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22.乙女ゲームってすごい
しおりを挟むどう考えてもこの人達は王太子殿下とライオネルの血縁者。ということはすなわち、国王陛下と騎士団長という組み合わせなんじゃないだろうか?
ゲームじゃおそらく実際に登場することはなかったはずで、曖昧な記憶を掘り返してみても全く記憶に残っていなかったけど、色彩だけじゃなくて、どことなく面差しも王太子殿下とライオネルにそれぞれ似ているから、たぶん私の予想に間違いはないと思う。
そんな二人が何故ここに……?
しかも面白そうな話だなんて、一体どこから聞いてたわけ?
これ、ホントに洗いざらい話さないと命がヤバい状況じゃないの……!?
いかにも面白がってます、って感じで笑っているこの二人にピリピリした雰囲気なんて微塵もないけれど、私にとってはより一層緊迫したシャレにならない状況になってしまっている訳で……。
チラリと王太子殿下とライオネルのほうに視線を向けると、さすがに父親の登場は予想外だったのか、二人共私と同じように固まっていた。
そうだよね……。まさか自分達の父親が寝室の様子を盗み聞きしてるとは思わないよね……。
とはいえ、すごくシュールな状況ではあるけれど、国王陛下っていう最高権力者の登場でこの場の主導権が変わった。
だから、さっき求められた私の推測についての根拠は、これ以上追及されることは無くなったと思いたい。
しかし。
「驚かせてしまったようだね。随分興味深い話をしていたものだから、つい黙っていられずに姿を現してしまった」
私の願いも虚しく、この国王陛下の発言でさっきの件は有耶無耶にはしてもらえそうにないことがわかった。
最悪だ……。
雲の上にもほどがある人達が突然目の前に現れたことでいよいよ進退窮まった感のある私。それでもこのままずっと惚けている訳にもいかず、ガクガクする足に力を入れて立ち上がる。
そして姿勢を正すと、あまり得意ではないけれど、指先にまで神経を使いなるべく雑にならないよう心掛けながら、丁寧に淑女の礼をとった。
さっきライオネルが気を遣ったんだか、何かを狙ってかわからないけど肩にかけてくれた豪華な上着は、申し訳ないことに立ち上がった勢いで床に落ちてしまった。でも今この状況で拾うわけにもいかないので、この件は大目に見て欲しい。
セクシーランジェリーの上にガウンを羽織っただけっていう情けない姿で、国王陛下の前に立ったのは私くらいのものかな、なんてちょっとだけ遠い目をしながら床を見つめ、言葉を待った。
すると。
「今は正式な謁見でもなければ、うるさく見咎める人間もいない。楽にしてくれていい」
「……え? ひゃッ……!」
優しい声が頭上から降り注いだと思ったら、いきなり私の身体が宙を浮いたのだ。
反射的に顔を上げると、超至近距離には大人の色気を漂わせる超絶美形のドアップが。その紫色の瞳は優しく私を見つめている。
「女性の身体に許可なく触れてしまってすまない。でもその体勢と格好では色んな意味で話しづらいだろう? とりあえず部屋を移動して、君の準備が整ってから話を聞こうか」
さっきよりずっと近くなった声。
私の半身に当たっているのは、服越しでもよくわかる筋肉質な身体。一見線が細そうな印象だったのに、意外としっかり鍛えられていることがバッチリ確認出来る。
そんな不敬ともいえる国王陛下の隠された事情がリアルに想像できた途端、男性免疫がほぼゼロな私は、急に訪れた異性との密着、しかもお姫様抱っこ付きという状況に甘いトキメキなど微塵も感じられず、危うく気を失いそうになった。
さっきライオネルとの接触では軽く錯乱状態に陥るほどドギマギさせられたけど、こっちはこっちで色んな意味で心臓が止まりそうなほどの衝撃だ。
この国の最高権力者にお姫様抱っこされてるって……!
──下手したら首が飛ぶ。
反射的にこの密着状態から逃れようと身動ぎすると、陛下のすぐ斜め後ろにいたワイルド系イケメンの騎士団長とバッチリ目が合ってしまい、何故かウィンクされた。
どういうこと!?
前世では、テレビ画面の向こう側にいるアイドルがファンサでするのを目撃するくらいで、生でお目にかかることなんてないと思ってたのに……。
イケメンは当たり前のようにウィンクするもんなの!? しかもこれどういう意味よ!?
さすがは乙女ゲームというべきか、その容姿はある意味整っていて当然だとしても、やることまでもが現実離れしてるように感じる。
国王陛下にしても、騎士団長にしても子供の年齢から考えても既に三十代後半にさしかかってる筈なのに、その容姿はさすがは乙女ゲームの世界にお住まいの方々としか言い様がないほどに、超絶イケメン。
むしろ大人の深味っていうか、心の余裕っていうか、包容力と滲み出る男の色気的なものが備わっている分、ゲーム開始時でもまだ青臭さが抜けきれてない上に、難ありの攻略対象者達よりも断然好感が持てる感じだ。
でもね。普通偉い人はこんな真似しないのよ。
こんなことがバレたらタダじゃ済まないし、自力で歩かず陛下を足代わりに使うとか畏れ多過ぎて、私の胃がキリキリしてる。
これが主人公だったら、不敬罪だのなんだのなんて全く考えることもなく、ただのラブチャンスの場面になるんだろうけど、私は普通の人間なので、とてもじゃないけどそんな風には思えない。
あらためて思う。
乙女ゲームってすごい……。
何しても恋だの愛だのに繋がってるんだもんな……。
現実じゃ絶対にあり得ない。
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