10 / 70
第一章
10 鬱
しおりを挟む
訓練が終わり、食事の時間となったカウルは、艦内食堂にいた。
食堂は、同じ時間帯に勤務する各科の兵士たちで混雑している。
食事の載った配膳盆を受け取ったカウルは、空いていた席に独り腰かける。
「……」
食事を前にしても、カウルは全く食欲を感じていなかった。
──つらい。
瞬きを忘れたカウルの双眸は光を失い、力なく伏せられている。
カウルは『鼓動』を使用した反動──『心』をひどく消耗したことによる精神耗弱状態にあった。
頭がずっしりと重く、あらゆることが悲観的に思われる。
(苦しい……苦しいのに、これから死にに行くなんて……)
つらい訓練は、この先の戦いのためだ。
辛く苦しい訓練を乗り越えたからといって、この苦役から解放されるわけではない。
先にあるのは希望ではなく、『死』という絶望。
苦しんで苦しんで、そして自分は死にに行くのだ。
「……」
カウルはふと視線を持ち上げる。
周囲には力強く食事を頬張る兵士たち。なかには、仲間たちと談笑している者すらいる。
──こいつらは何を考えているのだろう。
自分たちが戦地に赴いているという自覚がないのだろうか?
それとも、自分は死なないと考えているのか……そういうことは今は考えないようにしているのか……
──とにかく食べなければ……
食事の時間には限りがある。今何か食べておかなければ、次の食事まで持たない。
カウルはのろのろと、配膳盆の食事を口に運ぶ。
(……)
何も味が感じられない。噛むことすら億劫だった。
──なんなんだよあいつ……
カウルの脳裏にこの苦しさの元凶である、シーナの顔が浮かぶ。
ただでさえ肉体的にきつい兵役に加えて、カウルを精神的に追い詰めているのは、彼の存在だった。
(くそっ……)
どうしてシーナはいつも自分を責めるのだろう。いつも不機嫌な顔をして、カウルのすること為すことすべてに揚げ足を取って、毒を吐く。
──自分は精一杯やっているのに。
シーナとカウルは『対空迎撃要員』とその補佐役という、二人で一組の密接な関係であるが、シーナがカウルに対して友好的であったことは一度もない。
カウルがこの『アマネ』に乗艦し、右舷の守備隊に配属されて初めてシーナと顔を合わせたときから、彼はカウルを足手まといといわんばかりに蔑んだ目を向けてきた。
確かに自分はまだ未熟だ。カウルにはその自覚は十分にあった。
加えて、シーナはすでに実戦を経験しているようで、階級も上の上等兵であり、射撃や『鼓動』に長けた兵士である。
彼から見たら、新兵のカウルなど役立たずなのだろう。
(でも……だからって……)
カウルはこの理不尽な状況が苦しかった。
食堂は、同じ時間帯に勤務する各科の兵士たちで混雑している。
食事の載った配膳盆を受け取ったカウルは、空いていた席に独り腰かける。
「……」
食事を前にしても、カウルは全く食欲を感じていなかった。
──つらい。
瞬きを忘れたカウルの双眸は光を失い、力なく伏せられている。
カウルは『鼓動』を使用した反動──『心』をひどく消耗したことによる精神耗弱状態にあった。
頭がずっしりと重く、あらゆることが悲観的に思われる。
(苦しい……苦しいのに、これから死にに行くなんて……)
つらい訓練は、この先の戦いのためだ。
辛く苦しい訓練を乗り越えたからといって、この苦役から解放されるわけではない。
先にあるのは希望ではなく、『死』という絶望。
苦しんで苦しんで、そして自分は死にに行くのだ。
「……」
カウルはふと視線を持ち上げる。
周囲には力強く食事を頬張る兵士たち。なかには、仲間たちと談笑している者すらいる。
──こいつらは何を考えているのだろう。
自分たちが戦地に赴いているという自覚がないのだろうか?
それとも、自分は死なないと考えているのか……そういうことは今は考えないようにしているのか……
──とにかく食べなければ……
食事の時間には限りがある。今何か食べておかなければ、次の食事まで持たない。
カウルはのろのろと、配膳盆の食事を口に運ぶ。
(……)
何も味が感じられない。噛むことすら億劫だった。
──なんなんだよあいつ……
カウルの脳裏にこの苦しさの元凶である、シーナの顔が浮かぶ。
ただでさえ肉体的にきつい兵役に加えて、カウルを精神的に追い詰めているのは、彼の存在だった。
(くそっ……)
どうしてシーナはいつも自分を責めるのだろう。いつも不機嫌な顔をして、カウルのすること為すことすべてに揚げ足を取って、毒を吐く。
──自分は精一杯やっているのに。
シーナとカウルは『対空迎撃要員』とその補佐役という、二人で一組の密接な関係であるが、シーナがカウルに対して友好的であったことは一度もない。
カウルがこの『アマネ』に乗艦し、右舷の守備隊に配属されて初めてシーナと顔を合わせたときから、彼はカウルを足手まといといわんばかりに蔑んだ目を向けてきた。
確かに自分はまだ未熟だ。カウルにはその自覚は十分にあった。
加えて、シーナはすでに実戦を経験しているようで、階級も上の上等兵であり、射撃や『鼓動』に長けた兵士である。
彼から見たら、新兵のカウルなど役立たずなのだろう。
(でも……だからって……)
カウルはこの理不尽な状況が苦しかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉
陣ノ内猫子
ファンタジー
神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。
お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。
チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO!
ーーーーーーーーー
これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。
ご都合主義、あるかもしれません。
一話一話が短いです。
週一回を目標に投稿したと思います。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。
誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。
感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)

ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる