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裏きさらぎ駅
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静かに扉が閉まる音がした。
そして、すぅーっと動き出し、何事もなかったかのように、
行ってしまった。
無人駅に癒杏は一人、取り残されてしまったのだ。
「あっ...」
入口があって出口がない場所。そんな場所ほど人を恐怖に陥れるものはない。
鳥肌が止まらない。
不安がだんだん癒杏の中で大きくなり、彼女は途方に暮れた。
このまま私はどうなってしまうのだろう。行方不明になったら捜索願が出るのかな。親や友達、先生に心配をかけてしまう。その前に何もないこの場所で私は死んでしまうのかもしれない。
震えた足でよろめくように前へ一歩踏み出す癒杏。
倒れてしまいそうな気がした癒杏はホームの中心にあるベンチに座る。
死ぬ…か。
あんまり実感がないなぁ。
人が死ぬ瞬間を癒杏は直接見たことがなかった。
痛くなければ良いな。ここで死ぬとしたら餓死ってとこかな。
死ぬってことは、
終わるってことか。
目を閉じて自分の心臓の音を聞きながら、癒杏は考えていた。
気持ちがだんだん落ち着いてくる。
「はぁー...」
深い溜息をつく。
不思議と、抵抗したいという気持ちはほとんど湧いてこなかった。
むしろ、先ほどまで感じていた不安が嘘のように彼女の心から引いていった。
そっか。
癒杏は思う。
いつもの私なら、隠し扉でもないか探している所かもしれない。でも…。
(もう、その必要もないのかもしれない。)
ベンチに座りながらふと天井を見上げてみる。
一面ガラス張りの天井とその向こうに見える真っ青な空。体ごと吸い込まれそうなほど透明で深くて。
「何度見てもため息が出るくらい綺麗…。」
肩の力が一気に抜ける。
今は真夏なんだな。どこかで誰かが海水浴とかスイカ割りとかでもしているんだろうな。小学生が夏休みにわくわくしているのかな。あぁ…私って意外と夏の香りが好きなんだ。
無人駅でそっと微笑む癒杏。
思えば、一人で静かに黄昏ること自体が何年ぶりなんだろう。ただただ、生きているだけの時間ってなんていうか…楽。
そうか。思えば、私の毎日には例外なく目的があったんだ。朝から寝る前までずっと。何かをしなきゃいけないってずっと思いながら生活していたんだ。朝食を食べるために早起きして、準備をするためにすぐに朝食を食べて、学校に遅刻しないように準備を整えて、勉強するために学校に行って、大学受験のために授業を聞いて勉強して、、、そして、
(いつも時間が過ぎるのを待っていた。)
待つものなんて何もないのに。
「だけど…。」
襲い掛かるどうしようもない眠気の中で癒杏はつぶやく。
もう、ここでは何もしなくて良いんだ。誰かのために、何かのために、頑張る必要はないんだ。あぁ、こんなにも落ち着いた今際なら悪くもないかもしれない…。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
どれほど時間が経ったのだろうか。目を覚ました癒杏は不思議に思う。
体感半日以上眠ったはずなんだけど、空が寝る前と変わらず青い。
(本当なら日が暮れてもおかしくない。)
ゆっくりと思考をめぐらす癒杏。そうだ。
ここには、真昼しか存在していないのかもしれない。
「にゃ~。にゃっ!…君が癒杏にゃん?」
どこからともなく声がした。
癒杏が振りかえる。
「えっと…猫?(しゃべってる!!?)」
100人いたら恐らく99人は癒杏と同じ反応をするだろう。なのに、そいつは飛び跳ねてプンプンに怒った。
「猫!?にゃぬ!違うにゃん。尻尾見るにゃん!ミーは猫またにゃん!!」
確かに尻尾が2本ある。しかし、癒杏ははっきり思った。
こいつは猫だ。
そして、すぅーっと動き出し、何事もなかったかのように、
行ってしまった。
無人駅に癒杏は一人、取り残されてしまったのだ。
「あっ...」
入口があって出口がない場所。そんな場所ほど人を恐怖に陥れるものはない。
鳥肌が止まらない。
不安がだんだん癒杏の中で大きくなり、彼女は途方に暮れた。
このまま私はどうなってしまうのだろう。行方不明になったら捜索願が出るのかな。親や友達、先生に心配をかけてしまう。その前に何もないこの場所で私は死んでしまうのかもしれない。
震えた足でよろめくように前へ一歩踏み出す癒杏。
倒れてしまいそうな気がした癒杏はホームの中心にあるベンチに座る。
死ぬ…か。
あんまり実感がないなぁ。
人が死ぬ瞬間を癒杏は直接見たことがなかった。
痛くなければ良いな。ここで死ぬとしたら餓死ってとこかな。
死ぬってことは、
終わるってことか。
目を閉じて自分の心臓の音を聞きながら、癒杏は考えていた。
気持ちがだんだん落ち着いてくる。
「はぁー...」
深い溜息をつく。
不思議と、抵抗したいという気持ちはほとんど湧いてこなかった。
むしろ、先ほどまで感じていた不安が嘘のように彼女の心から引いていった。
そっか。
癒杏は思う。
いつもの私なら、隠し扉でもないか探している所かもしれない。でも…。
(もう、その必要もないのかもしれない。)
ベンチに座りながらふと天井を見上げてみる。
一面ガラス張りの天井とその向こうに見える真っ青な空。体ごと吸い込まれそうなほど透明で深くて。
「何度見てもため息が出るくらい綺麗…。」
肩の力が一気に抜ける。
今は真夏なんだな。どこかで誰かが海水浴とかスイカ割りとかでもしているんだろうな。小学生が夏休みにわくわくしているのかな。あぁ…私って意外と夏の香りが好きなんだ。
無人駅でそっと微笑む癒杏。
思えば、一人で静かに黄昏ること自体が何年ぶりなんだろう。ただただ、生きているだけの時間ってなんていうか…楽。
そうか。思えば、私の毎日には例外なく目的があったんだ。朝から寝る前までずっと。何かをしなきゃいけないってずっと思いながら生活していたんだ。朝食を食べるために早起きして、準備をするためにすぐに朝食を食べて、学校に遅刻しないように準備を整えて、勉強するために学校に行って、大学受験のために授業を聞いて勉強して、、、そして、
(いつも時間が過ぎるのを待っていた。)
待つものなんて何もないのに。
「だけど…。」
襲い掛かるどうしようもない眠気の中で癒杏はつぶやく。
もう、ここでは何もしなくて良いんだ。誰かのために、何かのために、頑張る必要はないんだ。あぁ、こんなにも落ち着いた今際なら悪くもないかもしれない…。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
どれほど時間が経ったのだろうか。目を覚ました癒杏は不思議に思う。
体感半日以上眠ったはずなんだけど、空が寝る前と変わらず青い。
(本当なら日が暮れてもおかしくない。)
ゆっくりと思考をめぐらす癒杏。そうだ。
ここには、真昼しか存在していないのかもしれない。
「にゃ~。にゃっ!…君が癒杏にゃん?」
どこからともなく声がした。
癒杏が振りかえる。
「えっと…猫?(しゃべってる!!?)」
100人いたら恐らく99人は癒杏と同じ反応をするだろう。なのに、そいつは飛び跳ねてプンプンに怒った。
「猫!?にゃぬ!違うにゃん。尻尾見るにゃん!ミーは猫またにゃん!!」
確かに尻尾が2本ある。しかし、癒杏ははっきり思った。
こいつは猫だ。
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