エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

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第一章

41 小さな影

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 赤国あかのくに第十六掃海隊の一隻、駆逐艦『ゲイル』の前部甲板上、一番主砲塔の横に、兵士の一団──艦上攻撃隊一個小隊十八名が整列していた。
 小隊の各員は小銃をはじめとした火器を携帯し、鉄帽ヘルメットを被り、防弾装具を身にまとって完全武装している。

「さあ皆、気をつけて行ってきなさい」
 整列した兵士たちの前に立った一人の将校が静かな口調で、兵士たちに語りかける。
 将校服を優雅に身にまとったその女性は均整がとれた四肢を持ち、背中の半ばまで伸びた長い髪が光を受けて紅く輝く。その肌は陶器のように艶やかで美しかった。
「はっ。では、少佐。行って参ります」
 隊列の一番端に立つ、隊を率いる小隊長の兵士が敬礼し、女性将校は細めた双眸で、穏やかに微笑む。
 
 兵士らが艦尾のほうに向かって進みだしたとき、その女性将校が隊列のなかにいた一人の青年兵士、グレン=グランツに声をかけた。
「グレン、彼女を守ってあげて」
「?……は」
 グレンは小さく答える。
 その笑みをたたえた表情は何を含んだものなのか。この上官はいつも謎めいて掴みどころがない。
 女性将校が言う『彼女』──ベルニカ=リーヴァが兵士らの隊列の最後尾、他の兵士から少し距離を空けて続く。
 その身なりは他の兵士と違って、黒い戦闘服にホルスターとポーチをベルトでくくりつけただけの軽装であった。
 もとより華奢な肢体なのが、防弾装具はおろか鉄帽すら身につけていないために、まわりの武装した兵士のずんぐりしたシルエットとの対比で異様に細く見える。
 しかし、その表情は普段と変わらぬ無表情で、戦闘直前だというのに、不安や、緊張すら感じていないように見えた。
(守る必要なんてないだろ)
 グレンが内心思う。
 をどう守れというのか──その少女を異物として位置付けていたグレンには、上官の言葉に得心がいかなかった。


「さて」
 兵士らを見送り、あとに残った女性将校は、『鼓動』を発動させ、ふわりと宙に浮かびあがった。
 そして、一番主砲の上に着地する。
 彼女が見据える先に、青国あおのくにの艦隊があった。


 ドオン……ドオン……
 『アマネ』の主砲があげた身を揺るがすような砲撃音は、右舷前部の第二分隊にも大音量で届いていた。
(始まった)
 砲戦の開始を悟ったセーグネルが背後──艦橋を挟んで向こう側の左舷のほうを振り向く。
 左舷の第四分隊の支援に向かったシーナとカウル両名を除いた第二分隊の各員は、これから何が起きてもよいように、それぞれ通常どおりの持ち場についている。
(でも、なにかが……)
 セーグネルが胸のざわつきを覚える。
 甲板に立つセーグネルにはその時はまだ見えようがなかったが、『アマネ』右舷側の海上のはるか彼方に、一隻の艦影が出現したのを、『アマネ』の対水上電探が捉えた。

「電探に感あり──小さい。右三十度、距離ふたまるまる(二万二千メートル)」
 『アマネ』の電探室の電測員が報告し、次いで艦橋から突き出た見張所の見張員が、設置された双眼望遠鏡で、その対象を視認した。
 見張員が声を張り上げる。

「敵駆逐艦らしき艦影、まっすぐこちらに近づく!!」
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