【R18】君に触れる、全てのものから

すぐる

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第1部

家に、帰ろうよ

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校門の前には「予約車」の掲示を出した1台のタクシーが配車されてあり、沢海は宮原を手招きすると、そのまま2人は乗車した。

『予約車?
さっき、沢海先輩が電話していたのはコレ?』

タクシーを使い慣れている手管に後部座席の隣に座る沢海をちらりと見る。
沢海は宮原からの視線を感じ、目が合うと口元だけで柔らかく笑う。
宮原はなるべく自然に目を逸らそうとするが、沢海からの視線と笑顔を真っ直ぐに自分に向けられてしまうと、気恥ずかしくなってしまい、落ち着かない様子を拭えない。

車窓に流れる街並みを眺めてそれを誤魔化し、視線をそのままにカバンの中からケータイを出そうとした瞬間、沢海の手を掠めてしまう。

「ーーー!ーーー」

宮原は慌てて自分の手を引っ込めてしまい、俯いてしまう。

沢海はその場所から辿るように宮原の手を追い掛けると、宮原の手の上に自分の手を重ねる。
そして、沢海はそのままお互いの指と指を絡めて、握り締める。

『ーーー沢海先輩ーーー』

手だけでなく、心までも絡められてしまいそうで、宮原は優しく束縛されたまま、指を解く事が出来ない。
ギュッと手を握られ、お互いの手の温もりを確かめる。
沢海の骨張った大きな手に包まれて、全てから絶対的に守られていると感じる。

宮原の外した目元が少し赤くなっているのを盗み見ながら、沢海は前を向いた。

■□■□■□■□

私立蒼敬学園から駅前通りを抜けて郊外に向かい、国道を外れると、河川敷沿いに高層マンションが立ち並ぶ通りに向かう。

通りに並走するように遊歩道のある土手が続き、その土手を境に遊具の並ぶ公園と広大な運動場が設備されている。
敷地の奥にはゆったりとした河川が流れ、鬱蒼と生い茂る葉桜がこれから来る夏を彷彿とさせる。

同じようなマンションが何棟か建てられてある区内の中心に位置している、瀟洒なタワーマンションの車路にタクシーは停車した。

「宮原、着いたよ。
1人で降りれるか?」
「あ、大丈夫です」

沢海は支払いを済ませるとマンションの中に入り、宮原もそれに続いた。

入り口の自動ドアを抜けるとエントランスに天井の高いアトリウムが広がり、太陽の乱反射がフロア全体をキラキラと照らしている。
フロアには絵画やブロンズ像がさり気なく飾られ、足元は大理石が埋め込まれている。
まるでシティホテルのロビーのような雰囲気に宮原は圧倒された。

エレベーター前のディスプレイに暗証番号を入力していると、宮原が小声で聴いてくる。

「沢海先輩…
ーーーここって沢海先輩の家?」
「そうだよ。
正確には兄貴のマンション。
この春先に兄貴が結婚して、実家の家業を継いだんだ。
オレもこのまま実家に住む訳にもいかないし、自分のやりたいことがあったから、親父に頼んでこのマンションを借りてる。
ーーー中、入って」

沢海に促されて宮原もエレベーターに入り、階層ボタンを押す。
エレベーター内にデジタルサイネージがあり、宮原は見上げるとトレーニング施設のお知らせ、夏季プールの営業時間とデータが続く。
最上階35階のフロアにあるプールの映像が流れ、宮原は「ナイトプールもあるんだ…」と独り言を呟いてしまう。

ポーンと到着音が鳴り、20階のフロアでエレベーターの扉が開く。

「宮原、こっち」

沢海に呼ばれて宮原が部屋の前に進むと、玄関を開け「どうぞ」と招かれる。

部屋は一般的な1LDKの造りになっており、入って直ぐに脱衣所と風呂、ウォークインクローゼット、中央にある廊下を抜けると真正面にリビングとダイニングがあり、その隣に寝室がある。

「先輩って、1人暮らししているんですか?」
「そうだよ。
実家に置いてある自分の道具も殆ど処分して持ってこなかったし、オレもあんまり道具を置きたくないんだよね」

リビングに入るとローテーブル、ソファー、テレビ、デスク、本棚とその言葉通りに必要最低限の物しか配置していない。
部屋の中は殺風景な程、日常の生活感をあまり感じられず、閑散としている。

『家族と離れて1人で生活するって、寂しくないのかな…?
ーーーオレだったら……多分ーーー
…無理かも…』

沢海はカバンを下ろすとキッチンに入り、部屋をキョロキョロと見渡す宮原に声を掛ける。

「トレーニングで汗、かいただろ?
先にシャワー使いなよ」
「ーーーえ?」
「部活あったから、着替えもあるだろ?」
「ーーーう、うん…あるけど…」

未だにカバンを持ち、リビングに立ち尽くす宮原に沢海がニヤリと笑う。

「一緒に入ろうか?」
「ーーーえ?」
「だから、一緒に風呂に入ってやろうか?」
「だっ!大丈夫ですっ!」

宮原はカバンを掴み直して、脱兎の如く脱衣所に逃げていく。
バタバタと慌てて走っていく音が聞こえ、沢海は声を出して笑った。

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