上 下
50 / 50

50

しおりを挟む
卒業式の夜の告白からやり直すというあり得ない言葉がよりにもよって深見の口から出たことで、俺の酔いは一気に覚めていた。

こんなところで怒りを爆発させてしまわないよう、キツく拳を握りしめ、床を睨みつけながら軽く深呼吸する。

でもこの感情の渦はなかなか小さくならず。


「……ふざけんな」


自分が思っていたよりもだいぶ低い声で、心の声が零れ出る。

しかしそれはあまりに小さな呟きだったために、対面に座っている深見には届かなかったようで。

深見は俯いたままの俺に向かって言葉を続けた。


「あの日俺はお前の気持ちに応えることが出来なかった。──でもそれは俺にとっても苦渋の決断だったんだ」


だから? 何で今頃?

それを聞いたところで元に戻るものなど何ひとつないというのに。

今更俺に何を話そうって言うんだろう?


(聞きたくない……!)


三年も前に終わった事を蒸し返し、身勝手な事を言おうとしている深見に、腹が立って仕方ない。


「こんなとこでするような話じゃないだろ」

「樹……」


いつもの俺ではあり得ないほどキツい口調に、深見の顔に困惑の表情が浮かぶ。

俺は深見の呼び掛けには答えずに席を立つと、スーツの内ポケット入れておいた財布から一万円札を取り出しテーブルに置いた。


「……帰る。シャツありがとう」

「樹ッ!!」


深見が慌てて席を立つのが見えたが、俺は振り返ることなく店を後にした。



外に出ると季節外れの雪がちらついていた。

それがまるで三年前のあの日を彷彿とさせるようで、妙に惨めな気持ちに陥っていく。


(何で? どうして?)


そう考えても答えは出ない。

深見の話を全て聞けばアイツの真意がわかるのかもしれないが、今の俺にはそれを聞くだけの心の余裕はなく、過去のことだと言って水に流せるだけの気持ちの整理もついていなかった。


俺はただ一刻も早くこの場から離れたくて、振り返ることもなく必死に足を動かした。


しかし。


「待てよッ。樹!」


いきなり肩に置かれた手が俺の動きの邪魔をする。

急に背後から力を加えられたことでバランスを崩しかけた俺は、たたらを踏んでしまったものの何とか転ばずに済んだ。

でも一旦おさまりかけた怒りは再燃し、せっかく堪えた気持ちはあっさりと崩壊してしまう。


肩に置かれた深見の手をやや乱暴に振り払い、背後にいる深見のほうに向き直る。
しっかりと視線を合わせ、この一連の行動を非難する意味を込めて睨み付けた。


「俺はもうお前と関わりあいになるつもりはない。俺達の関係は三年前のあの告白で終わったんだ。やり直したいなんて言われても今更だってなんでわかんないんだよ? 出来るわけないだろ? そんな道はとっくに塞がれて無くなってるんだからさッ!」


激昂する俺を見て深見が驚きに目を瞠る。

四年間、深見は誰よりも俺の側にいた。でもこんな姿を見るのは初めてだろう。
俺にしてもこんなに激しい怒りの感情を誰かにぶつけたのは初めてだ。

俺はいつだって誰かに何かをされて怒るよりも、全てを飲み込んで諦めるというという選択を数多くしてきた。

それは単に他人に怒りをぶつけてまでも主張したいと思うような気持ちがなかったからなんだということが、今の俺にならよく分かる。


「それでもまだ言いたいことがあるって言うなら、聞くだけ聞いてやる。言えよ。今ここで。それで俺とお前の関係は完全に終わりだ」


俺の最後通牒に深見が沈黙する。

やがて。


「樹……」


深見は俺の名前を切なそうな表情で呼ぶと、そっと俺に手を伸ばしてきた。

俺はその腕から逃れようと咄嗟に逃げをうつ。

しかし一瞬早く辿り着いた深見の腕が俺の身体を包み込んでしまった。


「好きだよ。ずっと好きだった。……愛してる」


背後から強く抱き締められたまま耳許で囁かれた言葉に、俺は足元から何かが崩れ去るような感覚を味わっていた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

chieko
2022.10.22 chieko

なんと😱
スゴくいいところで話が止まってしまってますね


続きが気になります😃

是非、続きを書いてくださるよう伏してお願いいたします😅

みなみ ゆうき
2022.10.23 みなみ ゆうき

chieko 様

お読みいただきありがとうございます。
感想ありがとうございました。
中途半端な真似をしてすみません。
再開できるようなんとか頑張っていきますので、引き続きお付き合いいただけたらと思います。
どうぞよろしくお願い致します。

解除
レイチェル
2021.02.22 レイチェル

一気読みしました!
お互いの気持ちが交差していて
もどかしいですね
続きが気になります。
更新お待ちしております。

みなみ ゆうき
2021.02.22 みなみ ゆうき

レイチェル 様

お読みいただきありがとうございます。
感想ありがとうございました❗

気に入っていただけて嬉しいです。
更新滞っており申し訳ございません。なるべく早めに再開出来るように頑張ります。
今しばらくお待ちいただけるとありがたいです。
よろしくお願い致します。

解除
AOI
2020.09.17 AOI

更新ありがとうございます
深見が何を思っているのか?
めっちゃ気になります!

みなみ ゆうき
2020.09.18 みなみ ゆうき

AOI 様

いつもお読みいただきありがとうございます。
感想ありがとうございました!
桐生のいない間にすかさず深見のターンなので、ちょっと色んな意味で頑張ってもらおうと思います(笑)
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

俺、猫になっちゃいました?!

空色蜻蛉
BL
ちょっと美青年なだけの普通の高校生の俺は、ある日突然、猫に変身する体質になってしまった。混乱する俺を助けたのは、俺と真逆のクール系で普段から気に入らないと思っていた天敵の遠藤。 初めてまともに話した遠藤は「自分も猫族だ」とか訳わかんねえことを言ってきて……。 プライドの高い猫×猫(受け同士という意味ではない)のコメディー風味BL。 段々仲良くなっていくと尻尾を絡ませ合ったり毛繕いしたりする……予定。 ※が付く話は、軽微な性描写もしくはがっつりそういうシーンが入ります ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。