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29.便利だったよね……
しおりを挟む記憶の奥底から『悪魔の証明』なんて尤もらしい名前のついたものを引っ張りだしてきたものの、言ってることは所詮は屁理屈。要は強引に押し切って何となく納得させたもの勝ちってこと。
だから私もその手法で是非とも前世があるということを信じてもらって、詳しく説明しなくても済むようにしたいと思ってるんだけど。
さて、まずは。
「皆様は前世などというものは、存在しないものであるとお考えなのでしょうか?」
ここでないと言われたらそのまま『じゃあ前世などというものがないことを証明して下さい』と続ければいい。
なんて思っていたら。
「いや、ないとは思っていない」
国王陛下から即座に言葉が返ってきた。
あれ!? 最初でもう前世を肯定するような発言されちゃったんだけど……。ここからどうすればいいわけ!?
「──でしたら、何故証明せよと仰るのでしょう? そもそも私の話を聞いたところで、信用するかしないかは皆様方のお気持ちひとつで変わるものだと思いますが」
初っ端から予定が狂ってしまったが為にちょっと動揺が隠せなかったかもしれないけど、上手く切り返せたと思う。
だけどここからどうしよう……。
「なるほど。メリンダ嬢は最初から我々が君の話を信じていないことを前提にしていたんだね」
そうそう。そのとおりです。
「荒唐無稽な話だと一笑に付されても仕方ないことだと承知しておりますので」
「では証明ではなく、ただそれを信じたいがために話を聞きたいのだと言ったら?」
「文化も発展具合も違う世界の話を私自身が皆様方に理解していただけるよう上手く説明出来る自信はございませんが、お望みとあらば知っている事を全てお話させていただきます」
「なるほどな。捉えようによっては、君という存在こそが前世というものがあることの証明にもなるわけか」
そこまで言ってないけど、なんだかいい感じの流れになってきたから黙っておこう。
「君の前世は平民だという話だけれど、君が暮らしていたところはどのような政治体制だったんだ? 王はいたのか?」
「私の住んでいた国に王という存在はおりませんでした。皇族と呼ばれるこの世界での王家のような存在の方々はいらっしゃいましたが、その役割は国の象徴であり、国政に関わることはありません。政治は選挙という自分達の代表者を決める投票によって選ばれた者達が、国会という大きな会議場のような場で話し合いながらすすめるといった感じでしょうか。それらは全て憲法という国の基本的な国家体制など様々な決定に関する根拠のようなものを纏めた法律に基づいて行われます」
ザックリなんてもんじゃなく曖昧過ぎる知識で説明したけど、たぶんこの場に同郷の人がいたらツッコミどころ満載だと思う。
正直政治経済の授業苦手だったし、毎日普通に過ごしてて、国会だの政治だの憲法だのに興味持って深堀りしてまでその存在意義を考えたことなんてなかったし。
わかんないことがあれば、すぐにググッと調べておけば解決してたしね。ホントに便利だったよね……。
「王はいないと? では貴族は?」
「かつて貴族という身分はございましたし、この国と同じように身分制度もございました。しかし私の生きていた時代には廃止されて久しく、国民は全て法のもとに平等という扱いになっていたと記憶しております。そうは言っても貧富の差はございましたし、上流階級というものも存在していたと思われます。庶民でごく普通の家庭に育った私には縁のない世界でしたので、その辺りの説明は出来かねます」
「なるほど。興味深いな。一度じっくりとその話を深堀りして聞いてみたいが」
いえいえ。授業で習った朧げな知識を尤もらしく聞こえるようにサラッと言っただけですから。聞かれても答えられないこと多数だと思います。っていうか興味持つのやめてください。
それよりも、納得していただけたのなら、早く本題お願いします。
って言えたらいいよねー。
「前世が平民だというわりには、しっかりと自分の国の政治制度を理解しているのは何故だ? 専門的な知識を得る為に学んだ経験が?」
まだ続くのか……。
「教育水準の違いだと思います。私のいた国では六歳頃からの九年間、子供達は学校へ通わなければなりません。それは国民の権利であり義務です。そこでは読み書き計算の他、歴史や政治経済、外国語など様々な事を学びます。私の場合はその期間が終わっても高等学校や高等教育機関でより多くの事を学びましたが、政治制度のことを専門的に学んだわけではありません」
だからね。次いこう、次。
なのに。
「その世界にはどのくらいの国が存在するんだ? 他の国も同じような政治体制なのか?」
今度は王太子殿下が興味津々といった感じで話に加わった。
「……あちらの世界には百九十カ国以上もの国があり、政治体制は国によって様々です。王制が残っている国もあれば大統領という国民によって選ばれた国の代表者が強い権限を持つ国もございました。いずれにしてもこちらの世界とは違うことも多いので、ご興味がおありでしたらまた別の機会にお話しさせていただくということでいかがでしょうか?」
このままじゃいつまで経っても本題にたどり着きそうにないので、強制終了とさせていただきますよ。
私の問いかけに王太子殿下が微妙な表情をしてるけど、気付かないふりしとこ。
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