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7.八方塞がり
しおりを挟むあれから三週間。
何ひとつ解決の糸口を見つけられないまま、いたずらに時だけが過ぎている状態に、私の焦りは最高潮に達していた。
「あ~、ホントにどうしよう」
そう呟いたところで誰が答えてくれるわけでも、状況が変わるわけでもなく、ひとりきりの室内に私の声が虚しく響くだけだと思ってもやめられない。
ここはバンフィールド辺境伯家の屋敷の中にある私の部屋。
この部屋は結婚に際して夫が私に与えてくれた部屋で、この屋敷の主人が使う部屋と同じフロアに位置している。
形だけの結婚なのに夫婦の寝室を使うわけにも、今は亡き奥様の部屋を使うわけにもいかなかったため、近くにある空き部屋を使わせてもらっているのだ。
「八方塞がりってまさにこの事よね……」
その上、今は私以外このフロアにいる人間がいないため、やたらと広い空間はすっかり静まり返っていて、呟きはやたらと大きく聞こえて余計虚しくなった気がするけど、独り言は止まらない。
「大体こっちの事情を知ろうともしないで、一方的にあんな事言うなんて、ちょっと心が狭くない?」
普通だったら使用人が何人か交代で控えていて、呼んだらすぐ来れる位置にいたりとかするからこんな事を口に出すのはマズいけど、今はその為の人員は近くにおらず、本当に私ひとりだけで過ごしている状態だからべつに気にする必要はない。
アーネストが一方的に定めた期限まであと一週間。
一応私はまだバンフィールド辺境伯家の人間の筈なのにもうすぐ出ていく身だと思われているせいか、使用人の中には平民のお世話は出来ないとばかりに、食事の準備や部屋の掃除などをはじめ、私の身の回りの事全般に関してあからさまに手を抜くどころか、全く行わない人間までいたりする。
今の時間帯は私のために何かをするつもりが一切ない人の担当時間らしく、私以外誰もいない状態だった。
ここまで徹底されると、中途半端にお世話されるよりもいっそ清々しいとすら思えるから、呆れはするけど怒りは湧いてこない。
私の事情を知っている家令のジョエルさんはこの状況を嘆き、仕事をしない人間達に対して度々注意をしてくれたのだが、使用人達の態度は酷くなるばかり。
その一番の原因はやっぱり正当なバンフィールド辺境伯の跡継ぎであるアーネストが私を認めてないっていうことだから、どうしようもない。
私だってこの三週間、ただボンヤリと時を過ごしていたわけじゃない。
まずはアーネストと話をしようと試みるも、葬儀が終わってすぐに王都に戻ってしまっていたらしく、話をするどころか顔を合わせることすらできなかった。
だったらと手紙を送ってはみたものの、返事が返ってくることもなく、話し合いのとっかかりすら掴めてない状況が今日まで続いている。
このままアーネストとの話し合いに期待するのも危険だからと、夫との婚姻前に働いていた服飾店にもう一度雇ってもらえないかと訪ねてみたものの、貴族も相手にする商売だけに、貴族の間で評判の悪い私を雇うわけにはいかないという理由で、やんわりと断られてしまった。
ものすごくショックだったし悲しかったけど、本当に申し訳なさそうな顔で真摯に謝ってくれた店長を見ていたら、趣味じゃなく商売として店を運営してる以上、リスクがあるものを懐に抱え込むことは出来ないんだから当然の決断だと、残念だけど納得できた。
他にも働いていた頃に馴染みのあったところを片っ端から訪ねて回ったものの、次期バンフィールド辺境伯であるアーネストの意向に逆らってまで私を助けようという人はおらず、更に運の悪いことに、私が今後の働き口を求めてバンフィールド辺境伯領の中心地にある繁華街を歩いていた際、以前私を襲ったと思われる人間に遭遇し、危うく連れ去られそうになったのだ。
何気ない風を装って近付いてきた男。人通りの多いところで行われたそれは、パッと見しつこいナンパにしか見えない巧妙なものだった。
ちょうど通りかかった人が助けてくれたから良かったものの、そうでなかったら凄い力と懐に忍ばせたナイフをチラつかるという脅しに屈して、ろくに抵抗出来ないまま男に付いて行かざるを得ない状況になっていたに違いない。
案外、ゲームの中のメリンダって、アーネストに追い出されていなくなったんじゃなくて、強引に連れ去られて行方不明になってたんだったりして……。
そう考えたところでゾッとしてしまい、すぐに思考を切り替えた。
それにしても。
今後の目処は立たないし、身の安全は脅かされてるし。
あぁ……。ホントにどうすればいいんだろう……。
せめて仕事だけでもどうにかなればなぁ。
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