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第1部
甘えん坊でもいいですか?
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「ーーー目が腫れているな…」
沢海が宮原の顔を覗き込み、涙の跡がまだ残る腫れぼったい目蓋を人差し指で撫でる。
沢海の骨張った長い指が壊れ物に触れる手付きで目元に触れ、宮原はゆっくりと目を閉じる。
治癒をする行為のように沢海の唇が宮原の睫毛の先に触れていく。
何度も降り注ぐ口付けに宮原は照れ臭さに首を竦めて、「もう、止めろってば…」と沢海の胸元を突っ撥ねてしまう。
至近距離で見詰める沢海の顔が苦笑いを浮かべ、宮原の耳元に掠れて呟く。
「そろそろ、起きようか…」
「ーーーうん…」
愛しむような沢海の視線を真っ直ぐに受け、宮原は自分の目線をどうすればいいのか分からなくなってしまい、狼狽えてしまう。
沢海はベットの上で上半身を起き上がらせると、甘く痺れる誘惑を振り切るように、2人の身体に掛かっていた布団を無造作に捲る。
当然、お互いの全裸の姿を目の当たりにしてしまい、数分前までの情事を思い出してしまう。
沢海は気怠そうな宮原の身体に視線を落とすと、紅潮した頬と同じように染まる宮原の唇を見詰めてしまう。
宮原は少し汗ばんでいる沢海の身体に視線を落とすと、半立ちのペニスがバスタオルの隙間から覗き、慌てて視線を外す。
何事もなかったかのようにしていればいいのかもしれないが、その普段通りというのが一体どのようにしていたのか分からなくなってしまう。
今更ながらに羞恥を感じ、狭いベットの上でお互いに距離を取ってしまう。
無音の部屋に朝日の日差しが入り込み、薄暗い部屋を明るい色に変えていく。
朝方の静けさに鼓膜が僅かな物音を拾い、感覚を研ぎ澄ましていく。
沢海が時間の経過に堪えきれずに、口の端の笑みを隠す。
「……なんか、宮原の事、意識してしまったら
ーーーオレ、今頃になって緊張しているんだけど…」
「え?……
……オレの事?意識って?」
沢海の素直な自覚に宮原はその意味が分からず、首を傾げてもう一度聞き直す。
視界の中に入り込む宮原の小動物のような動作に沢海の両腕が伸びる。
沢海は宮原の後頭部を押さえると自分の方へ引き寄せ、お互いの視線を真っ直ぐに合わせる。
「オレが宮原を好きっていう……いや、愛してるっていう事と…
ーーー宮原がオレを好きっていう事。
ねぇ、宮原は……オレの事、愛してる?」
突然、再確認するように真正面から沢海に告白をされ、そしてその返答を求められる。
覿面に顔を真っ赤にした宮原は沢海のように饒舌に言葉が続かず、下を向いて黙り込んでしまう。
「ーーーオレの事、どう思っている?」
俯いたまま言葉を懸命に探す宮原の癖の付いた黒髪を、沢海は指で手持ち無沙汰にくるくると弄ぶ。
宮原が自分の声で『愛している』と唇が形を作り、囁くのを待ち、経過する時間を楽しむ。
宮原がベットの中で覚えた『好き』の表現方法ではなく、『愛している』の表現方法を宮原から教えてもらう。
「ーーーーあーーーーっ!!
…やっべぇ!!」
甘い雰囲気を一気に台無しにしてしまう宮原の的外れな声は、沢海の求めていた『愛している』の表現方法とは大分かけ離れ、流石に呆れ返ってしまう。
「ーーーったく…
もう……一体、何だよ…」
突然、宮原がベットから慌てて降りようと上体を起こすが、腰元に掛けられていたバスタオルが絡まり、バランスを崩してしまう。
身体の重心を保つ事が出来ずに顔面から床に転げ落ちそうになり、咄嗟の判断で沢海が宮原の肩を引き寄せる。
「うわっ!」
「ーーーっと!
…危ねぇ…」
間一髪で沢海が宮原を抱き止め、その腕の中に優しく包まれる。
宮原の身体を反転させてベットに引き戻すと、眉間に深く皺を寄せている硬い表情が前髪の隙間から見え、沢海は宮原を落ち着かせるようにゆっくりと呟く。
「ーーーどうしたんだよ」
「オレ…家に外泊の連絡していなかった……」
蒼白な面持ちで家族に心配を掛けてしまっている事に宮原は不安になってしまう。
対照的に沢海は呑気に宮原の頬に唇を寄せるとペロリと舌で舐め、一瞬目を閉じた合間にまた軽く口付けをする。
「…んっ!…ちょっ……と……」
「ーーーあぁ、その事?
大丈夫だよ」
沢海は全て終わったような事後報告の形で宮原に話し始める。
「昨日のうちに藤本から宮原の自宅の電話番号を聞いて、お前の母親に連絡しておいたよ」
「ーーーは??」
唖然とする宮原の表情に沢海はニヤリと笑うと、宮原の母親の声真似をするように演技をする。
「うちの悠がご迷惑を掛けていませんか?
悠は根っからの甘えん坊なので、粗相があったら叱って下さいね、ってさ。
ーーーねぇ?
