エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

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第一章

57 合流をめざして

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 左舷の支援から撤収したシーナとカウルは、左舷に来たときと同様に、再び艦首側に向かいそこから反対側の右舷に戻ろうとしていた。
 しかし、二人が『アマネ』の第二砲塔に差し掛かったときだった。
(……?)
 カウルは、先に行っていたシーナが第二砲塔の陰に身を寄せて何か向こう側──右舷の様子を伺っているのに気づいた。
「待て、隠れろ」
 遅れてやってきたカウルを制するシーナ。
 どうしたんだろう──カウルもシーナのように砲塔の側面に身を寄せる。
(くそっ……)
 右舷の様子を覗いたシーナが、厳しい表情を浮かべる。
 見ると、敵の部隊が右舷側の空中に展開し、『アマネ』に向かって攻撃をしかけている。
 先ほどから感じていた違和感──敵の気配はこのことだったのだ。
(あれが攻撃隊ってやつか……)
 その存在は知っていたが、敵の艦上攻撃隊を直に目の当たりにするのは初めてだった。
 敵の攻撃隊は思念動力を使って空中を浮遊しながら、携帯する火器でこちらを攻撃している。
 『アマネ』艦上守備隊──艦首に配置された第一分隊も応戦しているが、敵は『律動』で創り出したとおぼしき盾で身を守っており、こちらの攻撃が通じていない。
(ここを通って、向こうにたどり着けるか……?)
 砲塔の陰から飛び出して、甲板を移動すればすぐに敵の目につく。
 右舷の甲板上は、設置されている銃座や掩体以外に身を隠す遮蔽物がない。第二分隊の掩体は第二主砲塔から少し離れており、そこにたどり着くまでは敵に身を晒すことになる。
──俺一人ならともかく、こいつと一緒となると……
 シーナは躊躇した。
 自分一人ならともかく、新兵で戦闘能力が皆無と言っていいカウルを、この近接戦闘のなか連れていくのは難しく思えた。
(ここで敵を排除するか──?)
 ここで敵に応戦して、少しでも敵を減らせれば右舷に出ていくことは可能である。
 いや、でも……とシーナは思い直す。精鋭といわれる敵の艦上攻撃隊を容易く撃退できるとは思えない。
(砲撃は止んでいる……)
 そういえば先ほどから、右舷の敵艦からの砲撃は止んでいた。おそらく、『アマネ』に近接した攻撃隊への巻き込みを防ぐためだ。
 憶測に過ぎないが、敵の砲撃が止んでいるなら対空迎撃要員の自分がすぐに持ち場に戻る必要はない。むしろ、ここでのこのこと出ていけば、自分は真っ先に敵の標的になってしまう。 艦上攻撃隊が優先的に標的にするのは敵の対空迎撃要員であるというのは戦術のセオリーになって久しい。
 しかし、もし敵艦が砲撃を再開することがあれば、ここでは迎撃ができない。それになにより、敵と応戦しているであろう味方──第二分隊に加勢しなければ。
 どうする……

「おい」
 しばらく黙ったあと、シーナはカウルのほうを向いた。
「見ろ」シーナが砲塔の向こうを示す。カウルは慎重に砲塔の陰から向こう側を覗いた。
(うそだろ……)
 その様子が見えたカウルは愕然とした。
 複数の敵が、アマネの右舷の向こうの空に浮かんだまま、こちらに向かって銃撃している。
──どうすんだよこれ……
 経験のない未知の状況に、カウルの足から感覚が抜けた。
「よく聞け」
 すると、シーナが右舷を覗くカウルの肩を掴んで自分のほうに引き寄せた。
「お前の小銃をよこせ」
 シーナはその目をキッと鋭くしてカウルを見つめ説明する。
「俺は先に行って第二分隊と合流して戦う。お前は後からこれを持ってこい。」
 そう言ってシーナは自身の対装甲狙撃銃をカウルに押し付けた。「最悪、小銃でも迎撃できないことはないが、あったほうがマシだ。重ければ引きずってでもいいから持ってこい」
「え……」
 今からあそこに出ていくのか、とカウルが怖じ気づく。
 それも今のシーナの説明によれば、自分一人で動けというのだ。
 だが、そんなカウルの内心を察してか、
「お前はこれを使え」
とシーナが空になった右手を前に出した。
──鋼鉄の律動。
 シーナの手から光の粒子が放出され、平たく形を作った粒子の塊は鋼鉄製の盾へと姿を変えた。
(これって……)
 初めて見るシーナの『律動』にカウルが目を見開く。
 シーナが創り出したのは、鈍い灰色をした、身を屈めれば人ひとり分が身を隠せる大きさの、裏に取っ手が複数付いた盾だった。
「『心』はしっかり込めた。ある程度は敵の攻撃を防ぐはずだ」
 身を守る術を持たないカウルのためのものだった。
「重いから思念動力で軽くしろ」
「え、思念……?」カウルが戸惑った反応を見せる。
「ちっ、出来なきゃ自力で抱えろ」シーナが吐き捨てるように言う。
「邪魔なら弾薬は捨てていい。俺もある程度携帯しているし、機銃の弾をバラせば使える」
 シーナが言ったのは、対装甲狙撃銃の弾薬は機銃と同じ十二・七ミリ弾であるため、機銃の弾帯を分解して弾薬を取り出し、それを弾倉に詰めれば対装甲狙撃銃の弾薬はそこで調達できるという旨だ。
「りょ…了解」
 カウルの理解は甘かったが、要は弾薬の入った背嚢は捨ててもよい、ということは汲み取れた。
「小銃を貸せ」
 シーナに言われて、カウルは携帯紐で背中に吊っていた自身の小銃をシーナに渡した。
 受け取ったシーナは、小銃の各部位の動作を簡単に素早くチェックする。──カウル(こいつ)の銃なんて心配しかない、と動作不良を怪しんでのことだった。
 チェックを終え、シーナは自身のマガジンポーチから小銃用の弾薬を取り出して小銃に挿入する。そして、ガチャとコッキングレバーを引いて弾薬を装填した。
 準備を整えたシーナがカウルに再度向き直る。
「もう一度言うぞ?まず俺が出ていく。お前は後でこの盾で身を守りながら俺たちのところまで来い。狙撃銃だけ持ってくればいい。……ゆっくりでいい、わかったな!!」
「は、はい!」
 最後にシーナに強い口調で言われ、カウルは背筋を伸ばして大きく返事をした。

 
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