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2.売られたケンカは買うほうです!

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──うわー。俺、こんなところに住むのか……。


まるでどこかの公園かと思うような手入れの行き届いた庭を横目にしながら、こんなに歩くのってほど長いアプローチを抜けたその先に、まさに豪邸としかいいようのない白い洋館が建っていた。

その佇まいに圧倒されつつ建物と同じ色合いの白いドアを開けると、そこにいたのはこの建物に住むのがピッタリといった感じの、俺の地元じゃまずお目にかかることの出来ないようなキラキラオーラ全開の超絶イケメンだった。


明るい茶色の髪に切れ長の目。俺より頭半分以上も背が高いくせに小顔でしかも足が長いっていう嫌味なほど恵まれた体型と顔を持つ目の前の人物は、今巷で大人気のアイドルグループ【Jewelジュエル Raysレイズ】のメンバーで、確か名前は──

八代やしろ 葉月はづき』。


グループでの歌手活動もさることながら、ドラマや映画にも出演し、役者としても活躍する人気者らしい。


『らしい』っていう不確定な言葉を使ってるのは、俺がこれまで彼ら【Jewel Rays】という大人気アイドルに然程興味もなく、その存在を薄ボンヤリとしか認識出来ていなかったから。

かろうじて彼らの存在を知っていたのは、先週までバイトしていた大手コンビニチェーン店が以前彼らとのコラボフェアをやっていて、店中に【Jewel Rays】のポスターが貼ってあったからという理由に過ぎない。

普段テレビや雑誌をあまり見ない俺は、正直芸能関係の話には疎いし、男のアイドルなんて目にする機会もないのだ。


まあ、そういう訳だからここに来ることに決まった時に慌てて調べたんだけどね……。


【Jewel Rays】は三人組の男性アイドルグループで、メンバーはリーダーの白石しらいし あおい水森みずもり 歩夢あゆむ、そして目の前にいる八代葉月。

三人それぞれタイプは違うが紛れもなく全員イケメン。

アイドルなんだから当たり前かもしれないけどさ、羨ましい話だよなぁ……。


そんな事を考えながら不躾にならない程度に八代葉月に視線を向ける。


いかにもクール系イケメンっていう感じのこの八代葉月。
随分大人びて見えるけどまだ十七歳の高校生で、俺より年下なんだってさ……。

べつにイケメンになりたいわけじゃないけど、せめてちょっとでもいいから男らしい要素が欲しいと常々思っていた俺は、純粋に羨ましいとは思いこそすれ、最早妬む気持ちすらおきなかった。

むしろ実物を目の前にして自分とは別次元にいる存在なんだということを強く実感する。


理想の身長に手が届かなかった上に筋肉のつきにくい身体。
ともすれば女の子に間違えられることもある顔。

どれをとっても男らしさやカッコいいという言葉とは無縁の俺は色々と思うことがありつつも、まずは今日から始まるここでの生活における人間関係を円滑にするため、精一杯の笑顔を貼り付けながら口を開いた。


「はじめまして。今日からこちらでお世話になる是枝凛です。多忙な【Jewel Rays】の皆様のお役に立てるよう精一杯努めさせていただきますのでよろしくお願い致します」


ところが腰を折って丁寧に挨拶をした俺に対し、目の前のイケメンアイドル様は不機嫌なのかはたまた何か気に入らないことがあるのか。表情を緩めるどころか元々仏頂面に近かった顔をハッキリと険しいものへと変化させ、あからさまに不快そうに視線を逸らした。


なにコイツ。感じ悪い。

何が気にくわないのか知らないけど、初対面でそういうのを顔に出すのってどうなんだとつい眉を顰めてしまう。

大人びて見えるけどやっぱりまだガキだってことなのか……。

ため息を吐きたくなるのをグッと堪え、だったらこっちは大人の対応しなきゃな、なんて思ってたら。


「アンタ、社長の親戚だって話だけど、わざわざここに住む必要ないんじゃね?」

「は?」

「今は俺たちに興味ありませんって顔してるけど、ホントは芸能人に近づきたいとかそういう下心があってここに来たんだろ? でも残念だったな。俺はアンタと馴れ合う気は更々ないから。
せっかく大学生になれてド田舎から出て来れたんだから、余計な真似しないで学業に専念しろよ」


初対面の挨拶とは到底思えない言葉が返ってきて唖然とする。

更に。


「まあ、社長命令じゃ俺も逆らうわけにもいかないから、アンタがちゃんと仕事する気があるんだったら必要最低限の接触は許してやるよ。でもそれ以外では一切俺に関わらないでくれ」


──コイツ、マジで何なの?

あまりに一方的な思い込みと物言いに、元々感情の導火線がそれほど長いほうではない俺は、静かにブチギレていた。


「……大人気アイドルだか何だか知らねぇけど、誰もがお前に興味があるとか好意を抱いてるとか思うなよ?」


地を這うように低い声が口をついて出るのを止められない。


「少なくとも俺はお前にこれっぽっちも興味ねぇ。──それにな、」


そこで一旦言葉を切ってから、あえて挑むように八代葉月を見据えた。

八代葉月は俺の言葉が余程意外だったのか、さっきまで逸らしていた視線を俺に向け、驚いたように目を見開いた後、俺をキッと睨み付ける。

それが一層俺の導火線に火を着けた結果。


「テメェの履いたパンツすら自分で洗えねぇガキのくせに、人の仕事に対してハナからナメた態度でケチつけてんじゃねぇよ!
そういうセリフはな、その青いケツについてるひよこの殻がキレイに外れてから言いやがれ!!」


盛大に売られたケンカを買っていた。
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