エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

文字の大きさ
上 下
7 / 70
第一章

7 カウルの役割

しおりを挟む
 重巡『アマネ』の上空を横切った水上偵察機は、大きく旋回し、再び『アマネ』に接近する。
 バン!バン!
 甲板の各所で発砲音が鳴る。各分隊に配置された、シーナと同じ『対空迎撃要員』である兵士がそれぞれの持ち場で『対空迎撃射撃』を行っているのである。
 水上偵察機がシーナとカウルのいる右舷の上空を、艦の前方から飛行してきた。
 ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
 自分の前を左から右に通過した曳航標的をシーナが射撃する。
たまぁ!!」
 全弾を発射したシーナは、そばで控えているカウルに弾薬を要求する。
 あっという間に全ての弾薬を撃ち尽くされ、意表をつかれたカウルは、慌てて背嚢から新たな大型弾倉を取り出し、すぐさまそれに『心』を込める。
「はやくしろ!」
 シーナがカウルに怒鳴る。
 カウルはぐっと、弾倉を握る両手に力を込めた。
 ぱあっ、と淡い光とともに『心』が弾倉に注入される。

「遅せえよ屑!」
 そうして急いで弾層をシーナに渡すも、カウルはシーナから罵声を浴びせられた。
 ブウン、とプロペラの音とともに水上偵察機が、今度は艦尾から艦首方向へ飛んでいく。
 遅れて曳航標的が艦の右舷にいるカウルたちの前を、右から左に通過する。
 ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
 シーナが銃口を右から左にずらしながら、曳航標的を狙撃する。
 瞬く間に弾倉のなかにある十発のうち半分の弾薬をを撃ち尽くした。
 カウルは次の弾倉を背嚢から取り出し、今度は遅れがないようにあらかじめ準備する。


 カウルの役割は『対空迎撃要員』の補佐──弾薬の補給である。
 『鼓動』では、人の『心』そのものを消費する。体のなかの『心』を一部、物体へと移動させるのが『鼓動』の術だからである。
 だが、人の『心』は無尽蔵ではない。休息をとればすり減った『心』は回復するが、ある一時のうちに消耗し続ければ、やがて底をついてしまう。
 『心』の消耗は、はじめ精神を耗弱させ、次に肉体の衰弱を招き、最悪の場合で死にも至る。
 シーナ自身も『鼓動』を扱うことができるが、射撃する弾薬すべてに自分の『心』だけを込めていたら、すぐに消耗してしまう。
 そのため、ほかの戦闘技術は特に持っていなくとも、とりあえず対象に『心』を込めることぐらいならできる他の兵士が、その弾薬の補給役として『対空迎撃要員』には割り当てられていた。
 新兵訓練を終えたばかりで、他になんの技能も有しない二等兵であるカウルがそこにいるのは、そのためであった。
 
 今年十八歳になったカウルは、戦況の悪化とともに出された徴兵令の対象となり、兵士としての適性が審査された。
 カウルの身体は健康で、兵役に耐えるとされた。
 だが、カウルには人並みに丈夫な体のほかに、もうひとつのある能力があった。
 それが『鼓動』──優しい性格で、物を大切にする少年であったカウルには、物体に『心』を込める『鼓動』の素質があったのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...