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第1部
キスして、キスされて
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「沢海!
監督がトップチームだけ、ミーティングするってよ」
ピッチのベンチ前で念入りに身体のストレッチをしていたキーパーの大塚が、コーナーアーク付近にいる沢海を大声で呼ぶ。
沢海は宮原から視線を外すと既にベンチ前では佐伯監督とキャプテンの藤本がトップチームの他のメンバーにミーティングを始めている。
沢海は自分の胸元に凭れる宮原の両肩をポンと叩くとゆっくりと身体を引き起こし、腰を屈めて宮原の顔を覗き込む。
宮原はユニフォームの左袖で濡れた目元を擦ると、至近距離で沢海と視線を合わせ、沢海の色素の薄い眸を見詰める。
夕闇に暮れ始める空がオレンジ色の色彩を選び、光彩を帯びているその色が沢海の眸の中で、ガラス玉のように輝いている。
簡単に壊れてしまいそうな儚い色を宮原は大切に守りたくて、その眸の存在に溶けていく。
ゆらゆらと揺れる沢海の眸の造形に宮原は吸い込まれ、沢海のユニフォームの裾を無意識に掴んだ。
『沢海先輩の眸、太陽に反射してキレイだな…
キレイだ、なんて、同じ男に使うモノじゃないけど。
でも、本当にキレイだな…
キス、してほしいな…
キスしたいな……
ーーーキスしたら、ダメかな…』
宮原はふいに、心の中で呟いた。
「ダメだよ」
「ーーーん?」
宮原の内心を見透かしたような沢海の声音は自分の心の中の声音と交わり、2人の間では聞こえる筈もないだが、宮原は不思議そうに首を傾げた。
沢海は無垢な表情のままじっと自分を見詰めている宮原から距離を取ると、甘い意地悪をしてやろうと、ニヤニヤと口元を歪める。
「今、やらしい事、考えていただろ?」
「ーーーえ?ーーー」
「あとで宮原がしたい事、いっぱいしてやるから。
ーーー続きは後でな」
沢海は宮原の下唇の輪郭の膨らみを親指でなぞると、さり気なく宮原にウィンクをする。
「…あ、あの……それは…
ーーーやらしい事、なんて…
考えてなんかーーーい、ない……んですけど…」
「しどろもどろで答えられても全然説得力ない…」
人に対して嘘で誤魔化す事もない、人に無駄な隠し事も出来ない宮原は、その場を取り繕ってみせるが、明らかに動揺を隠しきれていない。
「宮原ってさ、オレからキスする時は緊張しているみたいだけど、自分からキスしたい時は意外に大胆だよな」
「………そ…そうなのかな?」
「さっきだってさ…」
沢海のユニフォームを掴んでいた宮原の左手の上に自分の手を重ね、オレンジ色の虹彩を映していた眸がスッと閉じられていく。
捉えられた手を柔らかく握られ、少しだけ口元が上がった沢海の唇が近付いてくる。
宮原が望んだ『キス』にも関わらず、やはり沢海の存在を近くに感じられる距離にまで詰められると、宮原は首を竦めてしまう。
「おいっ!沢海!
ミーティング始めるぞ!」
痺れを切らした大塚がもう一度大声で沢海を呼ぶ。
「ーーー残念…」
お互いの重ねた手を沢海は外すと、まだ生傷の残る宮原の指に自分の口唇に軽く押し付け、直ぐにその手を離す。
無条件で宮原を癒していく沢海の存在は、その行為のひとつひとつが魔法のように宮原を虜にしていく。
「すみません!