甘えん坊の悠くん」
宮原は悪戯に揶揄われ、沢海の胸の中に自分の顔を押し付け、声を上げる。
「ーーーん~もう!母さんってば!」
沢海が宮原の顔を覗き込み、涙の跡がまだ残る腫れぼったい目蓋を人差し指で撫でる。
沢海の骨張った長い指が壊れ物に触れる手付きで目元に触れ、宮原はゆっくりと目を閉じる。
治癒をする行為のように沢海の唇が宮原の睫毛の先に触れていく。
何度も降り注ぐ口付けに宮原は照れ臭さに首を竦めて、「もう、止めろってば…」と沢海の胸元を突っ撥ねてしまう。
至近距離で見詰める沢海の顔が苦笑いを浮かべ、宮原の耳元に掠れて呟く。
「そろそろ、起きようか…」
「ーーーうん…」
愛しむような沢海の視線を真っ直ぐに受け、宮原は自分の目線をどうすればいいのか分からなくなってしまい、狼狽えてしまう。
沢海はベットの上で上半身を起き上がらせると、甘く痺れる誘惑を振り切るように、2人の身体に掛かっていた布団を無造作に捲る。
当然、お互いの全裸の姿を目の当たりにしてしまい、数分前までの情事を思い出してしまう。
沢海は気怠そうな宮原の身体に視線を落とすと、紅潮した頬と同じように染まる宮原の唇を見詰めてしまう。
宮原は少し汗ばんでいる沢海の身体に視線を落とすと、半立ちのペニスがバスタオルの隙間から覗き、慌てて視線を外す。
何事もなかったかのようにしていればいいのかもしれないが、その普段通りというのが一体どのようにしていたのか分からなくなってしまう。
今更ながらに羞恥を感じ、狭いベットの上でお互いに距離を取ってしまう。
無音の部屋に朝日の日差しが入り込み、薄暗い部屋を明るい色に変えていく。
朝方の静けさに鼓膜が僅かな物音を拾い、感覚を研ぎ澄ましていく。
沢海が時間の経過に堪えきれずに、口の端の笑みを隠す。
「……なんか、宮原の事、意識してしまったら
ーーーオレ、今頃になって緊張しているんだけど…」
「え?……
……オレの事?意識って?」
沢海の素直な自覚に宮原はその意味が分からず、首を傾げてもう一度聞き直す。
視界の中に入り込む宮原の小動物のような動作に沢海の両腕が伸びる。
沢海は宮原の後頭部を押さえると自分の方へ引き寄せ、お互いの視線を真っ直ぐに合わせる。
「オレが宮原を好きっていう……いや、愛してるっていう事と…
ーーー宮原がオレを好きっていう事。
ねぇ、宮原は……オレの事、愛してる?」
突然、再確認するように真正面から沢海に告白をされ、そしてその返答を求められる。
覿面に顔を真っ赤にした宮原は沢海のように饒舌に言葉が続かず、下を向いて黙り込んでしまう。
「ーーーオレの事、どう思っている?」
俯いたまま言葉を懸命に探す宮原の癖の付いた黒髪を、沢海は指で手持ち無沙汰にくるくると弄ぶ。
宮原が自分の声で『愛している』と唇が形を作り、囁くのを待ち、経過する時間を楽しむ。
宮原がベットの中で覚えた『好き』の表現方法ではなく、『愛している』の表現方法を宮原から教えてもらう。
「ーーーーあーーーーっ!!
…やっべぇ!!」
甘い雰囲気を一気に台無しにしてしまう宮原の的外れな声は、沢海の求めていた『愛している』の表現方法とは大分かけ離れ、流石に呆れ返ってしまう。
「ーーーったく…
もう……一体、何だよ…」
突然、宮原がベットから慌てて降りようと上体を起こすが、腰元に掛けられていたバスタオルが絡まり、バランスを崩してしまう。
身体の重心を保つ事が出来ずに顔面から床に転げ落ちそうになり、咄嗟の判断で沢海が宮原の肩を引き寄せる。
「うわっ!」
「ーーーっと!
…危ねぇ…」
間一髪で沢海が宮原を抱き止め、その腕の中に優しく包まれる。
宮原の身体を反転させてベットに引き戻すと、眉間に深く皺を寄せている硬い表情が前髪の隙間から見え、沢海は宮原を落ち着かせるようにゆっくりと呟く。
「ーーーどうしたんだよ」
「オレ…家に外泊の連絡していなかった……」
蒼白な面持ちで家族に心配を掛けてしまっている事に宮原は不安になってしまう。
対照的に沢海は呑気に宮原の頬に唇を寄せるとペロリと舌で舐め、一瞬目を閉じた合間にまた軽く口付けをする。
「…んっ!…ちょっ……と……」
「ーーーあぁ、その事?
大丈夫だよ」
沢海は全て終わったような事後報告の形で宮原に話し始める。
「昨日のうちに藤本から宮原の自宅の電話番号を聞いて、お前の母親に連絡しておいたよ」
「ーーーは??」
唖然とする宮原の表情に沢海はニヤリと笑うと、宮原の母親の声真似をするように演技をする。
「うちの悠がご迷惑を掛けていませんか?
悠は根っからの甘えん坊なので、粗相があったら叱って下さいね、ってさ。
ーーーねぇ?
甘えん坊の悠くん」
宮原は悪戯に揶揄われ、沢海の胸の中に自分の顔を押し付け、声を上げる。
「ーーーん~もう!母さんってば!」
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