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33.役割が変わりました
しおりを挟む自由だと言いながらも実質ひとつしかない選択肢。
しかもその選択肢は私の人生の行き先を選択させるものだった。
真実を知りたくないと言ったらそこで陛下との話は終わるけど、それと同時に私の人生も終わる。全てを知ってる訳じゃないけど、シルベスタ侯爵が全ての黒幕で、陛下達がその罪を詳らかにしようとしている事を知ってしまった時点で、私の存在を野放しにするなんて優しい真似はしないだろう。
いくら絶対に他言しないと誓ったところで、第一級秘匿事項であろう情報を知ってしまった人間は、仲間に引き入れた上で動向を監視するか、その存在を無かったことにするかのどちらかしかないと思うから。
──というわけで。
私はあっさり真実を知る選択をしました。
迷うような余地なんてどこにもなかったよねー。
だってせっかく記憶が戻ってこの世界があのゲームの世界かもしれないって思ったばかりだったのに、もう二度目の人生が終わるとかあり得ないし。
それに王太子殿下の教育係として王宮に送り込まれた時点で、物語の盛り上げ要員としてのメリンダの役割は終わってる筈だから、ここからはゲームとは関係のない新しいメリンダとしての人生が始められるはず。
何より記憶が戻ってから命の危機ばかりだったから、もういい加減にこれからも人生が続いていくっていう保証が欲しかった。
まあ、その私の人生はというと、これからも続いていく代わりに、大きく変わっちゃったんだけどね……。
『ただの被害者のままでいることは許されない』っていう陛下の言葉どおり、私は訳もわからず誰かの悪意に翻弄されるだけの人間ではなくなった。
打倒シルベスタ侯爵! 目指せ平穏なセカンドライフ!
それを心の合言葉に、私は国王陛下の指示のもとで、与えられた役割を新たに演じることになったのだ。
そのせいで誰かが泣いたり傷ついたりすることも全て承知の上で。
「お綺麗ですわ。さすがユリアーネ様のご息女様。こうしてドレスアップした姿を改めて拝見しますと、ユリアーネ様と同じく圧倒されるようなオーラを感じます。これならば間違いなく、今日のパーティーはメリンダ様の話題で持ちきりでしょう。いかがでしょうか? 陛下」
「ああ、これならば会場の視線も話題も独占できるな。マチルダ、御苦労だった」
「いえ、大変に、大変に、楽しゅうございました。これからまだ何度もこのような機会があると思うと腕がなりますわ」
「メリンダにはその存在感をたっぷりとシルベスタ侯爵とその一派に見せつけてもらわないとならないからな。次も頼むぞ」
「お任せください」
「とっくに亡き者になってると思っていたメリンダが、エドヴァルドの成人を祝うパーティーで、その主役であるエドヴァルドにエスコートされて華々しく登場したらどんな事になるのか。シルベスタ侯爵は自信たっぷりにエドヴァルドの相手には自分の孫娘が選ばれると吹聴していたらしいからな。どんな反応をするか二重の意味で楽しみだ」
嬉しそうに話す侍女長さんことマチルダさんと国王陛下。
マチルダさんは単に『ユリアーネ様の娘』を着飾れることに喜びを感じているだけという気もしないでもないが、陛下はやっと作戦が本格始動出来ることが嬉しいのだろうと思われる。
私は二人の会話を笑顔で聞いてるけど、内心不安で仕方ない。
私の新しい役割、それは、シルベスタ侯爵の思惑を阻止し、彼の焦りを最大限に引き出すための布石。
そのために私は今日、効果的な餌になるための一歩として、王太子殿下の成人を祝う誕生パーティーで、王太子殿下にエスコートされ華々しく社交界デビュー(十九歳にもなって、しかも人妻なのに社交界デビューもへったくれもないんだけど、私は今までそういうのに縁のない生活をしてきてこれが始めてだから一応デビューという名前がついている)を飾ることになったのだ。
そして私は今回の事を皮切りに、これから暫くパーティーなどに顔を出し、社交界を引っ掻き回す予定になっている。
私の立場や身分は公にはされないが、大事な成人の祝いにエスコートする相手として選ばれた相手とあれば、そこに参加した貴族たちは挙って私の情報を集めだすだろう。
ハリス子爵令嬢だった人間がバンフィールド辺境伯夫人になったことは知っていても、そこに至るまでの経緯を知っている人はほとんどいない。
そこで今まで明らかになってこなかった真実を少しずつ噂という形で流して、私には同情を、シルベスタ侯爵には疑惑の目が向くように仕向けるのが目的だ。
貴族というものは噂好きな生き物だから、今まで燻っていたシルベスタ侯爵の悪い噂が実しやかに囁かれるようになるまでに、それほど時間はかからないと思われる。
すぐには効果がなくても、精神的ダメージが蓄積されていけば、必ず綻びが生まれ隙が出来る。悪事の証拠も出やすくなるだろう。
どうやら私やヘンリーおじさまに関する悪意ある噂は、シルベスタ侯爵が流させていたものらしいということがわかったから、シルベスタ侯爵には是非とも噂の恐ろしさを実感してから罪に問われてもらいたい。
そのためにも、結構しんどい役割だけど期間限定のものだと割り切って、女優になったつもりで頑張ろうと思ってはいるけれど。
所詮は付け焼き刃だから、王太子殿下に恥をかかせないようにするだけで精一杯だったりして。
そう考えるだけで足が震える。
私、そんなに本番に強いほうじゃないんだよな……。
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