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一章:人狼チュートリアル
1話:覚醒 IN 人狼館
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伊木野古里太(いきの・こりた)が目覚めたのは、
何かうるさい館内放送によってだった。
寝ぼけていたので、その大半を聞き逃してしまったが、
「ジンロウ」と「ハーレム」という言葉だけは耳に残っている。
「人狼ハーレム……? なんだかピンと来ないな」
テーブルトークゲーム、あるいはTRPGの「人狼」と、
ギャルゲやエロゲでよく見る「ハーレム」と、
両者のイメージが、頭の中でうまく結びつかなかった。
また、首に何かの感触がある。
首輪のようなモノがハメられているのか。
ちょっと触った位では、簡単には外せない。
しかし、それよりはるかに気になることがあった。
古里太は、昨日の記憶をぜんぜん思い出せない。
「記憶がない……? それに、ここはどこだ!?」
古里太は、ベッドから半身を起こすと、室内を見回した。
普通の洋室で窓の外には、草木や花が茂る庭が広がっている。
テーブルの上には、この建物の見取り図と、何か説明が書かれた、
案内図やパンフレットのような紙が置かれていた。
その状況の不自然さを、少し不思議には思ったものの、
彼は案内図を取って、ドアの外に出た。
ひとりしかいない部屋に留まっていても、仕様がない。
廊下に出ると、何か音声が聞こえる。
遠くのスピーカーで、何かの音楽を流しているようだ。
彼は音のする方向に向かっていった。
カーペットが敷かれた、少し長い廊下を歩いていく。
ここはどうやら、富豪が住む豪邸らしい。
そんな家主が、ごく普通の男子学生である古里太に、
いったい何の用があるというのだろう?
廊下から玄関ホールにたどり着く。
天井が高く、広々とした空間だ。
外部と出入りする玄関のドアの前に、
大きな液晶モニタがすえ置かれている。
その周囲を、何人か少女が取り囲んでいる。
学生の制服を着た女子生徒たちだ。
見慣れている、古典的な黒いセーラー服。
「ウチの学園……というか、あの娘らじゃないか」
古里太は、見知っている彼女たちに声を掛けようとしたが、
近づいていくと、彼女たちの異様な雰囲気に声が出なかった。
学園では、休み時間や昼休み、放課後など、
ヒマさえあれば、女子はお喋りに興じている。
「女三人寄れば姦(かしま)しい」のことわざ通り。
ところが、その女子生徒が一言も発していない。
古里太がそばに近づいて行っても、
にらみつけるような鋭い視線が刺さるだけ。
女たちから仲間はずれにされているようで、
多少疎外感は覚えたものの、
集団からの無言の威圧感の方が勝った。
何か大事なイベントが起こるのかもしれない、
と場の空気を読んで黙っていることにした。
女子たちが見ていたのは、液晶モニタだ。
玄関ホールの中央、テーブル上に置かれた
大きな液晶モニタには、草原に建つ屋敷の風景が映っており、
クラシック音楽のBGMが流れていた。
要は、深夜のテレビで流しているようなイメージ映像だ。
女子たちは、何でこんなものを、真剣に眺めているのか?
この屋敷を撮影した映像を流しているのか?
