【R18】君に触れる、全てのものから

すぐる

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第1部

マッチアップ・沢海VS宮原

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宮原は突然の沢海の恫喝的な声にびっくりしてしまい、「交代しろ」と強制された松下までもが、一様に同じだ。

沢海は無表情のまま、ピッチの中にいる宮原の方向へ歩いてくる。

宮原の前に立つと沢海は険しい表情のまま、だが、それと反比例するように声を押し留めながら言葉を発する。

「ーーー宮原…本気で来てみろ」
「はいっ!」

沢海の声音とは対照的に、宮原は単純に沢海とマッチアップが出来るのが緊張感がある中でも嬉しく、声を弾ませた。

攻撃=宮原と守備=沢海
ボールが宮原の足元に出される。

沢海が宮原の右側からプレッシャーを掛け、宮原はボールを左足に移し、右手で沢海の身体を押し除ける。
肩を入れて身体を捻じ込ませてくる沢海の動きに宮原も対抗する。
鬩ぎ合うポジションに、ボールを奪おうと沢海の踵が宮原の右の脹脛からアキレス腱に蹴り落とされ、宮原は顔を顰めた。

宮原はボディコントロールが上手く取れないのか、左足がイメージ通りに動かずバランスを崩してしまい、自分の足に引っ掛けてしまう。

今度は沢海は後ろから覆いかぶさるような形で、宮原の足の間から左足を伸ばして、ボールの動きを止めようとする。
宮原は左足を軸に身体を反転させ、短い振り抜きでボールを前に出す。

ダッシュをしようと左足を踏ん張ると抉られるような鋭い痛みが左膝に走る。

「ーーーいッ……ッツ……」

ボールを奪われてしまわないように宮原は左足に重心を掛けた瞬間、カクンと膝が折れ、沢海の練習着を引っ張るような仕草で倒れそうな身体を支えた。
沢海が振り解いてしまえばファウルになってしまう宮原のプレイを、沢海は宮原の身体を離さないように受け止める。

「ーーーなんで、黙っていたんだ…
ーーーなんで、もっと早く分からなかったんだ…」
「え?……」

沢海自身に言い聞かせるかのような声で、呟いている。

宮原が視点を動かすと沢海は目を眇めて、自分を見詰めている。
ーーー苦しそうな、切なそうな沢海の色素の薄い茶色に透ける瞳に囚われ、吸い込まれていくーーー

「沢海先輩……?」

宮原は競り合う身体の力が一瞬抜けてしまうと、沢海は宮原の腰を軽々と持ち上げ、肩に担ぎ上げる。

宮原は天地が逆転してしまい、ピッチが目の前に迫る。

「うわっ!ちょっと!!」

突然に身体を抱えられ、宮原が沢海の肩の上で暴れ出す。

「離せよっ!離せっ!!
ーーー下せってば!!
何だよ!いきなりっ!!」

藤本が一連のやり取りに呆れ、宮原を手荷物のように扱かう沢海を注意する。

「おい、沢海!
何してんだよ!
下ろしてやれって」

沢海は大袈裟に溜息を吐くと、宮原を抱え上げたまま、その左足の靴下を足首まで下げる。
痛めている患部を掠められ、筋立った足に重い痺れが伝わる。

「ーーー痛っ!…触んなってば!」

「見てみろ。
こいつ、左足を腫らしているんだ。
怪我をしている以上、無理はさせられない。
ーーー抜けるぞ」

宮原は只管に隠していた事を沢海に簡単に見透かされ、抵抗する気力を失う。

『沢海先輩ーーー
オレが左足を痛めていたの、分かっていたんだーーー』

沢海は大人しくなった宮原を肩に抱え直し、そのままの状態でピッチを後にする。

他のメンバーからの視線を一斉に浴び、宮原は沢海に抱えられたまま顔を上げられずにいる。
宮原は目を閉じ、沢海の練習着をギュッと縋るように握り締めた。

松下の直ぐ脇を沢海が通り過ぎる。

沢海は態と下を向き、松下と視線を合わせないようにして、2人にしか分からない位の小声で話す。

「プレイした時に気づいてやれよ。
ーーー分からなかったのか?」

松下は何を言う事も、何を言い返す事も出来なかった。

ーーー宮原が左足を痛めているのに、無理をしてプレイをしていたなんて全く分からなかった。

松下は「宮原…」と声を掛けようとするが、沢海に阻まれる。

「宮原。もう、暴れるなよ」
「…はい…」

松下は2人の会話を只、聞き流すしかなかった。






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