今行きます!」
流石の沢海も佐伯監督の視線を感じたのか、急いでベンチ前に走っていく。
ダッシュで走りながら沢海は宮原に振り向き、声を掛ける。
「宮原、部室で待ってて。
一緒に帰ろう」
「ーーーは、はい」
沢海はベンチ前にいる監督を中心とした人の輪の中に入ると、トップチームのミーティングに参加した。
監督がトップチームだけ、ミーティングするってよ」
ピッチのベンチ前で念入りに身体のストレッチをしていたキーパーの大塚が、コーナーアーク付近にいる沢海を大声で呼ぶ。
沢海は宮原から視線を外すと既にベンチ前では佐伯監督とキャプテンの藤本がトップチームの他のメンバーにミーティングを始めている。
沢海は自分の胸元に凭れる宮原の両肩をポンと叩くとゆっくりと身体を引き起こし、腰を屈めて宮原の顔を覗き込む。
宮原はユニフォームの左袖で濡れた目元を擦ると、至近距離で沢海と視線を合わせ、沢海の色素の薄い眸を見詰める。
夕闇に暮れ始める空がオレンジ色の色彩を選び、光彩を帯びているその色が沢海の眸の中で、ガラス玉のように輝いている。
簡単に壊れてしまいそうな儚い色を宮原は大切に守りたくて、その眸の存在に溶けていく。
ゆらゆらと揺れる沢海の眸の造形に宮原は吸い込まれ、沢海のユニフォームの裾を無意識に掴んだ。
『沢海先輩の眸、太陽に反射してキレイだな…
キレイだ、なんて、同じ男に使うモノじゃないけど。
でも、本当にキレイだな…
キス、してほしいな…
キスしたいな……
ーーーキスしたら、ダメかな…』
宮原はふいに、心の中で呟いた。
「ダメだよ」
「ーーーん?」
宮原の内心を見透かしたような沢海の声音は自分の心の中の声音と交わり、2人の間では聞こえる筈もないだが、宮原は不思議そうに首を傾げた。
沢海は無垢な表情のままじっと自分を見詰めている宮原から距離を取ると、甘い意地悪をしてやろうと、ニヤニヤと口元を歪める。
「今、やらしい事、考えていただろ?」
「ーーーえ?ーーー」
「あとで宮原がしたい事、いっぱいしてやるから。
ーーー続きは後でな」
沢海は宮原の下唇の輪郭の膨らみを親指でなぞると、さり気なく宮原にウィンクをする。
「…あ、あの……それは…
ーーーやらしい事、なんて…
考えてなんかーーーい、ない……んですけど…」
「しどろもどろで答えられても全然説得力ない…」
人に対して嘘で誤魔化す事もない、人に無駄な隠し事も出来ない宮原は、その場を取り繕ってみせるが、明らかに動揺を隠しきれていない。
「宮原ってさ、オレからキスする時は緊張しているみたいだけど、自分からキスしたい時は意外に大胆だよな」
「………そ…そうなのかな?」
「さっきだってさ…」
沢海のユニフォームを掴んでいた宮原の左手の上に自分の手を重ね、オレンジ色の虹彩を映していた眸がスッと閉じられていく。
捉えられた手を柔らかく握られ、少しだけ口元が上がった沢海の唇が近付いてくる。
宮原が望んだ『キス』にも関わらず、やはり沢海の存在を近くに感じられる距離にまで詰められると、宮原は首を竦めてしまう。
「おいっ!沢海!
ミーティング始めるぞ!」
痺れを切らした大塚がもう一度大声で沢海を呼ぶ。
「ーーー残念…」
お互いの重ねた手を沢海は外すと、まだ生傷の残る宮原の指に自分の口唇に軽く押し付け、直ぐにその手を離す。
無条件で宮原を癒していく沢海の存在は、その行為のひとつひとつが魔法のように宮原を虜にしていく。
「すみません!
今行きます!」
流石の沢海も佐伯監督の視線を感じたのか、急いでベンチ前に走っていく。
ダッシュで走りながら沢海は宮原に振り向き、声を掛ける。
「宮原、部室で待ってて。
一緒に帰ろう」
「ーーーは、はい」
沢海はベンチ前にいる監督を中心とした人の輪の中に入ると、トップチームのミーティングに参加した。
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