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5.結婚の理由

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私はバンフィールド辺境伯の妻になると決めるまで、彼のことを『ヘンリーおじさま』と呼んでいた。
亡くなった父の学生時代の友人だというおじさまは、まるで親戚の伯父さんのような感じがしてたから。

だからおじさまのことを異性として意識してたということは絶対にない。
それでも私はバンフィールド辺境伯の養女より、妻になることを選んだ。
理由はひとつ。貴族の養女になることは、私やおじさまの意志とは関係なしに、政治的な駒として利用される可能性があるからだ。

十九歳という年齢は、既に貴族女性としての結婚適齢期としてはギリギリだったし、五年前のこともあって私自身に結婚願望はなかった。
でも何としてもバンフィールド辺境伯家と縁続きになりたい人達の中には、そんな事は関係ないと言う人もいるかもしれない。

私やおじさまにそのつもりがなくても、絶対に結婚せざるを得ない強引な手段をとられたら、私はバンフィールド辺境伯家の恥とならないよう、望まぬ相手に嫁がなければならない。

それにおじさまには既に後継となる実の息子がいるため、私がおじさまの養女になると、政略結婚のためだとか、自分の息子の相手として迎えるつもりだとか、要らぬ憶測を呼ぶ可能性もあるのだ。


そもそもおじさまが私をバンフィールド辺境伯家に迎えようと考えたのは、その頃私の周りで不可解な事が起きていたせいで。おじさまはそれに関する何らかの情報を掴んでいたらしく、このままじゃ私の身に危険が及ぶ可能性が高いと思い、バンフィールド辺境伯家で保護することに決めたらしい。

国防の要であり、王族からの信頼も厚いバンフィールド辺境伯が、自分の身内にしてまで護る価値が私にあるのかはわからないけど、仕事帰りの私の後をつけたり、いきなり背後から押さえつけてどこかへ連れて行こうとしたり、私の留守中に部屋に勝手に侵入して何かをあさったりしていた人達にとって、少しでも手を出しづらい存在になれるのならば、おじさまの申し出を断るという選択肢はなかった。

平民の女ならどうなっても大した問題にもならないし、いくらでも揉み消せるけど、バンフィールド辺境伯の身内となればさすがに手を出すのは躊躇われるだろう。

私を狙う人間の目的が何なのか全く心当たりはなかったけど、バンフィールド辺境伯の妻に危害を加えたり、勝手に利用しようとする人間はいないだろうということだけは想像がついた。

おじさまは私の身を按じてこんな提案してくれただけで、今でも亡くなった奥様を愛していらっしゃることは知っていた。

だから私達は戸籍上は夫婦関係ではあるけれど、俗に言う白い結婚っていうもので、実際の関係性は伯父と姪のようなものだった。


でも事情を知らない人達は、親子ほどに年が離れていて、しかも私の実家が訳ありな上に今は私の身分が平民だということで、色々穿った見方をしていたらしい。

家族も家も身分も失い身寄りすらない私。片や夫は国防の要である辺境伯。
世間では背に腹は変えられず身売りした女と、若い女を金で買った好色貴族、という真実とは掛け離れた見方をされていた。

それが世間の認識だと知った時にはあまりの申し訳なさに、自分の身の振り方を本気で考えたこともあったのだが……。


私を護ってくれる存在だったおじさまを亡くし、前世の記憶を思い出した今、出ていけと言われたからといって、はいわかりましたと簡単には言えない。

おじさまがそう言うのならともかく、あのいけ好かない感じの息子が言うんだから尚更。

何らかの事件性を感じる事に巻き込まれている可能性がある以上、図々しいと言われようと、このまま黙って追い出される訳にはいかないのだ。

ここがゲームの世界なら、もしかしたらその事に関するエピソードもちょっとくらい触れられてたんじゃないかと思ってはみたものの、スキップ機能を使って読み飛ばしていた私に思い出せるものなんて何もない。

だからこそ。
利用出来るものは利用して、絶対に図太く生き残ってやる!
何より、アイツの思い通りにしてやるのは癪だしね!

初対面の筈だったのに、少しも良い感情が持てないのは、父親が亡くなるまで家に寄り付かず、こんな事になるまで領地の事なんて気にした素振りすら見せなかったっていう恨み節もあるけれど。

なんて言うんだろう。

もう本能が拒否してる、みたいな?
生理的に受け付けないってこういう事を言うのかしら?

関わり合いにはなりたくないけど、背に腹は代えられない。


アイツを利用してでも絶対にしぶとく生き残ってやる。
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