリジリとお互いの距離を取る宮原を可笑しそうに眺めていると、横並びに整列する洗面台の僅かなスペースに宮原の身体を追い詰めた。

コンクリートの壁に縫い留められ、宮原は直感的に『何か』別の恐怖を感じている事を男に悟られないように、去勢を張る。

「何なんですか!」

近付いてくる男の身体を除けようと振り上げた左肘を簡単に押さえ付けられ、宮原の頭上で左手を捻り上げる。

「痛っ!
離せよ!
…痛ぇだろ!」

男に罵声を浴びせる宮原の元に、思っても見なかった言葉が返ってくる。

「生意気な事、言っているとまた犯しちゃおうかな?」


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