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第一章
青の髪の少女
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夜になり、満月が空の斜めに登ったころ──
『ビブリア』の魔法学校の教員室では、教師たちが集められていた。
「アルメールが襲われたらしいな……」
教員室で顔を合わせるのは、火炎魔法や水魔法といった各種類の魔法術を専門とする、学校有数の優れた主任教師たち五名だ。
学校長の急ぎの知らせによって集められた彼らは、まだ現れない学校長を待ちながら、耳にはさんだ噂について話していた。
「この近くに魔物が出るなんてて……」
「でも護衛がいたんだろう?」
「ほぼ死んだらしいぞ。助かったのはアルメール本人と、騎士団の隊長だけらしい。今、医務室で看てもらっているって」
「そんなことが……」
信じられないという顔をして深刻そうに話す彼らのところに、教員室の扉が開き、学校長──装飾のついたローブを纏い、長い白髭をたくわえた威厳ある老齢の男──が入ってきた。
「校長!」
教師たちが背筋を伸ばして、彼を出迎える。
「皆、よく集まってくれた」
学校長は、抑揚のない口調で言った。
「アルメールはどうなりましたか?」
教師がずっと気になっていたことを学校長に問う。
アルメール──リルフィリアのことはこの主任教師たちは皆知っている。学校一の才女と評されるリルフィリアのことを特別に訓練していたのが彼らであった。
「まあ待て……」
学校長が無機質に返し教師たちを制する。
「──この方から説明がある」
『この方』?──教師たちが訝しむ。学校の長である学校長が敬称をつけるとは、一体誰であろう?
それに教師たちは、学校長の様子がいつもと違うようにも感じていた。
いつもゆったりと話す威厳ある学校長が、今日はどこか──威厳があるというよりはむしろ──機械的に感じる。
キィ……
扉が音とともに開き、教師たちがそろってそちらの方を見る。
教員室に入ってきたのは、学校の制服を着た一人の少女であった。
──なんでこんな夜に学生が?
その姿を見た教師らが不思議に思う。
入ってきた少女は、艶やかな青の髪を顔の輪郭に合わせて短く整えており、その制服のスカートから覗く脚は白く細い。
(どこの生徒だ……?)
見慣れぬ少女を見た先生らは、口に出さないまでも怪訝に思った。
すると少女が、学校長を差し置いて前に進み出た。
「こんばんは、先生のみなさん」
少女が、悠然とした面持ちで挨拶し、スカートの左右の端を両手でつまみあげてお辞儀した。
その大きな紫色の瞳と、小さな弧を作って微笑む唇は蠱惑的な可憐さを持っていた。
「学校長、この生徒は──?」
教師の一人が学校長に質問する。
学校長が少女の後ろでゆっくりと口を開いた。
「──この方は、我らの主人である」
(────?)
学校長の言葉の理解に苦しんだ教師たちが、そろって眉を歪める。
次の瞬間、教師たちの足元に青紫色の魔方陣が現れた。
『ビブリア』の魔法学校の教員室では、教師たちが集められていた。
「アルメールが襲われたらしいな……」
教員室で顔を合わせるのは、火炎魔法や水魔法といった各種類の魔法術を専門とする、学校有数の優れた主任教師たち五名だ。
学校長の急ぎの知らせによって集められた彼らは、まだ現れない学校長を待ちながら、耳にはさんだ噂について話していた。
「この近くに魔物が出るなんてて……」
「でも護衛がいたんだろう?」
「ほぼ死んだらしいぞ。助かったのはアルメール本人と、騎士団の隊長だけらしい。今、医務室で看てもらっているって」
「そんなことが……」
信じられないという顔をして深刻そうに話す彼らのところに、教員室の扉が開き、学校長──装飾のついたローブを纏い、長い白髭をたくわえた威厳ある老齢の男──が入ってきた。
「校長!」
教師たちが背筋を伸ばして、彼を出迎える。
「皆、よく集まってくれた」
学校長は、抑揚のない口調で言った。
「アルメールはどうなりましたか?」
教師がずっと気になっていたことを学校長に問う。
アルメール──リルフィリアのことはこの主任教師たちは皆知っている。学校一の才女と評されるリルフィリアのことを特別に訓練していたのが彼らであった。
「まあ待て……」
学校長が無機質に返し教師たちを制する。
「──この方から説明がある」
『この方』?──教師たちが訝しむ。学校の長である学校長が敬称をつけるとは、一体誰であろう?
それに教師たちは、学校長の様子がいつもと違うようにも感じていた。
いつもゆったりと話す威厳ある学校長が、今日はどこか──威厳があるというよりはむしろ──機械的に感じる。
キィ……
扉が音とともに開き、教師たちがそろってそちらの方を見る。
教員室に入ってきたのは、学校の制服を着た一人の少女であった。
──なんでこんな夜に学生が?
その姿を見た教師らが不思議に思う。
入ってきた少女は、艶やかな青の髪を顔の輪郭に合わせて短く整えており、その制服のスカートから覗く脚は白く細い。
(どこの生徒だ……?)
見慣れぬ少女を見た先生らは、口に出さないまでも怪訝に思った。
すると少女が、学校長を差し置いて前に進み出た。
「こんばんは、先生のみなさん」
少女が、悠然とした面持ちで挨拶し、スカートの左右の端を両手でつまみあげてお辞儀した。
その大きな紫色の瞳と、小さな弧を作って微笑む唇は蠱惑的な可憐さを持っていた。
「学校長、この生徒は──?」
教師の一人が学校長に質問する。
学校長が少女の後ろでゆっくりと口を開いた。
「──この方は、我らの主人である」
(────?)
学校長の言葉の理解に苦しんだ教師たちが、そろって眉を歪める。
次の瞬間、教師たちの足元に青紫色の魔方陣が現れた。
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