本の世界へ強制トリップ~俺がやりたかったのはコレじゃない~

みなみ ゆうき

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14.夕顔 その2

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惟光の母があまりに喜んでくれたので何度か見舞いに行ってたら、何故か俺にまた新しい相手が出来たと噂されるようになってしまった。

その噂の相手。今度は恋の『こ』の字すら掠る要素のないおばちゃんだからさ……。

噂では次から次へと恋の噂が絶えないリア充野郎。
その実態は奥さんにすら相手にされずに色んなものを持ち腐れにさせているヘタレ男。

俺、光源氏になってから良い事ひとつもない気がするんだけど……。

光源氏ってこんな人だったっけ!?なんか間違ってない?!便覧で読んだあらすじと違い過ぎねぇ?色んな相手とヤりまくりパラダイスのウハウハハーレムなんじゃないのかよ!?

あまりに思ってたのと現実が違い過ぎて自分で言ってて虚しくなる。

っていうか俺。いつまでここで光源氏やってればいいんだろう……。
そろそろ現実世界に戻りたいんだけど……。

例え二股がバレて彼女にフラれようと、テストで赤点取ろうと、現実でも既に男とエッチしちゃってても、この世界で訳のわからない人間関係に悩まされながら面白くも何ともない仕事をしてるよりはずっといい……。
高校生最高!青春って言葉が心に沁みるぜ!!


という訳で、俺はここ数日。本気で元の世界に戻るための方法ってやつを考え始めていた。


前回元に戻った時は桐山そっくりの桐壺帝とエッチの最中で、もうちょっとでイクって時だった。
だから単純にエッチなことすれば戻れるのかと思ってたけど、この間六条に緊縛プレイをされた時にそのままだった事を考えると一概にそうとは言えなそうだ。

なんだろう?寸止め?それともノーマルエッチ?まさか愛情の差とか……?

少なくとも桐壺帝は俺っていうか桐壺更衣きりつぼのこういに対して好意を持ってた感じだったが、六条のアレは愛情とかっていうより完全に口封じの意味合いだった気がする。

ちょっと嫌だけど試してみる価値はあるかもな……。
──でも俺のことそういう意味で好きな人なんているのかなぁ?


ぼんやり考え込んでいると。


「光る君。少しよろしいですか? 実は気になる噂を耳に致しまして」


惟光が神妙な面持ちで俺の部屋へと入ってきた。


俺、まだいいって言ってないんだけど……。

最近、惟光の俺に対する扱いが雑になってる気がする。


実は俺は今日、体調不良を理由に部屋に籠ってたりとかしてるのだ。
勿論惟光には仮病だってバレてるからこそのこの態度なんだろうけど、やっぱりなんか釈然としないよな。
文句を言うと倍になって返ってきそうだからスルーするけどさ。


「……気になる噂ってなに?」

「この間、私の母の見舞いに行く途中、光る君が目に留められた夕顔の花の事を覚えていらっしゃいますか?」

「覚えてるけど。あの対応からみて名のある貴族の仮住まいに違いないとか惟光が言ってたあそこだろ?まさかあれが誰の邸かわかったとか?」

「そのまさかにございます」


それの何が気になって惟光にこんな顔させてんのかわからない俺は、大して興味も持てないままに話の先を促した。


「で?誰の邸だった?」

「それがどうやら頭の中将様に縁の方のお住まいのようでして」

「え!?マジで!?」


意外な人物の名前を聞いて驚いた俺は思いっきり素で聞き返してしまった。
途端に惟光から鋭い視線が飛んでくる。


「光る君……」


多分っていうか絶対にこの俺の言動が俺の扱いを雑にさせている原因だな……。さすがに今ので確信したからすぐに謝っておこう。


「あ、すまない。つい驚いてしまって」

「私だからいいようなものの、そのような言葉使いは他の者の前ではお慎み下さい」

「わかってるって。惟光の前だからこそ、こうして気を緩めて話をすることが出来てるんだからさ」


笑って誤魔化せとばかりにニッコリと微笑めば、意外にも惟光は薄っらと頬を赤らめ居心地悪そうに視線を逸らした。

あれ?この反応。もしかして惟光って俺のこと結構好きなんじゃ……。


──これ、さっき思い付いた事試してみるチャンスだったり?

ジッと惟光の顔を見つめてそうなる自分を想像してみる。


「……何ですか?」


今度はあからさまに訝しむ惟光に、俺は思わず吹き出した。


「ブハッ!……ゴメン、ねぇわ」

「人の顔見て笑うなんて酷すぎますよ!何がないんですか?!」

「いや、ホントにゴメン。こっちの話。
──で?何だっけ?頭の中将がどうしたって?」


馬鹿な想像をした自分を反省しつつ話を元に戻すと、惟光は不満そうな顔をしながらも話をしてくれた。


「どうやらあちらは以前頭の中将様が足繁く通っていらっしゃった方のお住まいだったらしく、どういう経緯かはわかりませんが一度は切れてしまった縁が再び結ばれたようでして、最近中将様の御車がよくそちらに停まっているという話を聞きました」

「へぇ」


そういえば以前、身分の低かった時に付き合ってた恋人が行方知れずになったとか言ってたから、もしかしたらあの邸に住んでいるのはその人なのかもしれない。


──あれ?でも待てよ。確かあの時、最近一方的に片想いしてる相手がいるとか言ってなかったっけ?その人とはどうなったんだろ?


疑問は浮かんだものの、結局のところ所詮は他人事でしかないと気付き、すぐに余計な想像をする事をやめた。


「で?その噂が俺に何の関係があるわけ?」


まさか頭の中将の近況を聞かせるためだけにこの話をしたわけじゃないだろう。


「それがですね。何故か世間では光る君がまでもがその邸に通っていて、頭の中将様のお相手に横恋慕していらっしゃるという話になっておりまして……」


──は? 何だそれ。
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