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第一章
7 カウルの役割
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重巡『アマネ』の上空を横切った水上偵察機は、大きく旋回し、再び『アマネ』に接近する。
バン!バン!
甲板の各所で発砲音が鳴る。各分隊に配置された、シーナと同じ『対空迎撃要員』である兵士がそれぞれの持ち場で『対空迎撃射撃』を行っているのである。
水上偵察機がシーナとカウルのいる右舷の上空を、艦の前方から飛行してきた。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
自分の前を左から右に通過した曳航標的をシーナが射撃する。
「弾ぁ!!」
全弾を発射したシーナは、そばで控えているカウルに弾薬を要求する。
あっという間に全ての弾薬を撃ち尽くされ、意表をつかれたカウルは、慌てて背嚢から新たな大型弾倉を取り出し、すぐさまそれに『心』を込める。
「はやくしろ!」
シーナがカウルに怒鳴る。
カウルはぐっと、弾倉を握る両手に力を込めた。
ぱあっ、と淡い光とともに『心』が弾倉に注入される。
「遅せえよ屑!」
そうして急いで弾層をシーナに渡すも、カウルはシーナから罵声を浴びせられた。
ブウン、とプロペラの音とともに水上偵察機が、今度は艦尾から艦首方向へ飛んでいく。
遅れて曳航標的が艦の右舷にいるカウルたちの前を、右から左に通過する。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
シーナが銃口を右から左にずらしながら、曳航標的を狙撃する。
瞬く間に弾倉のなかにある十発のうち半分の弾薬をを撃ち尽くした。
カウルは次の弾倉を背嚢から取り出し、今度は遅れがないようにあらかじめ準備する。
カウルの役割は『対空迎撃要員』の補佐──心を込めた弾薬の補給である。
『鼓動』では、人の『心』そのものを消費する。体のなかの『心』を一部、物体へと移動させるのが『鼓動』の術だからである。
だが、人の『心』は無尽蔵ではない。休息をとればすり減った『心』は回復するが、ある一時のうちに消耗し続ければ、やがて底をついてしまう。
『心』の消耗は、はじめ精神を耗弱させ、次に肉体の衰弱を招き、最悪の場合で死にも至る。
シーナ自身も『鼓動』を扱うことができるが、射撃する弾薬すべてに自分の『心』だけを込めていたら、すぐに消耗してしまう。
そのため、ほかの戦闘技術は特に持っていなくとも、とりあえず対象に『心』を込めることぐらいならできる他の兵士が、その弾薬の補給役として『対空迎撃要員』には割り当てられていた。
新兵訓練を終えたばかりで、他になんの技能も有しない二等兵であるカウルがそこにいるのは、そのためであった。
今年十八歳になったカウルは、戦況の悪化とともに出された徴兵令の対象となり、兵士としての適性が審査された。
カウルの身体は健康で、兵役に耐えるとされた。
だが、カウルには人並みに丈夫な体のほかに、もうひとつのある能力があった。
それが『鼓動』──優しい性格で、物を大切にする少年であったカウルには、物体に『心』を込める『鼓動』の素質があったのだ。
バン!バン!
甲板の各所で発砲音が鳴る。各分隊に配置された、シーナと同じ『対空迎撃要員』である兵士がそれぞれの持ち場で『対空迎撃射撃』を行っているのである。
水上偵察機がシーナとカウルのいる右舷の上空を、艦の前方から飛行してきた。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
自分の前を左から右に通過した曳航標的をシーナが射撃する。
「弾ぁ!!」
全弾を発射したシーナは、そばで控えているカウルに弾薬を要求する。
あっという間に全ての弾薬を撃ち尽くされ、意表をつかれたカウルは、慌てて背嚢から新たな大型弾倉を取り出し、すぐさまそれに『心』を込める。
「はやくしろ!」
シーナがカウルに怒鳴る。
カウルはぐっと、弾倉を握る両手に力を込めた。
ぱあっ、と淡い光とともに『心』が弾倉に注入される。
「遅せえよ屑!」
そうして急いで弾層をシーナに渡すも、カウルはシーナから罵声を浴びせられた。
ブウン、とプロペラの音とともに水上偵察機が、今度は艦尾から艦首方向へ飛んでいく。
遅れて曳航標的が艦の右舷にいるカウルたちの前を、右から左に通過する。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
シーナが銃口を右から左にずらしながら、曳航標的を狙撃する。
瞬く間に弾倉のなかにある十発のうち半分の弾薬をを撃ち尽くした。
カウルは次の弾倉を背嚢から取り出し、今度は遅れがないようにあらかじめ準備する。
カウルの役割は『対空迎撃要員』の補佐──心を込めた弾薬の補給である。
『鼓動』では、人の『心』そのものを消費する。体のなかの『心』を一部、物体へと移動させるのが『鼓動』の術だからである。
だが、人の『心』は無尽蔵ではない。休息をとればすり減った『心』は回復するが、ある一時のうちに消耗し続ければ、やがて底をついてしまう。
『心』の消耗は、はじめ精神を耗弱させ、次に肉体の衰弱を招き、最悪の場合で死にも至る。
シーナ自身も『鼓動』を扱うことができるが、射撃する弾薬すべてに自分の『心』だけを込めていたら、すぐに消耗してしまう。
そのため、ほかの戦闘技術は特に持っていなくとも、とりあえず対象に『心』を込めることぐらいならできる他の兵士が、その弾薬の補給役として『対空迎撃要員』には割り当てられていた。
新兵訓練を終えたばかりで、他になんの技能も有しない二等兵であるカウルがそこにいるのは、そのためであった。
今年十八歳になったカウルは、戦況の悪化とともに出された徴兵令の対象となり、兵士としての適性が審査された。
カウルの身体は健康で、兵役に耐えるとされた。
だが、カウルには人並みに丈夫な体のほかに、もうひとつのある能力があった。
それが『鼓動』──優しい性格で、物を大切にする少年であったカウルには、物体に『心』を込める『鼓動』の素質があったのだ。
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