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第一章

27 小康

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 敵の空襲が終わり、『アマネ』と三隻の随伴艦は、アマネを中心とした輪陣形──索敵や掃海、防空戦に適した円形の艦隊陣形──を取りながら、船速を緩めて進んでいた。
 先ほどの空襲では、『アマネ』に敵の攻撃が集中したが、『アマネ』に大きな被害はなく、他の随伴艦も損害は軽微であった。
 しかし、甲板上にいた艦上守備隊の兵士には負傷者が出ており、各艦は負傷者の治療や部隊の立て直しに追われていた。


 カウルとシーナ、ノベル、そして残り二人の分隊員は、ノベルの声かけのもと、皆で作業に取りかかった。
 甲板に散乱した小銃や機銃の空薬莢を集めて海へと捨て、弾薬庫から持ってきた新たな弾薬で機銃をはじめ各々の火器に補充をする。

「あの……」
 敵の機銃掃射で形を崩した土嚢製の掩体を組み直しながら、カウルは共に作業するノベルに話しかけた。
「うん?」
 土嚢を下ろしたノベルがカウルに顔を向け、首を傾げる。
 さっきまで戦いがあったにも関わらず、ノベルは穏やかそうな表情をカウルに向けた。
「この先、戦いはどうなるでしょうか……?」
 カウルは疑問を口にする。
直属の上級階級のシーナには訊きにくい質問だった。──シーナは他の分隊員から外れて、一人で対装甲狙撃銃の整備をしている。
「どうなるって?」
 カウルの漠然とした問いにノベルが尋ね返す。
「あ、いや………さっき、第二波があると……」
「ああ、まあ確かに航空攻撃は基本、波状攻撃だからね。だから次の攻撃に早く備えないといけない」
 ノベルは親切に答えた。
 しかし、ここでノベルは顎に手を当てて何か考える素振りを見せた。
「ただ、それは敵に機動部隊──正規空母がいればの話だけど……僕はあれは正規空母の攻撃じゃないと思うんだよね」
「?」
「いや、敵の数が少なかったからさ」ノベルが怪訝そうな顔をしたカウルに説明を続ける。「来たのが二十機ぐらいで、機銃掃射を仕掛けてきたのは直掩の戦闘機、あとは雷撃機だったよね。あれは正規空母の規模じゃないよ」
「はあ」
「正規空母だったら、艦載機は五十は優に越えるからね。……あれは正規空母じゃなくて、軽空母一隻分の戦力──『護衛空母』のじゃないかな」
「『護衛空母』、ですか……?」聞いたことのない艦種に、カウルがノベルに訊ねる。
「護衛空母は、攻撃目的じゃなくて、あくまで防空とか掃海のために艦隊に随伴する中型の空母だね。最近、敵のなかで運用されてるらしい」
「はあ……」初めて知る内容にカウルは曖昧に返事を返す。
「それならあの敵機の数も合点がいくかな」理解が遅れているカウルをそのままにノベルが続ける。「まあ、正規空母の戦力を二分してる可能性もあるけど、戦力の逐次投入はしないだろうし……でも、いつ見つかったんだろう?こっちも索敵は飛ばしていたのに……」
 独りで話していたノベルであったが、そこで、カウルと向き直って言った。
「いずれにせよ、航空機が飛べなくなる日没までは油断できない。早く体勢を立て直して備えておかないと」ノベルが話を総括する。

「わかりました……」
 カウルは力なく返事をした。
 その瞳は、当惑と不安で暗く陰っていた。
 
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