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21.怪しい……
しおりを挟むいかん、いかん。
またしても危うく軽い錯乱状態に陥るとこだった。
イケメンってスゴい……。
前世からずっと異性との交流に乏しい私なんて、イチコロだ。気をつけないと自我を失う。
「ありがとう存じます。夫もそう思っていてくれたのなら良いのですが……」
さっきうっかり余計な事を暴露しちゃった時とは違い、内心のドキドキはともかく、表面上だけは平静を装うことに成功した。
私だってやれば出来るのだよ。心の中で素数を唱えつつ心頭滅却すれば、イケメン達のオーラを浴びすぎてオーバーヒート気味の私の脳みそも、それなりにクールダウン出来るのさ。
そんな私を見て、王太子殿下が僅かに目を眇める。
なんだか面白くなさそうな感じ。
これが脳内お花畑ヒロインちゃんだったら。
『私が他の男の子と仲良くしてるのが気に入らないのね。キャッ♡』
なーんて自分の妄想爆発の勘違いをしてるところだろうけど、私は騙されない。
いくらヤツらがチョロかろうが、実在してる人間である以上、こんな急激な心境の変化を目の前で見せられたら疑ってかかるべきだと本能が告げている。
喪女だから男性免疫はないけれど、男達の負の視線には敏感なんだから!
王太子殿下の今の視線は、『俺と話せた上にちょっとチヤホヤしてやったのに、なんで喜ばねぇんだよ』って言い捨てた前世の同級生と同じ。
アイツは学校内でもかなり目立ってて、女子からも物凄く人気があった。確かにイケメンではあったし、女子には優しかったけど、なんかその優しさが胡散臭いっていうか、『イケメンな上に性格もいい俺、素敵でしょ? 陰キャにもこんなに優しくしてやってるし。お前みたいなヤツは俺らみたいな人種と関わりあいになることなんてそうそうないんだから、ありがたく思えよ?』っていう嫌な感じがダダ漏れで、逆に引いたんだよね。
なのに、同じ文化祭実行委員だったから接点を持たざるを得ず、必要最低限の接触と会話で済ませようとしていた私に対し一方的に絡んできたアイツ。挙げ句、私から思う通りの反応が引き出せなかったのが余程面白くなかったのか、面と向かってさっきの台詞を吐いたのだ。
私だってイケメンは好きだし、そりゃあチヤホヤされれば悪い気はしない。人並みにお付き合いに夢見たこともあったし、初めては夜景の見えるホテルで、とか妄想したことだってあったさ!
でもね、現実って結構厳しいものなのよ?
前世では全くそんな機会に恵まれず、今はこんな形で寝室に放り込まれてるわけだし。
すっかり脱線しちゃったけど、何が言いたいかっていうとね、王太子殿下のさっきの表情が前世の恩着せがましい同級生と一緒だったってこと。
ということはつまり、チョロ過ぎる反応は見せかけだったってことじゃないかと……。
でもって、私から思ったような反応を引き出せなかったことにちょっとムカついているってことじゃないのかな?
さっき二人が意味深に目配せしてたのは、たぶんこれ。責める姿勢から急に優しくして懐柔しようっていう作戦決行の合図だったんじゃないかと。
もしかしなくとも、まだ絶賛疑われ中ってことなんだろう……。
女嫌いのくせにそんな手段を使うなよ!
その事に気付いたからって表には出しません。なんだかよくわからない対抗心が再燃した私は、今度こそイケメンビームに屈しないよう気合を入れ直し、しれっと話を続けることにした。
「夫が亡くなり、次期辺境伯であるアーネストから一ヶ月以内に身の振り方を決めるよう言われたという話は先程致しましたが、実は職を求めて街に出ておりましたところ、見知らぬ男に突然ナイフを突き付けられ、拐かされそうになったことがございました」
「それって……」
ライオネルは笑顔から一転真剣な表情になる。
「おそらく以前私をしつこく付け回し、危害を加えようとしていた方々でしょう。何の目的なのかはわかりませんが、余程私が目障りなのか、それとも自由に動かれては困るのか。どっちにしろ私の存在が邪魔なのだと思います」
ライオネルと王太子殿下の顔色が明らかに変わった。
「今回私が召喚状で殿下の教育係として呼ばれたのがどういう意図なのかわかりません。でもそれを画策した人間と私に危害を加えようとしていた人間はおそらく同じであると推測しております」
「……その根拠は? 何故僕を害そうとする人間にメリンダが狙われる必要がある?」
さすがにそこまではわかんないって言ってるじゃん。
でも万が一王太子殿下に何かあった場合、犯人に仕立て上げられるのは私だってことくらいはわかってるけど。
ウ~ン。根拠、根拠。
せめて王太子殿下とライオネルが黒だと目星をつけている人間の名前がわかれば繋がりも見えてくるんだけどな……。
懸命に考えを捻り出そうとしていたその時。
マントルピースの脇にあるレンガの壁がガコッと音をたてたと思ったら、そこが扉のように開き、人がひとり通れるほどの幅の空間が現れた。
そして。
「何だか面白そうな話をしてるじゃないか。是非とも私も交ぜてくれ」
輝くような見事な金髪の男性と、燃えるような赤い髪の男性が突如姿を現した。
誰の血縁者かひと目でわかる容貌に、私は床に座り込んだまま、唖然と見上げた。
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