6 / 6
きさらぎ駅
里
しおりを挟む
きさらぎ駅はとにかく寒かった。
よく考えてみたら、ずっと夜が続いている場所が寒くないはずがない。
裏きさらぎ駅は駅の上半分がガラス張りで駅内は割と涼しかったが、仮にあそこに出口があったなら、恐らく熱中症になるくらいに暑かったのかもしれない。
「ふにゃ!ミーは風邪ひいてるにゃん。やばいにゃん!」
いつのまにか、ミーが私のリュックサックの中に入り込み、ぶるぶる震えていた。
ずいぶん器用なんだな…。
周りを見渡すと、いかにも廃墟と言えそうな駅の様子。
あぁ、ここが本物のきさらぎ駅なんだな、と癒杏は心身共に実感する。
ふと、癒杏は今までの話を思い出して、率直な疑問を抱いた。
「ミー、ここがその…どこでもない場所だとしたら、うちらから見えるあの山もあの森も、その先もずっと、どこでもない場所なの?」
「そうにゃん。どこでもない場所はどこにもないにゃん。癒杏の世界の人達がいくら探しても見つからないにゃん。…だから無限の広さを持っているにゃん。」
なるほど。ゼロと無限は紙一重ってとこか。
癒杏は納得する。
とりあえず、と思って癒杏は出口に向かって歩き出す。
「待つにゃん。そっちじゃないにゃん。」
ミーがリュックサックから跳び降り、癒杏とは反対側の方向へ歩き出す。
「でもミー、そっち出口がないよね?」
「あるにゃん。近づいて見るにゃん。」
癒杏が近づいてみると、確かにさっきまで見えなかった、階段がだんだん濃くなって現れた。
「癒杏が行こうとしていた出口は里に出るためのものにゃん。」
「里?」
「この世界に迷い込んだ人間が、結局元の世界に戻れずに住み着いた里にゃん。お寺とかもあるにゃん。稀にここが気に入って、残っている人もいるみたいにゃけど。」
「ん?さっき私たちが駅から見た場所とは違うんだよね?」
「違うにゃん。ここはずっと夜にゃん。あと、里は自殺する人が大勢いるって聞いたことあるにゃん。」
癒杏は少しだけ、歯がゆい思いを抱いた。
「じゃ、あそこには私と同じ人間がいて…生活を営んでて、家族とかが出来て…社会があって、、でも本当は帰りたいって思っている人もいるかもしれない。何も出来ないかもしれないけど…私、あそこの方たちに会いに行っちゃダメかな?」
言ってから癒杏は後悔した。
出来ないかもしれない、じゃなくて、間違いなく私には何も出来ない。
「あっごめん。やっぱり、今言ったことは...」
「もちろん良いけど…ニケと一緒に行った方が良いにゃん。ニケは里に詳しいにゃん。」
癒杏を見つめながら、ミーがぴょんぴょん飛び跳ねている。
「だから今は、ちょっと待ってにゃん。」
どうやら、ニケという方は人間に対してかなり関心があるらしい。
なら、その方と一緒に行く方が確かに賢明だ。
「一方、こっちの出口はミーたちの世界に直接つながっているにゃん。故郷にゃん!」
ミーが階段の近くに駆け寄る。
「行こうにゃん!急ぐにゃん。この出口は意思があって、気まぐれに閉じるにゃん。」
それはまずい。
急がなきゃ。
癒杏はミーと共に走り出した。
よく考えてみたら、ずっと夜が続いている場所が寒くないはずがない。
裏きさらぎ駅は駅の上半分がガラス張りで駅内は割と涼しかったが、仮にあそこに出口があったなら、恐らく熱中症になるくらいに暑かったのかもしれない。
「ふにゃ!ミーは風邪ひいてるにゃん。やばいにゃん!」
いつのまにか、ミーが私のリュックサックの中に入り込み、ぶるぶる震えていた。
ずいぶん器用なんだな…。
周りを見渡すと、いかにも廃墟と言えそうな駅の様子。
あぁ、ここが本物のきさらぎ駅なんだな、と癒杏は心身共に実感する。
ふと、癒杏は今までの話を思い出して、率直な疑問を抱いた。
「ミー、ここがその…どこでもない場所だとしたら、うちらから見えるあの山もあの森も、その先もずっと、どこでもない場所なの?」
「そうにゃん。どこでもない場所はどこにもないにゃん。癒杏の世界の人達がいくら探しても見つからないにゃん。…だから無限の広さを持っているにゃん。」
なるほど。ゼロと無限は紙一重ってとこか。
癒杏は納得する。
とりあえず、と思って癒杏は出口に向かって歩き出す。
「待つにゃん。そっちじゃないにゃん。」
ミーがリュックサックから跳び降り、癒杏とは反対側の方向へ歩き出す。
「でもミー、そっち出口がないよね?」
「あるにゃん。近づいて見るにゃん。」
癒杏が近づいてみると、確かにさっきまで見えなかった、階段がだんだん濃くなって現れた。
「癒杏が行こうとしていた出口は里に出るためのものにゃん。」
「里?」
「この世界に迷い込んだ人間が、結局元の世界に戻れずに住み着いた里にゃん。お寺とかもあるにゃん。稀にここが気に入って、残っている人もいるみたいにゃけど。」
「ん?さっき私たちが駅から見た場所とは違うんだよね?」
「違うにゃん。ここはずっと夜にゃん。あと、里は自殺する人が大勢いるって聞いたことあるにゃん。」
癒杏は少しだけ、歯がゆい思いを抱いた。
「じゃ、あそこには私と同じ人間がいて…生活を営んでて、家族とかが出来て…社会があって、、でも本当は帰りたいって思っている人もいるかもしれない。何も出来ないかもしれないけど…私、あそこの方たちに会いに行っちゃダメかな?」
言ってから癒杏は後悔した。
出来ないかもしれない、じゃなくて、間違いなく私には何も出来ない。
「あっごめん。やっぱり、今言ったことは...」
「もちろん良いけど…ニケと一緒に行った方が良いにゃん。ニケは里に詳しいにゃん。」
癒杏を見つめながら、ミーがぴょんぴょん飛び跳ねている。
「だから今は、ちょっと待ってにゃん。」
どうやら、ニケという方は人間に対してかなり関心があるらしい。
なら、その方と一緒に行く方が確かに賢明だ。
「一方、こっちの出口はミーたちの世界に直接つながっているにゃん。故郷にゃん!」
ミーが階段の近くに駆け寄る。
「行こうにゃん!急ぐにゃん。この出口は意思があって、気まぐれに閉じるにゃん。」
それはまずい。
急がなきゃ。
癒杏はミーと共に走り出した。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる