9 / 23
一章:人狼チュートリアル
8話:反省 IN 自室
しおりを挟む
自己紹介の後、古里太たち全員は、台所で食料品を物色した。
台所には大きな冷蔵庫や、食品や食器を入れる棚がある。
そこで、電子レンジで温めるなど、簡単な調理だけで食べられる、
インスタント食品、レトルト食品、缶詰などをあさった。
それを持ち帰り、それぞれの自室で夕食を取り、
そのまま寝るというのが、今日に残された予定だ。
一階にあるシャワーと、一階二階の両方にあるトイレ、
それ以外の場所にはなるべく行かないようにしよう、
というのが全員で合意した意見だった。
今日、初めて知らされた「人狼ハーレム」。
そのデスゲームに強制参加させられている、
という衝撃は、少年少女にはあまりにも大き過ぎた。
その出来事を受け止めて、明日以降どう動くか、
という考えをまとめるのに、一日目の残りを使う。
それに、まだ本当に安全かどうかも分からない。
人狼の殺人と処刑以外に危険はないはずだが、
犯罪組織に絶対の保証を期待できるかは疑問だ。
もちろん、明日になれば安全か、という疑問もあるが、
一日くらいは様子見したいのが、人情というものだ。
明日は個別面談の予定だが、古里太と話す相手以外は、
この館の部屋を手分けして調査する予定だ。
ゲームは一週間しかないのだから、明日には着手したい。
台所で食料を入手したゲームメンバーは、
それぞれの自分の部屋へと向かう。
この部屋割りは、古里太が一番に指定して、
後の部屋は女子の話し合いで決めた。
委員長はまたグズグズ文句を言っていたものの、
女子たちの共感を得られず、古里太が押し切れた。
この館の個室は、一階と二階、
その南西と南東の角に、合計八部屋ある。
古里太の部屋は、一階南西の角部屋。
すぐとなりには湾子の部屋がある。
一階南東の角部屋は、小夜里。隣は兎。
二階南西の角部屋は、小音子。隣は貴常。
二階南東の個室二部屋は、空室になっている。
われわれゲームメンバーが六人だからだ。
自室に来た古里太。室内は洋装で、
シンプルながらホテルのように、
気品を感じる空間だった。
室内にはベッド、テーブルとイス、
本や小物を収める棚などがある。
窓の外には、草木が生い茂った庭が見える。
窓を軽く叩いてみた感じ、強化ガラスのようだが、
窓を破って外に逃げる……といった気は、そもそもない。
かりに窓を破れたとしても、
外にはどう猛な番犬が待ちかまえているし、
ハーレムの権利を捨てることになるからだ。
ちなみに、液晶モニタが置いてあった、
玄関ホールの扉は、もちろん鍵が掛かっていた。
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……!」
古里太は、逃げようという弱い心を戒めようと、
小さな声でつぶやき、自分自身に言い聞かせた。
古里太は、大きなため息をついてイスに座り、
持ってきたジュースの缶を、プシュッと開けた。
台所には酒もあった。しかし、古里太は手を出さない。
これから人が殺されようとしているのに、酒を飲むのか、
といったモラルの問題ではなく、リスクの問題からだ。
もし、酒に酔っているときに、誰かから襲われたら、
抵抗できずに、そのまま殺されてしまうかもしれない。
「人狼ハーレム」のゲームルール上、
殺人するのは人狼だけだし、その相手に古里太は含まれない。
しかし、そもそも犯罪組織である運営が、
ゲームルールを遵守するのか疑問が残るし、
ゲーム外でイレギュラーな殺人が起こる可能性だってある。
古里太は人一倍、用心深い性格だったので、
目先の欲求に負けるような男ではなく、
酒は一滴も飲まないことにした。
ハーレムを得てから、好きなだけ酒池肉林を楽しめば良い。
それにしても、ジュースが美味い。
オレンジの甘味が口の中に広がる。
喉が渇いている時の一杯は格別だ。
ゴクゴク喉を鳴らして飲む。
と、首まわりが急に気になった。
首に首輪がはめられている。
それまでも違和感はあったのだが、
首つり動画を見せられたりして、それどころではなかった。
しかし、部屋で落ち着いていると、気になってくる。
なぜ、プレイヤーたちに首輪をつけたのだろうか。
万が一、古里太たちが逃亡した時に備えて、
追跡できるよう、発信器でも仕込んであるのだろうか?
首に手をやったが、ちょっとやそっとの力では外れない。
しかしとりあえず、首輪のことは忘れることにした。
道具を使えば外せるかもしれないが、
外した瞬間、爆発でもしないか心配だ。
サイズがちょうどピッタリに作られていて、
別に息が苦しいといった問題はない。
それから、人狼館のパンフレットのような紙の資料に、
あらためてじっくり目を通してみた。
「人狼ハーレム」の概要も書いてある。
女子たちは、これを見て、デスゲームに巻き込まれたことを、
半信半疑ながら予想していたから、緊張していたのか?
