上 下
22 / 40

22.乙女ゲームってすごい

しおりを挟む

どう考えてもこの人達は王太子殿下とライオネルの血縁者。ということはすなわち、国王陛下と騎士団長という組み合わせなんじゃないだろうか?

ゲームじゃおそらく実際に登場することはなかったはずで、曖昧な記憶を掘り返してみても全く記憶に残っていなかったけど、色彩だけじゃなくて、どことなく面差しも王太子殿下とライオネルにそれぞれ似ているから、たぶん私の予想に間違いはないと思う。

そんな二人が何故ここに……?
しかも面白そうな話だなんて、一体どこから聞いてたわけ?
これ、ホントに洗いざらい話さないと命がヤバい状況じゃないの……!?

いかにも面白がってます、って感じで笑っているこの二人にピリピリした雰囲気なんて微塵もないけれど、私にとってはより一層緊迫したシャレにならない状況になってしまっている訳で……。

チラリと王太子殿下とライオネルのほうに視線を向けると、さすがに父親の登場は予想外だったのか、二人共私と同じように固まっていた。
そうだよね……。まさか自分達の父親が寝室の様子を盗み聞きしてるとは思わないよね……。

とはいえ、すごくシュールな状況ではあるけれど、国王陛下っていう最高権力者の登場でこの場の主導権が変わった。
だから、さっき求められた私の推測についての根拠は、これ以上追及されることは無くなったと思いたい。

しかし。

「驚かせてしまったようだね。随分興味深い話をしていたものだから、つい黙っていられずに姿を現してしまった」

私の願いも虚しく、この国王陛下の発言でさっきの件は有耶無耶にはしてもらえそうにないことがわかった。

最悪だ……。

雲の上にもほどがある人達が突然目の前に現れたことでいよいよ進退窮まった感のある私。それでもこのままずっとほうけている訳にもいかず、ガクガクする足に力を入れて立ち上がる。
そして姿勢を正すと、あまり得意ではないけれど、指先にまで神経を使いなるべく雑にならないよう心掛けながら、丁寧に淑女の礼をとった。

さっきライオネルが気を遣ったんだか、何かを狙ってかわからないけど肩にかけてくれた豪華な上着は、申し訳ないことに立ち上がった勢いで床に落ちてしまった。でも今この状況で拾うわけにもいかないので、この件は大目に見て欲しい。

セクシーランジェリーの上にガウンを羽織っただけっていう情けない姿で、国王陛下の前に立ったのは私くらいのものかな、なんてちょっとだけ遠い目をしながら床を見つめ、言葉を待った。

すると。

「今は正式な謁見でもなければ、うるさく見咎める人間もいない。楽にしてくれていい」

「……え? ひゃッ……!」

優しい声が頭上から降り注いだと思ったら、いきなり私の身体が宙を浮いたのだ。
反射的に顔を上げると、超至近距離には大人の色気を漂わせる超絶美形のドアップが。その紫色の瞳は優しく私を見つめている。

「女性の身体に許可なく触れてしまってすまない。でもその体勢と格好では色んな意味で話しづらいだろう? とりあえず部屋を移動して、君の準備が整ってから話を聞こうか」

さっきよりずっと近くなった声。
私の半身に当たっているのは、服越しでもよくわかる筋肉質な身体。一見線が細そうな印象だったのに、意外としっかり鍛えられていることがバッチリ確認出来る。
そんな不敬ともいえる国王陛下の隠された事情がリアルに想像できた途端、男性免疫がほぼゼロな私は、急に訪れた異性との密着、しかもお姫様抱っこ付きという状況に甘いトキメキなど微塵も感じられず、危うく気を失いそうになった。

さっきライオネルとの接触では軽く錯乱状態に陥るほどドギマギさせられたけど、こっちはこっちで色んな意味で心臓が止まりそうなほどの衝撃だ。

この国の最高権力者にお姫様抱っこされてるって……! 

──下手したら首が飛ぶ。

反射的にこの密着状態から逃れようと身動ぎすると、陛下のすぐ斜め後ろにいたワイルド系イケメンの騎士団長とバッチリ目が合ってしまい、何故かウィンクされた。

どういうこと!?

前世では、テレビ画面の向こう側にいるアイドルがファンサでするのを目撃するくらいで、生でお目にかかることなんてないと思ってたのに……。

イケメンは当たり前のようにウィンクするもんなの!? しかもこれどういう意味よ!?

さすがは乙女ゲームというべきか、その容姿はある意味整っていて当然だとしても、やることまでもが現実離れしてるように感じる。

国王陛下にしても、騎士団長にしても子供の年齢から考えても既に三十代後半にさしかかってる筈なのに、その容姿はさすがは乙女ゲームの世界にお住まいの方々としか言い様がないほどに、超絶イケメン。
むしろ大人の深味っていうか、心の余裕っていうか、包容力と滲み出る男の色気的なものが備わっている分、ゲーム開始時でもまだ青臭さが抜けきれてない上に、難ありの攻略対象者達よりも断然好感が持てる感じだ。

でもね。普通偉い人はこんな真似しないのよ。
こんなことがバレたらタダじゃ済まないし、自力で歩かず陛下を足代わりに使うとか畏れ多過ぎて、私の胃がキリキリしてる。

これが主人公だったら、不敬罪だのなんだのなんて全く考えることもなく、ただのラブチャンスの場面になるんだろうけど、私は普通の人間なので、とてもじゃないけどそんな風には思えない。

あらためて思う。

乙女ゲームってすごい……。

何しても恋だの愛だのに繋がってるんだもんな……。

現実じゃ絶対にあり得ない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

処理中です...