だが突然、映画のタイトルのような画面に切り替わった。
黒字に白で「ようこそ人狼館へ」と映し出される。
BGMが途切れて、無音の状態になる。
衣ずれの音まで聞こえるくらい、
玄関ホールはシーンと静まりかえる。
まるでコンサートやイベントが始まる瞬間のような、
周囲の異様な緊迫感に、古里太は圧倒されていた。
古里太は、遠足や社会科見学のような学園のイベントで、
たまたまこの館に泊まっていたのかもしれないと考えた。
画面が「人狼ハーレムのルール説明」という文字に切り替わる。
その瞬間、女子たちが震えたり、手をギュッと握りしめたり、
小さい声にならない叫びを上げたり、
異常な徴候を見せたのを、古里太は見逃さなかった。
どうやら何か非常事態が起こっている、ということは、
女子の空気から、何となく伝わってきた。
しかし、今の彼にできることといえば、
ただ黙って、液晶画面を見つめることだけだった。
何かうるさい館内放送によってだった。
寝ぼけていたので、その大半を聞き逃してしまったが、
「ジンロウ」と「ハーレム」という言葉だけは耳に残っている。
「人狼ハーレム……? なんだかピンと来ないな」
テーブルトークゲーム、あるいはTRPGの「人狼」と、
ギャルゲやエロゲでよく見る「ハーレム」と、
両者のイメージが、頭の中でうまく結びつかなかった。
また、首に何かの感触がある。
首輪のようなモノがハメられているのか。
ちょっと触った位では、簡単には外せない。
しかし、それよりはるかに気になることがあった。
古里太は、昨日の記憶をぜんぜん思い出せない。
「記憶がない……? それに、ここはどこだ!?」
古里太は、ベッドから半身を起こすと、室内を見回した。
普通の洋室で窓の外には、草木や花が茂る庭が広がっている。
テーブルの上には、この建物の見取り図と、何か説明が書かれた、
案内図やパンフレットのような紙が置かれていた。
その状況の不自然さを、少し不思議には思ったものの、
彼は案内図を取って、ドアの外に出た。
ひとりしかいない部屋に留まっていても、仕様がない。
廊下に出ると、何か音声が聞こえる。
遠くのスピーカーで、何かの音楽を流しているようだ。
彼は音のする方向に向かっていった。
カーペットが敷かれた、少し長い廊下を歩いていく。
ここはどうやら、富豪が住む豪邸らしい。
そんな家主が、ごく普通の男子学生である古里太に、
いったい何の用があるというのだろう?
廊下から玄関ホールにたどり着く。
天井が高く、広々とした空間だ。
外部と出入りする玄関のドアの前に、
大きな液晶モニタがすえ置かれている。
その周囲を、何人か少女が取り囲んでいる。
学生の制服を着た女子生徒たちだ。
見慣れている、古典的な黒いセーラー服。
「ウチの学園……というか、あの娘らじゃないか」
古里太は、見知っている彼女たちに声を掛けようとしたが、
近づいていくと、彼女たちの異様な雰囲気に声が出なかった。
学園では、休み時間や昼休み、放課後など、
ヒマさえあれば、女子はお喋りに興じている。
「女三人寄れば姦(かしま)しい」のことわざ通り。
ところが、その女子生徒が一言も発していない。
古里太がそばに近づいて行っても、
にらみつけるような鋭い視線が刺さるだけ。
女たちから仲間はずれにされているようで、
多少疎外感は覚えたものの、
集団からの無言の威圧感の方が勝った。
何か大事なイベントが起こるのかもしれない、
と場の空気を読んで黙っていることにした。
女子たちが見ていたのは、液晶モニタだ。
玄関ホールの中央、テーブル上に置かれた
大きな液晶モニタには、草原に建つ屋敷の風景が映っており、
クラシック音楽のBGMが流れていた。
要は、深夜のテレビで流しているようなイメージ映像だ。
女子たちは、何でこんなものを、真剣に眺めているのか?
この屋敷を撮影した映像を流しているのか?
だが突然、映画のタイトルのような画面に切り替わった。
黒字に白で「ようこそ人狼館へ」と映し出される。
BGMが途切れて、無音の状態になる。
衣ずれの音まで聞こえるくらい、
玄関ホールはシーンと静まりかえる。
まるでコンサートやイベントが始まる瞬間のような、
周囲の異様な緊迫感に、古里太は圧倒されていた。
古里太は、遠足や社会科見学のような学園のイベントで、
たまたまこの館に泊まっていたのかもしれないと考えた。
画面が「人狼ハーレムのルール説明」という文字に切り替わる。
その瞬間、女子たちが震えたり、手をギュッと握りしめたり、
小さい声にならない叫びを上げたり、
異常な徴候を見せたのを、古里太は見逃さなかった。
どうやら何か非常事態が起こっている、ということは、
女子の空気から、何となく伝わってきた。
しかし、今の彼にできることといえば、
ただ黙って、液晶画面を見つめることだけだった。
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