あるいは、女子同士で議論して、その結論に到ったか?
そういう、女子の集団から取り残される不安もある。
プレイヤーに男子はひとりしかいないが、
ハーレムマスターである自分が主導権を握っていかないと。
「しかし、それにはあのメガネ委員長が、邪魔だな……」
古里太は、オレンジジュースを味わいながら、
さっきの出来事をふり返っていた。反省タイムだ。
まず、牙王による人狼ハーレムの説明。
ゲームメンバーの自己紹介、
そして、敵意むき出しに反抗してきた委員長。
噛みついてくる委員長に対して、
これからどう対処すればいいのか?
たんに処刑してしまおうか? それが、一番シンプルな解決策だ。
しかし、本当にそれでいいのか? という疑問も浮かぶ。
人狼かどうかを予想して処刑するのが、ゲームの本筋ではないか?
かりに処刑するとしても、それをみんなの前で公言したり、
さらには、処刑を予想されるような態度すら取れない。
なぜなら、処刑対象が確定される、と奴隷たちに予期されると、
一度にひとりしか処刑できないから、委員長が処刑対象なら、
さしあたり自分は大丈夫だろう、という安心感を与えてしまう。
すると、「性的誘惑」する必要性もなくなってしまう。
処刑の恐怖がハーレム形成の原動力なのだから、
古里太にとって、それはまずい展開だ。
だが、そうやって下手に出ることで、
ますます委員長をつけあがらせるだろう。
難しい問題なので、パッとした解決案は、
古里太の頭の中に浮かばなかった。
メガネ委員長こと小夜里は、どういう人物だったかを思いだす。
委員長属性の他の特徴といえば、サブカルの話が好きな女オタクだった。
「サブカルクソザコ委員長め……!」
彼女に勝手に変なあだ名をつけて、古里太は心の中で見下す。
虚しい精神勝利法だったが、それを自覚しつつ、
そのうちみんなの前でも、堂々と勝利しよう、と心に誓う。
「コンコン」
とつぜん、部屋をノックする音。誰だろう?
古里太は、慎重にそろりとドアを開けた。
「ギ、ギィー」
ドアがきしんだ音を立てながら開く。
洋館もののADVゲームで聞くような音だ。
この館が古いのか、建て付けが悪いのか、
だいたいどの館でもそういうものなのか、
豪邸に住んだことがないので分からない。
さて、ドアの向こうに現れた者は……。
台所には大きな冷蔵庫や、食品や食器を入れる棚がある。
そこで、電子レンジで温めるなど、簡単な調理だけで食べられる、
インスタント食品、レトルト食品、缶詰などをあさった。
それを持ち帰り、それぞれの自室で夕食を取り、
そのまま寝るというのが、今日に残された予定だ。
一階にあるシャワーと、一階二階の両方にあるトイレ、
それ以外の場所にはなるべく行かないようにしよう、
というのが全員で合意した意見だった。
今日、初めて知らされた「人狼ハーレム」。
そのデスゲームに強制参加させられている、
という衝撃は、少年少女にはあまりにも大き過ぎた。
その出来事を受け止めて、明日以降どう動くか、
という考えをまとめるのに、一日目の残りを使う。
それに、まだ本当に安全かどうかも分からない。
人狼の殺人と処刑以外に危険はないはずだが、
犯罪組織に絶対の保証を期待できるかは疑問だ。
もちろん、明日になれば安全か、という疑問もあるが、
一日くらいは様子見したいのが、人情というものだ。
明日は個別面談の予定だが、古里太と話す相手以外は、
この館の部屋を手分けして調査する予定だ。
ゲームは一週間しかないのだから、明日には着手したい。
台所で食料を入手したゲームメンバーは、
それぞれの自分の部屋へと向かう。
この部屋割りは、古里太が一番に指定して、
後の部屋は女子の話し合いで決めた。
委員長はまたグズグズ文句を言っていたものの、
女子たちの共感を得られず、古里太が押し切れた。
この館の個室は、一階と二階、
その南西と南東の角に、合計八部屋ある。
古里太の部屋は、一階南西の角部屋。
すぐとなりには湾子の部屋がある。
一階南東の角部屋は、小夜里。隣は兎。
二階南西の角部屋は、小音子。隣は貴常。
二階南東の個室二部屋は、空室になっている。
われわれゲームメンバーが六人だからだ。
自室に来た古里太。室内は洋装で、
シンプルながらホテルのように、
気品を感じる空間だった。
室内にはベッド、テーブルとイス、
本や小物を収める棚などがある。
窓の外には、草木が生い茂った庭が見える。
窓を軽く叩いてみた感じ、強化ガラスのようだが、
窓を破って外に逃げる……といった気は、そもそもない。
かりに窓を破れたとしても、
外にはどう猛な番犬が待ちかまえているし、
ハーレムの権利を捨てることになるからだ。
ちなみに、液晶モニタが置いてあった、
玄関ホールの扉は、もちろん鍵が掛かっていた。
