エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

文字の大きさ
上 下
56 / 70
第一章

56 紅蓮の奔流

しおりを挟む
「分隊長……」
 突如甲板に乗り込んで来た敵兵によって、一分も経たないうちに第三分隊は半数の隊員を──それも分隊長も含めて殺されてしまった。
 残った隊員たちは、この事態に完全に浮き足立った。
「だ、だれかっ!!」
 そうして、残った隊員はそれぞれ助けを求めて敵兵──ベルニカに背を向けて散り散りに逃げ出した。
 そのうち、艦尾に向けて逃げ出した隊員のなかに、ベルニカは対空迎撃要員の兵士を見つけていた。
 ガァン!!
 ベルニカが、握っていた大型拳銃の引き金を機械的に引いた。
「ぐっ」
 銃撃を背中に受けた第三分隊の対空迎撃要員はあっけなく倒れる。
「……」
 一帯を駆逐し、対空迎撃要員までも排除したベルニカが、次の攻撃目標を求めて、周囲を見る。
──すると、
「おい!」
 ベルニカの上空に、ベルニカのあとを追いかけてきたグレンがやってきた。
 グレンは小銃をあたりに発射しながら、その場に滞空している。
「場所を変えるぞ!」
 グレンは強い口調でベルニカにそう言い、顎で『アマネ』の艦首のほうを指した。
「……」
 ベルニカは彼を一瞥すると、無表情のまま何も言わずに、『アマネ』の艦首側へと走っていく。
「ちっ」
 相変わらず愛想のないベルニカに、グレンはやってられるかとばかりに舌打ちをした。
 グレンが彼女に右舷を伝って艦首側に向かうよう指示したのは、艦首方面には味方が展開しているからだ。
 攻撃隊は『アマネ』右舷に広がって展開したので、逆にベルニカが艦尾方向に向かえば、味方の援護は届かない。
 味方の援護を受けつつ、右舷の残りの戦力を排除できれば上出来だろう──そう判断しての彼女への指示だった。
 
「行け行け行け!!」
 すると、宙に浮いままのグレンの視界に、『アマネ』艦尾方向から、敵兵が複数やって来るのが見えた。
 右舷後部に襲撃を受け援軍にやってきた、『アマネ』艦尾に配置された第六分隊の兵士たちであった。
 グレンの姿を視認したのか、その兵士たちはグレンに向けて発砲し始める。
「フン」
 グレンは左腕を、手の指を鉤爪のように曲げて彼らのほう──『アマネ』艦尾側に突きだした。

──『電子』の律動。

 グレンが『電子』が発する『律動』を想起した。
 するとグレンの左手に集中させた『心』の粒子から、電子が創造された。
 それにより、グレンの左手が電気を帯びる。
 そのままグレンは、すぐにもうひとつ新たに別の『律動』を想起する。
──『液体燃料』の律動。
 その瞬間、グレンの左手の手のひらから、透明の液体が勢いよく吹き出した。

 グレンが想起したのは、『液体燃料』の律動である。
 『心』の粒子を可燃性の液体に変化させ、それを『思念動力』によって一直線状に放射したのだ。
 放射された液体燃料が『アマネ』右舷後部から艦尾に降りかかる。
「なっ!」
 『アマネ』右舷後部を目指していた第六分隊の隊員は、その液体を体に浴びてしまった。

──『二式紅炎(にしきこうえん)』

 直後、グレンが鉤爪状に曲げた左手の指をくっと寄せる。
 すると帯電していた左手の指から、放出中の液体燃料に電気が走り、バチッと火花が散った。
 ゴオオオッ!!
 高圧の電流によって液体燃料が着火された。
 液体燃料はたちまち、燃え盛る炎の奔流となって『アマネ』甲板を襲う。
 『二式紅炎』──可燃性の物質を『律動』で創り出し、それを着火して火炎を『線状(二式)』で放出する戦闘技能である。
──ゴオオオオッ!
 黒煙を吹き上げながら、燃え盛る紅蓮が甲板に伸び、広がる。
 その火炎は、気体の炎とは違って燃える『液体』であるために、甲板の上を這うように広がり、一帯を隈(くま)無く燃やす。
 「あ"あ"あ"あ"っ!!」
 燃える液体燃料を浴びた兵士が、耳のつんざく悲鳴を上げる。
 ある者は身を焼く炎に悶えながら、水を求めて海に落ち、またある者とぼとぼ歩いたのち甲板に倒れてそのまま燃えた。

「なっ──」
 黒煙をあげる『アマネ』後部甲板。
 その異変は右舷前部のセーグネルたちの目にも入った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

戦場立志伝

居眠り
SF
荒廃した地球を捨てた人類は宇宙へと飛び立つ。 運良く見つけた惑星で人類は民主国家ゾラ連合を 建国する。だが独裁を主張する一部の革命家たちがゾラ連合を脱出し、ガンダー帝国を築いてしまった。さらにその中でも過激な思想を持った過激派が宇宙海賊アビスを立ち上げた。それを抑える目的でゾラ連合からハル平和民主連合が結成されるなど宇宙は混沌の一途を辿る。 主人公のアルベルトは愛機に乗ってゾラ連合のエースパイロットとして戦場を駆ける。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)
ファンタジー
ある日、自分が異世界に転生した元日本人だと気付いた公爵令嬢のクリステア・エリスフィード。転生…?公爵令嬢…?魔法のある世界…?ラノベか!?!?混乱しつつも現実を受け入れた私。けれど…これには不満です!どこか物足りないゴッテゴテのフルコース!甘いだけのスイーツ!! もう飽き飽きですわ!!庶民の味、プリーズ! ファンタジーな異世界に転生した、前世は元OLの公爵令嬢が、周りを巻き込んで庶民の味を楽しむお話。 まったりのんびり、行き当たりばったり更新の予定です。ゆるりとお付き合いいただければ幸いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...