エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

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第一章

66 救援

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 左舷後部の第五分隊に所属するレマ=レル伍長は、隊の指示を受け右舷に急行した。
 『鼓動』の思念動力により、『アマネ』の艦上構造物の上を飛び越え、一気に右舷に到達したところ、目に入ったのは敵の艦上攻撃隊の攻撃にさらされている味方たちであった。
 そのなかで、右舷甲板に乗り込んでいる敵を発見したレマはそのまま上空から、『律動』によって創り出した刀で切りかかった。
 しかし、必殺の気迫とともに繰り出したレマの鋭い連続攻撃は、悉く敵に凌がれてしまった。
(くそっ)
 右舷甲板上で敵と対峙したレマは内心口惜しい気持ちになる。
 第一撃で不意討ちができていれば──レマは奥歯をギリ、と噛み締めた。
 先ほどの状況的には、敵の虚をつくことは可能であった。
 ただ、気配を消して敵の死角から切りかかろうとしたレマであったが、遠目に味方の兵士が今に殺されそうになっているのを見て、わざと声を張り上げ敵の注意をこちらに向けたのだった。
 対峙して、刃を交えて分かる。この敵は、卑怯な手でもいいから殺すべき相手だった。
 しかし、まだ手はある。
「ふっ」
 レマは正眼に構えた状態から膝の力を抜き、崩れかかるように前へと体を滑らせる。
 極力、攻撃の起こりを削いだ身のこなしで、敵との間合いを詰めた。
「しっ!」
 吐く息とともに、迷いなく振り下ろした走らせた刃が敵に向かう。
 キィン!
 敵と己の武器が交差し、火花を散らす。
「ふっ!」
 レマは止まらず、次なる斬撃横から繰り出した。
 その素早い動きに、レマの後ろに束ねた髪が、駿馬の尾のように揺れる。
 
(この野郎!)
 敵の攻勢にグレンは防戦一方だった。
 この状態だと分が悪い──敵は鉄帽や防弾装具といった身を守る装備は他の兵士と同様だが、武器は一本の刀を両手で持つだけで、銃器の類いはどこかに放棄したか置いてきたのか、今は携えていない。
 そのため、両手に剣と小銃を持つ重武装のグレンは俊敏性において劣っていた。
「ちっ」
 グレンが小銃を向けるも、敵は刀で器用にその銃口をはね除けた。
「おおっ!」
 グレンが力任せに剣を敵めがけて振り下ろす。
 敵がこれを受け止めれば、体当たりでも蹴りでも入れて、先ほどと同じ力業に持ち込むつもりだった。
 キィ!
 しかし、敵はグレンの剣を真っ向から受け止めるのではなく、携える刀を斜めに傾けてグレンの斬撃を受け流した。
(っ!!)
 瞬間、グレンが危機感を覚える。敵はこちらの斬撃を流すとともに、滑るようにグレンの斜め前に進み出て、その死角を突こうとしたのだ。
 バッ!
 グレンは後ろに跳んだ。敵の刀が防弾装具を掠める。
 敵はそのまま追撃してくる。グレンの体勢は悪く、このままでは敵の攻撃を受けきれない。

──爆薬(アジ化鉛)の律動。

 グレンはとっさに、単一の化合物で爆発性を持つ物質『アジ化鉛』の律動を想起し、即座に顕現した。
 グレンと敵の間に、白くキラキラした結晶が、幕のように現れる。
──電子の律動。
 続けてグレンが、電子の律動を想起し、顕現させる。
 白い幕に向かって、電撃が走った。
──『三式爆轟』!
 バァン!!!
 その瞬間、白い結晶の幕が爆発を起こし、強い熱と爆風をグレンと敵の間に起こした。
 『三式爆轟』──爆発性の物質を『面』の状態で顕現し、起爆させるグレンの防御技である。
「ぐっ」
 至近距離での爆発に、グレンの肌に熱線が刺さる。
 律動はただ物質を創造する能力に過ぎない。自分自身で創ったものであろうと、それが起こした爆発のダメージは自分も被る。
 しかし、敵もまたグレンが起こした爆発により、グレンから後退するのを余儀なくされた。
(このまま距離を置いて仕留める!)
 敵との距離は開いた。 
 グレンは小銃を敵に向けた。敵は刀しか武器をもっていない。今なら敵の攻撃範囲の外から一方的に攻撃できる。
 しかし、
「……っ?」
 違和感ともいえる感覚がグレンの体をぎくりとさせた。
 この場にいては危ない。そう感じたグレンがとっさにバックステップを踏んだ、その直後── 
 ババババババッ!!!
 耳をつんざく大音響とともに、グレンが直前までいた所の甲板で激しく火花が散った。
(な!?)
 リノリウムの甲板で無数に爆ぜるのは銃弾──それも小銃の弾ではない。もっと大きな口径の弾丸だ。
「っ!!」
 回避行動を取りながら、ばっとグレンは顔をあげ、その射線の元をたどる。
 視線の先──グレンの斜め上方の向こう、艦橋構造物の陰にその射手はいた。
 ものものしいシルエット──その敵がこちらに向けているのは汎用機関銃だ。小銃よりもずっと重厚な構造をしたそれは、大きな機関部に台型の形をした箱形弾倉を連結させ、その中には七・六二ミリ弾が連なる弾帯が納められている。
 敵は本来、二脚や三脚で安定させて使用する汎用機関銃を一人で抱え上げ、その強烈な反動を押さえ込みながら射撃している。
 ババババババッッ!!
 小銃より威力のある大型の弾丸がグレンに降りかかる。
(──まずい)
 グレンは意識を集中させ、全身に『鼓動』を強く発動させて体を保護した。
 同時に、圧縮した粒子を放出する『空戦機動』で、空中を後退しながら弾幕から逃げる。
 だが──
 ドッ!!!
「ぐあっ」
 鈍器で思い切り殴られたような衝撃が、グレンの左肩に走った。
 機関銃弾の直撃は、本来なら肩をから腕をもがれているところだが、『鼓動』で全身の存在を高めていたことで体が欠損することはなかった。
 しかし、もはや痛みを通り越した衝撃に左腕が麻痺し、握っていた剣をこぼしてしまう。
 グレンはこれ以上、敵への攻撃にこだわららなかった。敵艦の甲板からも外れ、海上の空中へと出る。 
 敵からの射撃は続いていたが、距離が開いたのと『空戦機動』の瞬発的な回避行動に、それ以上の命中弾はなかった。
 そのままグレンは味方のところまで後退する。
(──あいつは……)
 去り際、グレンが目を遣った先には、依然単独で敵に攻撃を仕掛けているベルニカの姿があった。

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