エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

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第一章

61 勇気をだして

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──怖い。
 シーナのあとにひとり残されたカウルは、右舷に向かうのを躊躇っていた。
 危険なところになんて、わざわざ行きたくない。純粋な恐怖に、カウルはその場から動けない。
 しかし、ずっとここにいることは許されない。シーナの命令があるからだ。
 行かなければいけないのに行きたくない──早く右舷に向かわなければ、という義務感の焦燥とここから動きたくないという自己防衛本能が葛藤する。
 一人、というのが余計にカウルに迷う余地を与えた。
──シーナと一緒なら迷うことなどない。すぐに怒鳴られ迷う暇などないからだ。
 ドォン!ドォン……!!
 左舷を指向した『アマネ』の主砲が発射され、砲音が大きく響く。
 あまりの大音響にカウルはたまらず耳を塞いだ。
──こんなとこ、うんざりだ……
 左舷では軍艦同士が撃ち合い、右舷は敵兵が近くまで来て、ここでも味方の歩兵と撃ち合っている。
 わけがわからなくなりそうな状況に、カウルはこの場にうずくまりたくなって、膝を折りかけた。
 しかし、完全にしゃがみこんでしまう前に、カウルは膝に両手をついて、自分自身を支えた。
──でも、行かないと……
 シーナはこれを──シーナの武器である対装甲狙撃銃をもってくるように自分に言った。
 あのとき、自分の目をまっすぐ見たシーナの真剣な顔がよみがえった。
「……」
 カウルは一度ぐっと両目をつむって、そして決意した。
──行かなきゃ……

「ぐっ」
 カウルはまず左手で、シーナに与えられた盾の裏側についた取っ手を握り、盾を持ち上げようとする。
(重たっ……)
 思念動力を使えないカウルは、腕力だけで盾を掲げようとするも、鋼鉄製の厚い盾はかなり重かった。
 想像以上の重さにカウルは困惑する。とてもじゃないが持ち上げながら移動することはできない。
「引きずってくしか……」思わず独り言が漏れる。
 そこでカウルは、まず弾薬の入った背嚢を両腕に通して背負った。
(くっ……)
 これでもそこそこの重量にはなる。
 しかしここで、シーナから託された対装甲狙撃銃と、この重たい盾を二つ同時には持って運べないという難題に直面した。
「くっそ……」
 カウルは背嚢を一旦下ろし、中から小銃などに取り付ける携帯紐──体に掛けられるようにするためのベルトを取り出した。
 そして、携帯紐を対装甲狙撃銃に取り付け、背中に斜めに掛けた。
「くそ……」
 携帯紐の長さを出来るだけ短くして体に密着させたが、普通の小銃の三倍以上の重さのある対装甲狙撃銃は背中からずり落ちて、銃口が甲板についてしまう。
 しかし、引きずることにはなるがなんとか運べる。
 カウルは次に背嚢を背負おうとしたが、背中の対装甲狙撃銃がかさばりすぎて、背嚢までは背中に負えない。
 捨てるしかない──弾薬は無理に持ってこなくていいとシーナも言っていた。
(でもちょっとは……)すべて捨ててしまうことが躊躇われたカウルは、背嚢の中から弾倉をいくつか抜いてその場に放棄する。
 中身が少なくなった背嚢は背中に回せるぐらいの余裕ができた。カウルはそれを対装甲狙撃銃の上に重ねて背負う。
 これでなんとか両手が空いた。
 カウルは両手で盾を持つ。体を盾に寄せてなるべく力が入るようにしたら、完全に持ち上げて運ぶことまではできないが、引きずっていくことはできそうだった。
 カウルは体を屈め、盾から頭はもちろん、手足や脚、胴体がはみ出ないように注意して、移動するときの体勢を確認する。
「う……」
 背中に重量のある銃と荷物を背負いながら、窮屈な体勢で盾を動かすのはかなり労力がいる。
 カウルは一歩一歩、盾と一緒に動いてみる。
 ず……ず……
 カウルは次第に、安定して動ける体勢を把握し始めた。ゆっくりではあるが、ある程度安定したペースで移動できている。
(よし、このまま……)
 調子を掴んだカウルはこのまま右舷に向かうことを決める。
 盾と密着した姿勢なので、視界は半分以下──盾の陰からわずかに見える分しかない。
 『アマネ』の主砲第二砲塔に沿ってカウルは盾を引きずって移動していく。
「──はあ──はあ」
 現在の位置は第一砲塔と第二砲塔の間──ちょうど『アマネ』の中心線の上である。
 まだ五メートルも移動していない内から、カウルの額に汗がにじみ始めた。
 
 
 



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