エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

文字の大きさ
上 下
55 / 70
第一章

55 ベルニカ対第三分隊

しおりを挟む
 右舷で、赤国の艦上攻撃隊と『アマネ』艦上守備隊が戦闘を開始した頃──
(やっぱり、『何か』来た──)
 左舷で対空迎撃をしていたシーナは、右舷の方向に違和感──敵の存在の気配を感じていた。
 すると──
「おい、お前たち!」
 後ろから第四分隊の兵士が近づき、シーナとカウルに声をかけた。
「ここの支援はもういい!右舷の持ち場に戻れ!」
「えっ?!」
 シーナは敵の艦砲を警戒し続けているので、カウルが代わってその兵士に向き合う。
「上からの命令だ!現在、右舷が敵部隊に攻撃されている。今からお待ちたちは第二分隊に戻り、右舷を守備しろ!」
「──了解!」
 カウルが返答すると、兵士はすぐに戻っていった。
「スレヴィアス上等兵──」
 カウルがシーナにそのことを伝えようとすると、
「いい!聞こえたっ!」
とぶっきらぼうに吐き捨てた。
「戻るぞっ!」
 そして、シーナは対装甲狙撃銃を下げ、左舷の敵艦隊に背を向けて走り出した。
「了解っ!」
 カウルも急いで弾薬の入った背嚢を担ぎ上げ、シーナのあとに続いて右舷を目指した。



「っ……!?」
 突如『アマネ』右舷の甲板に乗り込んで来た敵兵に、第三分隊は動揺した。
(──女?)
 そして、その姿を間近で見た兵士は驚愕する。
 単身突撃してきたその敵は防弾装具も鉄帽も身に付けていないだけでなく、その姿はまだ十代の少女のものだった。
 黒い戦闘服に身を包んだ少女が甲板に無表情のままたたずみ、大きく開かれた瞳をこちらに向けている。
 その異様な雰囲気に、第三分隊の隊員は一瞬呑まれてしまう。
 すると、敵兵の少女の右手から光を纏う粒子が放出され、その光の中から細長い物体が現れた。
 銀色に輝く、身幅の小さな細長い両刃の剣──『律動』で創り出した細剣である。
「撃てぇ!」
 敵意を察知した第三分隊の分隊長がすぐに命令を下し、分隊員らが少女に銃口を向ける。
 ダダダッ!ダダダッ!!
 瞬く無数の発砲炎。
──しかし、
「っ!」
 第三分隊が発砲した瞬間、敵兵の少女──ベルニカ=リーヴァは驚異的な瞬発力で宙へと跳んだ。
 ベルニカはくるりと身体を回転させ、宙返りしながら第三分隊に向けて飛び込む。
 瞬間的な動きに、第三分隊の隊員はそれを目で追えなかった。
 発射された銃弾の先にはもうベルニカはいない。
 隊員の真上を宙返りで飛び越えたベルニカは、すれ違う瞬間に右手に握る細剣を振るった。
 刀身がきらめいた直後、鮮やかな赤いしぶきがぱっと散る。「──?」
 上から首もとを切られた隊員は何が起きたかわからないまま、その場に倒れた。
 「うわっ!」
 銃撃をかわし、掩体の内側に入り込んだベルニカに分隊員が慌てる。
 隣にいた彼の仲間はたった今この少女に斬殺されてしまった。
 隊員がベルニカに急いで小銃を向けるも、
「ぶっ」
 自分に向かって突き出された細剣に胸を貫かれてしまった。
「こいつっ!」
 瞬く間に二人の分隊員を殺害した敵兵に、周囲の掩体の隊員たちに動揺が走る。  
 彼らもベルニカに銃口を向け直すも、少女はすでに掩体の内側に入り込んだため、射線上に味方の姿があり、隊員たちは引き金を引くことができない。
 タタタッ!
 隊員らが射撃を躊躇し、小銃ではなく何か他の武器で応戦しようと慌てているうちに、ベルニカは素早く甲板を駆けて、彼らに接近する。
「わっ!」「ぐっ!」
 隊員が何かしようとする前にベルニカは彼の首を細剣で刎ねる。
 その隣にいた別の隊員は、恐怖してなんとか身を守ろうと持っていた小銃を防衛本能のままに横にして掲げた。そうしてベルニカの細剣を防ごうとするも、ベルニカは冷静にその防御の穴をついて、隙間を縫うように細剣を彼の体に突き立てた。
 二つの掩体のなかの兵士らを殺害したベルニカは、また別の掩体──背中側にいる兵士らのほうを向いた。
「……」
 その表情は何も映しはしない無そのものだった。
「おおおおっ!」
 一人の兵士が、雄叫びを上げてベルニカに向かう。
 隊員たちを殺されて怒りに猛る第三分隊の分隊長であった。
 振りかぶった右手には『律動』で創造された剣──サーベル状の片手剣が握られていた。
 ブン!と音を立ててサーベルが振り落ろされる。
 しかし、ベルニカはすっと身を引いてそれを避けた。
「おおおっ」
 第三分隊分隊長が下ろしたサーベルを返し、すぐさま切り上げるも、またもベルニカは後ろに下がってそれをかわした。
──こいつ!!
 復讐に燃える分隊長には、それが敵が怖じ気づいて逃げているような気がして、部下を殺された彼の心にさらに火をつけた。
「しねえっ!」
 分隊長が相手を呪う叫びをあげて、切り上げたサーベルを再び敵に振り下ろそうと刃を返したときだった。
 ベルニカがすっ、と空いている左手を右脇のホルスターに差し込んだ。
 抜き出したのは、長い銃身を持つ大型自動拳銃だった。
 ベルニカの左手に握られた黒光りする大きな拳銃が、分隊長がサーベルを振り下ろすより速く、彼に向けられる。
 ガァン!!!
 一発の大音量の銃声が鳴り響いた。
(──え?)
 ブン、と勢いよく振り下ろした分隊長の腕の先には何もついていなかった。
──一体なにが……?
 敵を斬るはずのサーベルがない。ただ熱い、という感覚が右腕の先にあった。
 彼の右手は、サーベルを握ったまま宙を飛んでいた。
 目の前の敵はいつの間にか拳銃をこちらに向けていて、こちらは棒になった右腕を相手に向けているだけだ。
 右腕から飛んだ血のしずくが、少女の頬につくのがスローモーションで分隊長の目に入った。
「──ぁ」
 ガァン!!
 彼が何か言おうとする前に、再び重たい銃声が響き、ベルニカの『心』が込められた大口径の拳銃弾は、分隊長の防弾装具ごと彼の胸を貫いて、その衝撃が彼の体内を破壊した。
 ガタッ!
 宙を舞った分隊長の右手がサーベルごと甲板の上に落ちた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

処理中です...