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17.人気アイドルの事情1 Side 葉月 その1

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俺はすっかり気まずい空気になってしまったことに居心地の悪さを感じながら、無言で目の前にある食べ物を口に運んだ。

目の前にいる是枝凛もさっきまで歩夢と笑顔で話していたのが嘘のように硬い表情で黙々と自分が作った料理を食べている。


さっきは少し言い過ぎだったって事くらい自分でもわかっているつもりだ。
もっと言えば今日ここに是枝凛が到着し、顔を合わせた時から完全に八つ当たりしてたってことも。


これが仕事だっていうのならいくらでも自分の苛立ちを制御する事が出来るし、普段だって今よりたいぶマシな態度をとっていると自分では思っているが、是枝凛に対しては無理だった。

大体今目の前にいる是枝凛という人物はその名前を聞いた時から俺の心をざわつかせる存在で。
俺はこの是枝凛の人となりを全く知らないにもかかわらず、勝手に御世辞にも好意とは言い難い感情を抱いてしまっていたのだ。


俺は俺達が必死に努力して築き上げてきた領域に図々しく踏み込んでこようとする人間が嫌いだ。

事務所のスタッフとかレコード会社とか仕事の関係者だったらまだいい。
しかし、プライベートを過ごすこの家にいくら社長の親戚なんていっても仕事とは全く関係のない人間が一緒に暮らすなんて冗談じゃないと思ったのだ。

これがプロの家政夫だっていうのなら納得出来ないこともない。

今まで俺達メンバーだけで暮らしきたこの家では、全く家事の出来ない俺以外の二人が忙しい合間をぬって出来る限りの家事をしてくれていたし、時には外の業者に頼んだりしていた事もあったから、そういう存在がいれば確かにありがたい。

でも、やって来たのはこの春から大学生になるっていうズブの素人。しかも通いじゃなくて住み込み。

俺の記憶違いでなければ前社長の葬儀の時に親族関係者の席にはいなかったと思うから、それほど濃い親戚というわけでもないんだろう。

なのに社長がコイツのワガママにあっさりオッケーを出したのは何故か……。


──そう考えた時。俺は勝手にある結論に達していた。

管理人兼家政夫とかなんとか言っときながら、実は社長自らがどこかでスカウトしてきた人間で、そのうち俳優かアイドルでデビューさせようという腹積もりだけれども本人はそれを渋っていて、まずは俺達の近くにいることでそういう空気に触れさせようとしているんじゃないのかと思ったのだ。

そう思ってよく見てみると、目の前の是枝凛は多少田舎臭さはあるものの、ひとを惹き付ける容姿をしていた。

どう見ても男らしいとは言い難いが、黒目がちな大きな瞳は普通の男にはない可愛らしさを存分にアピールするものだし、白い肌と艶やかな唇は妙に艶かしい色気がある。

今はまだ蕾程度の華やかさしか感じられないが、ちゃんと磨けば大輪の花を咲かせることだって出来るだろう。

だからこそ俺はコイツが最初に見せた俺達にはまるで興味がありませんって態度も、ああやって歩夢と踏み込んだ話をして中途半端に浮わついた事を言ってたのも気に食わなかった。


『だからこれから素敵な出会いがあれば、って思ってるんだけどね……。こればかりはどうなるかわかんないから』


大学での生活のことを言ってるにしろ、芸能界に入る事を言ってるにしろそんな中途半端な考えの人間が俺の生活空間に入り込んでくるっていうのが許せなかったのだ。

だから。


『お前、何しに大学行くんだよ。……下らねぇ。そんな浮わついた気持ちで地元を離れてこっちの大学に行かせてもらうなんて、親に申し訳ないとか思わないのかよ』


俺は自分の中の正義に則ってついこんな事を言ってしまっていた。

決して最初に言われた『テメェの履いたパンツすら自分で洗えねぇガキのくせに、人の仕事に対してハナからナメた態度でケチつけてんじゃねぇよ!そういうセリフはな、その青いケツについてるひよこの殻がキレイに外れてから言いやがれ!!』っていうのを根に持っていたわけじゃない。……と思う。

その後すかさず歩夢や碧さんにアレコレ言われ、益々不快な気持ちにさせられた俺は、素直に謝ってきた是枝凛に対して無視を決め込んだ。

たぶん俺にはコイツと上手くやっていくのは無理だと思う。
だったら出来るだけ関わらないでおくしかない。

そう密かに心に決めたのだった。


まさか後々、この是枝凛という存在が俺の中で日に日に大きくなっていくことになるなんて微塵も思わずに。
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