エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

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第一章

54 空戦機動

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 ダァン!ダァン!
 単発の銃声を響かせながら、グレンは小銃で攻撃を続ける。
 敵艦の甲板上で、敵兵が慌てたように動く様子が見てとれる。こちらの攻撃で死傷者が出ているようだった。
 しかし、敵からの反撃も行われている。敵艦の甲板上だけでなく、艦体中央にある探照灯台や対空銃座からもこちらに向けて銃撃を仕掛けてくる敵兵が認められた。
(面倒くせえな)
 銃撃しながらグレンが内心、まどろっこしく思う。
 敵艦への攻撃の手順としては、まず携帯火器による攻撃で敵戦力を削ぎ、次いで白兵戦闘で撃滅するという流れである。 しかし、攻撃を開始してからあまり間も経たないうちに、グレンは敵の守備戦力は大したものではないように感じていた。
──このまま攻めこんでも勝てそうなものだが。
 戦闘員としてグレンが得意とするのは近接戦闘──とくに『鼓動』と『律動』の能力を駆使した白兵戦闘であった。
 この程度の敵が相手なら、距離を詰め接近戦に持ち込めば、一気に敵を殲滅出来る自信があった。 
(まあ、じきに突撃の合図が出るだろう……)
 グレンが次の標的に小銃を向けると、 
 トントン。
 いきなりグレンの肩を誰かが叩いてきた。
「!?」
 驚いたグレンが、射撃をやめて後ろを向く。
 そこには無表情のベルニカ
がいた。
「ああ?!」
 戦闘中だというのに、謎の挙動をするベルニカをグレンが反射的に睨む。
 すると無表情のベルニカは、無言ですっと甲板のほうを指指した。
(なんだよ……)
 ベルニカが示した先をグレンがじっと凝視する。
 するとグレンはあることに気がついた。
(──なるほどな)
 視線の先にいたのは掩体に身を隠しながら戦闘をしている一人の敵兵であった。
 遠くからでは気がつきにくいが、その敵兵は他の兵士とは違う武装──対装甲狙撃銃を持っている。
 敵の対空迎撃を担う兵士である。ベルニカはそれを発見してグレンに知らせたのだ。
(ふん……)
 『人形』のくせに気がきくじゃねえか、とグレンは内心思う。
 戦闘しながらだったとはいえ自分は気がつかなかったが、おかげで優先度の高い敵の標的を排除できる。
 グレンは銃の照準をその対空迎撃要員に向け、射撃を開始した。
 ダァン!ダァン!!
 単発の射撃で敵を狙うも、命中は得られなかった。 
「ちっ」
 さすがにここからの射撃ではすぐに仕留めることはできないか、とグレンが思い直したとき、
「!?」
 びゅん、と突然グレンの横を人影が通りすぎていった。
 なんだ?──その人影を追ったグレンの目に入ったのは、ベルニカの後ろ姿であった。
 ディッツの盾の後ろから飛び出したベルニカがひとり、空中を猛烈なスピードで疾走していく。
 向かう先は敵艦だった。
(そういう意味かっ!!)
 グレンは唖然とした。
 どうやらベルニカはグレンに敵の対空迎撃要員の場所を教えたのではなく、自分が今からそこに向かっていくという意味で、グレンに指し示したらしい。
「おい姫っ!」
 ディッツも気がついたようで、驚いた声を上げた。
「俺も行く!援護しろ!」
 グレンがディッツに口早に伝えると、グレンもディッツの盾のから飛び出した。
「またかよっ!」
 遠ざかるディッツの声を背にグレンも空中を移動する。
「ちっ……」
 ベルニカの後を追いながらグレンが舌打ちする。
 ベルニカは時々このように勝手に行動し始めることがあった。
 本来、部隊としては全体の指揮命令から逸脱した行動をとることはありえないのだが、ベルニカの場合に限っては黙殺──というより容認されている。
 というのは、ベルニカがこのような行動をとるときは、結果としていつも事がうまく運ぶからである。
 今回も何か勘が働いたのか、単独で動き出したベルニカをフォローするべく、グレンも動く。
(見殺しにしてもいいんだが……)
 ベルニカの勝手な行動を隊が咎めないのは、それが成功したら文句はないし、失敗しても死ぬのはベルニカ一人だからだとグレンは考えていた。
(まあいい)
 しかし、今回の彼女の突撃は悪くない、とグレンは小さく唇の端を上げる。
──俺もちょうどそう思っていたところだ。
 


 単独で敵艦に向けて突撃し始めたベルニカは、空中を脚で蹴って、駆けるように移動していく。
 バン!バン!!
 ベルニカが脚を蹴る度、足元で光が瞬き破裂音が鳴る。
 『空戦機動』と呼ばれるこの技能は、『鼓動』の能力の発展技である。
 『心』の粒子を圧縮して体外に──この場合は足の裏から──放出すると、直後圧縮された粒子は瞬間的に膨張、すなわち爆発する。
 この爆発を反発力として利用することで、『思念動力』による空中移動とは別の強力な推進力を得るのが『空戦機動』である。
 ベルニカは、空中で足を踏み出すと、その瞬間に圧縮した『心』の粒子を足裏から放出し、爆発が起きると同時に足を──その爆発を踏み台にするように──蹴る。
 爆発力と蹴りの反動が合わさったことによる推進力は、ベルニカの体をぐんと前に押し出し、ベルニカはすさまじいスピードで宙を疾走していく。



「な、なんだっ!」
右舷後方を守備する第三分隊は、すぐにその異変に気づいた。
 突然、敵の攻撃隊の盾の陰からひとつの人影が飛び出したと思ったら、その敵兵は空中をびゅんびゅんと駆けて、『アマネ』右舷に向かって突進してきたのだ。
「撃てぇっ!!」
 予想外の出来事に慌てて第三分隊の隊員は、その高速で接近する人影に向けて発砲する。
しかし──
「なにっ!?」
 敵兵は、空中を右へ左へと飛び跳ねながら、こちらの攻撃をかわした。
 俊敏かつ不規則な動きに第三分隊の隊員らは、その敵兵を捉えることができない。 
 銃撃をかわしながら空中を疾走する敵兵は、みるみる距離を詰めて右舷に接近してくる。 
 そして、
「!!!」
ズドン!と音を立てて、人影は飛び込むように『アマネ』右舷甲板に降り立った。
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