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……!」
古里太は、逃げようという弱い心を戒めようと、
小さな声でつぶやき、自分自身に言い聞かせた。
古里太は、大きなため息をついてイスに座り、
持ってきたジュースの缶を、プシュッと開けた。
台所には酒もあった。しかし、古里太は手を出さない。
これから人が殺されようとしているのに、酒を飲むのか、
といったモラルの問題ではなく、リスクの問題からだ。
もし、酒に酔っているときに、誰かから襲われたら、
抵抗できずに、そのまま殺されてしまうかもしれない。
「人狼ハーレム」のゲームルール上、
殺人するのは人狼だけだし、その相手に古里太は含まれない。
しかし、そもそも犯罪組織である運営が、
ゲームルールを遵守するのか疑問が残るし、
ゲーム外でイレギュラーな殺人が起こる可能性だってある。
古里太は人一倍、用心深い性格だったので、
目先の欲求に負けるような男ではなく、
酒は一滴も飲まないことにした。
ハーレムを得てから、好きなだけ酒池肉林を楽しめば良い。
それにしても、ジュースが美味い。
オレンジの甘味が口の中に広がる。
喉が渇いている時の一杯は格別だ。
ゴクゴク喉を鳴らして飲む。
と、首まわりが急に気になった。
首に首輪がはめられている。
それまでも違和感はあったのだが、
首つり動画を見せられたりして、それどころではなかった。
しかし、部屋で落ち着いていると、気になってくる。
なぜ、プレイヤーたちに首輪をつけたのだろうか。
万が一、古里太たちが逃亡した時に備えて、
追跡できるよう、発信器でも仕込んであるのだろうか?
首に手をやったが、ちょっとやそっとの力では外れない。
しかしとりあえず、首輪のことは忘れることにした。
道具を使えば外せるかもしれないが、
外した瞬間、爆発でもしないか心配だ。
サイズがちょうどピッタリに作られていて、
別に息が苦しいといった問題はない。
それから、人狼館のパンフレットのような紙の資料に、
あらためてじっくり目を通してみた。
「人狼ハーレム」の概要も書いてある。
女子たちは、これを見て、デスゲームに巻き込まれたことを、
半信半疑ながら予想していたから、緊張していたのか?
あるいは、女子同士で議論して、その結論に到ったか?
そういう、女子の集団から取り残される不安もある。
プレイヤーに男子はひとりしかいないが、
ハーレムマスターである自分が主導権を握っていかないと。
「しかし、それにはあのメガネ委員長が、邪魔だな……」
古里太は、オレンジジュースを味わいながら、
さっきの出来事をふり返っていた。反省タイムだ。
まず、牙王による人狼ハーレムの説明。
ゲームメンバーの自己紹介、
そして、敵意むき出しに反抗してきた委員長。
噛みついてくる委員長に対して、
これからどう対処すればいいのか?
たんに処刑してしまおうか? それが、一番シンプルな解決策だ。
しかし、本当にそれでいいのか? という疑問も浮かぶ。
人狼かどうかを予想して処刑するのが、ゲームの本筋ではないか?
かりに処刑するとしても、それをみんなの前で公言したり、
さらには、処刑を予想されるような態度すら取れない。
なぜなら、処刑対象が確定される、と奴隷たちに予期されると、
一度にひとりしか処刑できないから、委員長が処刑対象なら、
さしあたり自分は大丈夫だろう、という安心感を与えてしまう。
すると、「性的誘惑」する必要性もなくなってしまう。
処刑の恐怖がハーレム形成の原動力なのだから、
古里太にとって、それはまずい展開だ。
だが、そうやって下手に出ることで、
ますます委員長をつけあがらせるだろう。
難しい問題なので、パッとした解決案は、
古里太の頭の中に浮かばなかった。
メガネ委員長こと小夜里は、どういう人物だったかを思いだす。
委員長属性の他の特徴といえば、サブカルの話が好きな女オタクだった。
「サブカルクソザコ委員長め……!」
彼女に勝手に変なあだ名をつけて、古里太は心の中で見下す。
虚しい精神勝利法だったが、それを自覚しつつ、
そのうちみんなの前でも、堂々と勝利しよう、と心に誓う。
「コンコン」
とつぜん、部屋をノックする音。誰だろう?
古里太は、慎重にそろりとドアを開けた。
「ギ、ギィー」
ドアがきしんだ音を立てながら開く。
洋館もののADVゲームで聞くような音だ。
この館が古いのか、建て付けが悪いのか、
だいたいどの館でもそういうものなのか、
豪邸に住んだことがないので分からない。
さて、ドアの向こうに現れた者は……。
0
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる