君がために縒れるは トコトワの刹那 (kimigatameniyoreruwa tokotowanosetsuna)

CHIGIRIKI

文字の大きさ
上 下
2 / 6
日常のその先

例のあの場所

しおりを挟む



 白羽は彼に触れると、戸惑いつつも、抱いている疑問を尋ねてみる。するとレイゾンは「大丈夫だ」と笑った。

「陛下は祭事で明後日まで城を空けられている。どんなに早くても報告はその後になる。充分というわけではないが、少なくとも二日は策を練る時間が与えられているというわけだ」

<…………!>
 そうだったのか。でもどうしてそんな予定を把握して……。

(もしかして、リーシァンの街にいた時から?)

 重ねて尋ねると、レイゾンは微笑んだまま頷く。
 では、王都へ戻るまでの旅程も陛下が不在の時に到着するように考えてのことだったのか。

<わたしは王都へ戻ったらどうなるのだろうと不安だったのに……レイゾンさまは色々とお考えだったのですね>

 いつの間にこんなに抜かりのない方になったのだろうという驚き半分、そして「わたしにも教えていてほしかったです」という不満半分で言うと、なぜかレイゾンは愉快そうに苦笑する。
 目を瞬かせる白羽に、微苦笑を浮かべて言う。

「お前でもそんな風に拗ねるのだな。ああ——いや、悪かった。心配させていたなら悪かった。だがあくまで予定は予定。実際には王都近くまで戻ってみなければ——もっと言えば王都に戻ってみなければ、どうなるとはっきりわかっていなかったというのが正直なところだ」

(…………)

 前言(?)撤回。
 まったく抜かりがなくなんかない。
 それでは賭けではないか。

(街に戻ろうとした時といい……)

<……レイゾンさまは大胆なのか無謀なのかわかりませんね>

 ちくりと刺すように白羽が言うと、レイゾンは目を丸くする。
 直後、その双眸が柔らかく細められた。
 白羽が、なんですか? と首を傾げと、レイゾンは白羽の髪を一房手に取り、

「そんな口がきけるようなら、元気もだいぶ戻ったようだな」
 
 と、温かな口調で言う。
 思わず見つめた白羽に、レイゾンは笑みを深めて続ける。

「緊張し通しの帰途だったからな。お前には頑張ってもらって助かった。俺たちが無事に戻れたのはお前のおかげだ」

<そ、そんなことは……>

「謙遜するな。騏驥がいてくれた安心感は大きい。それは騎士である俺が一番よくわかっている。疲れただろう。まずは着替えて……一息ついたら一緒に食事をしよう。そのあとは、お前はゆっくりと身体を休めていろ。俺はまだやることがあるために、あちこちに行かなければならないから、なかなかお前の相手はしてやれないが……欲しいものがあれば屋敷の者に言うといい。もしくはユゥにでも」

<……はい……>
 ありがとうございます——。

 白羽は感激に胸が熱くなるのを感じながら頷く。
 彼はいつも騏驥思いの騎士だ。
 しみじみとそう感じる。

<レイゾンさま>

 白羽は、レイゾンの手に触れていた手で彼の手をしっかりと掴むと、まっすぐに彼を見て言った。

<登城の折には、わたくしも連れて行ってはいただけませんでしょうか>

 それは、思ってもいなかったことなのだろう。レイゾンの手が動揺したかのようにぴくりと動く。彼は探るように白羽を見つめ返してくる。が、何かを尋ねてくることはない。
 白羽もまた、ただじっと見つめる。

 ややあって、レイゾンは「……考えておこう」と静かに応えた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...