エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

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第一章

59 セーグネルvsベルニカ

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 第二分隊の前に現れた敵兵──ベルニカに対し、セーグネルは先制攻撃を仕掛ける。
 セーグネルの十字槍の長さは長尺で四メートルほど。セーグネルは槍の後ろのほうを持ち、敵と十分に距離をとった間合いで、突きをくり出した。
 十字槍の刃を横にした鋭い突きが、敵兵めがけて真っ直ぐ伸びる。──単なるセーグネルの腕力だけではない。十字槍の中に込められた『心』によって、セーグネルは自身の攻撃の動きに合わせて、『思念動力』で槍の動きを補助していた。
 セーグネルの攻撃を見てとったベルニカは瞬時に身をそらした。
 しかし、穂の先端は完璧に避けたベルニカであったが、穂に付いた左右の刃がベルニカに迫る。
 セーグネルは兵士同士が近距離で戦う白兵戦において、槍を自身の得物としていた。
 『律動』でセーグネルの意匠に沿って創り出されたこの十字槍は、一般的な槍と同様の真っ直ぐな刃である『穂』に加え、その左右にそれぞれ三十センチほど突き出た大きな垂直の刃を持っていた。 
 横に出た刃までは避けられなかったベルニカが、手にしている細剣で刃を受け止める。
 キィン!!ギギ……
 火花が散り、鋭い刃と刃が競り合い、金属の軋(きし)む音がなる。
(よし──)
 セーグネルの狙いどおりであった。十字槍は左右の刃を持つゆえに、攻撃された側は突きを受け止めやすいといえばそうであるが、逆にセーグネルからしてもそれはこの場合は有利に働いた。
 つまり、一般的な槍では、突きをかわされたら、そのまま敵に懐に入られてしまう。
 しかし、十字槍は穂の先端による突き──『点』ないし一直線の攻撃だけでなく、左右の刃による平面的に迫る斬撃も同時に繰り出せるので、それで相手を捉えることができた。
(その装備──速さを重視してるはず!)
 鉄帽も防弾装具もない、防御力をすべて捨てたような敵兵の軽装備はきっと、すばやさに重点を置いているに違いない。
 セーグネルが白兵戦用の武器に単なる槍ではなく十字槍を選択したのはそう直感してのことだった。
 そして、セーグネルがくり出した突きをすばやく回避したその動きひとつで、案の定、敵は驚異的な俊敏さを持っているのをセーグネルは察知した。
(でもこれなら──)
 十字槍なら相手を捉えられる。
 そして、相手の動きを止められれば十分──セーグネルには策があった。
「やああっ!」
 突きを受け止めた敵に対し、セーグネルは槍をすばやく引いて再び突きを繰り出す。 
 十字槍の突き──穂の右に出ている刃が再びベルニカを捉え、ベルニカはそれを受け止めた。
 状況はセーグネルの攻勢であった。
「てえい!!」
 今度は刃を縦にして、十字槍の横の刃でベルニカを突き殺すつもりで、袈裟斬りの軌道で振り下ろした。
 キィン!!
 ベルニカ振り下ろされた十字槍を細剣で受けた。
 しかし──
「ふっ!」
 セーグネルが十字槍に自分の体重を乗せ、敵を押さえ込む。
 ベルニカはセーグネルの十字槍を受け止めたまま動きを封じられる。
 その瞬間──
「セトぉっ!!」
 セーグネルが大きく叫ぶ。
 すると、セーグネルの後ろにいた通信士のセトが、小銃を構えてセーグネルの横に出た。
 ダダダッ!!
 心得たセトがセーグネルの十字槍によって動きを止めた敵に向かって小銃を連射した。
 すると敵は、掲げていた細剣を手放すと同時に横に転がりこんでセトの射撃を回避した。
(──なにっ!!)
 直撃を確信していたセーグネルは予想以上の敵の速さに驚いた。
「っ!」
 ダダダッ!ダダダッ!
 セトの小銃が敵を追うも、敵は大きく跳躍してセトの銃撃から逃れた。
 無茶な姿勢のまま、敵は甲板を蹴って横へ宙へと動き回る。
 四足獣のような俊敏さにセトとセーグネルは一瞬圧倒される。
 すると、射撃を回避しながら体勢を立て直した敵は、再びその手に『律動』で細剣を創り出しこちらに──セトに向かって突進してきた。
「下がれ!!」
 セーグネルがセトに叫ぶ。
 セトが小銃を下げるとともに、セーグネルが敵の前に立ちはだかる。
「あああっ!!」
 声をあげてセーグネルも相手に向かって突っ込んでいく。
 セーグネルの眼は瞬きを忘れ、相手の動きを注視する。
 こちらの攻撃をかわされれば死──確信に近い重圧を発する敵に、セーグネルは臆さず立ち向かい、敵めがけて槍を押し出そうとする。
 するとその瞬間、敵が宙に跳んだ。
(──!!)
 このまま槍を真っ直ぐ突き出せば攻撃は当たらない。それどころか、その上を跳びこえた敵はこちらに向かってそのまま切り込んでくる。
「──っああ!!」
 セーグネルは槍を押し出す途中の右手を、大きく下に押し込んだ。
 槍の基本動作は、槍を左手を前にして構えたとき、左手のなかで槍を滑らせながら右手で槍を押し出すものである。
 つまり、右手を下方向に押し込みながら槍を突くことで、左手を支点にした槍の穂先は、上方向に繰り出されることになる。
──上がれっ!
 腕の力に加えてセーグネルは『思念動力』によって槍の穂に上向きの力を働かせる。
 すると、セーグネルの巧みな槍のコントロールによって、槍の先端がぐわっと弧を描く軌道で上に持ち上がり、敵を追った。
「!」
 空中で敵の槍に突かれることになったベルニカは、とっさに細剣を体の前に立てた。
 多少驚きがあったのか、ベルニカの目がさらに大きく開かれる。
 キィン!
 細剣によって、槍の穂の直撃は捌いたが、左右の刃までは退けることができず、ベルニカはそのままセーグネルの突きに巻き込まれ、空中で後ろ向きに突き飛ばされた。
(今っ!!)
 好機と察したセトが、再び横に出て小銃の射線を確保する。
 やれる──セトは高揚するような熱さを覚えた。
 別に、事前に打ち合わせたわけではない。また、これまでの訓練でこのような連携を身につけたわけでもない。
 それでも、セトはセーグネルと調子を合わせて共闘することができた。
 それは、分隊長と通信士という関係上、セーグネルと一緒にいる時間が長かったためかもしれない。
──分隊長を守る
 セーグネルから託された役割をきっちり果たす──その気持ち一つでセトはこの恐ろしい敵と対峙していた。
──ダダダッ!!
 セトの小銃が、空中のベルニカに向かって火を吹いた。

    
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