本の世界へ強制トリップ~俺がやりたかったのはコレじゃない~

みなみ ゆうき

文字の大きさ
上 下
9 / 22

9.突撃!噂の未亡人

しおりを挟む
詩歌担当のじいさん先生に繋ぎを取ってもらって、やってきたのは六条御息所という未亡人が住む邸。

巷で貴婦人中の貴婦人と噂される女性に会えるということでもうワクワクドキドキが止まりません!

でも大人の女性らしく浮わついた若造が苦手だっていう事前情報をゲットしてるから、最初はまず様子見しながら徐々に攻めていく感じにしないとマズいかなとは思っている。

何回くらい通えば深い関係(←俺にしては上品な表現)になれるかな~、とか考えながら自分なりに憧れの貴公子光源氏を演じてみたんだけど。


うん。これ。無理かも。
なんかめっちゃ拒否オーラ出てね?

六条御息所に仕えている女房の案内で御息所様がいるっていう部屋に案内されたまでは良かったんだけど、肝心の御息所様はデカい御簾で隔てられた向こう側にいて姿を見ることも叶わず、その上直接話をするのが苦手だということで俺達の会話は女房を介してか筆談というなんとも味気ないものになった。

全然楽しくねぇ……。

さすがに俺だって、会った初日に口説き落としてヤれるとは思ってなかったけど、ここまで徹底してるとさすがに嫌われてるってことくらいわかるわー。

こりゃ多分次はもうねぇな、って思いながらスゴスゴと家路に着いたわけでしたが。


意気消沈しながらも帰ってから即お礼の手紙なんかを認めた数日後。
なんとまた六条御息所からお招きいただいちゃいましたよ!

もしかして俺が思ってるほど気まずい感じじゃなかったのかな~。

なぁんて甘いことを考えながら二度目の対面を果たしたんだけどさぁ……。


──初日と全然変わってねぇ……。

相変わらず会話は女房を介してか筆談のみ。
それでもここまで来て何の爪痕も残せないまま帰るのだけは避けたいとなんとか必死に食らいつくような気持ちで挑んでいった。

俺、何しに来てんだろ……。


それにしてもこの六条御息所という人は世捨て人同然のような暮らしをしてると言いながら、部屋にある調度品はシンプルながらもセンスのいいものだし、焚いてある香にしてもリラックス効果のあるもののようでいて、どこか魅惑的な香りがするような不思議な感じがするものを使っており、そんな香りを選ぶ人はどんな人なのか興味を持たずにいられないくなるような要素が満載だ。

最後までとはいかなくても、せめてこういう暮らしをしてる人の顔くらい見てみたい!

当初より目標が随分低い所になっちゃったけど、とりあえずその方向性で俺はひたすら頑張った。

その結果。
なんやかんやと話題を振り、直接言葉を交わさずとも一応話が弾んだと実感できるようになった頃には、日も暮れかけ良い具合に辺りが暗くなってた。

ヨッシャ!ここまでよくやった!自分で自分を褒めてやりたい。

内心ガッツポーズを取りつつ、燭台に灯りを灯しにやってきた女房に声を掛ける。


「今宵は月が明るい。せっかくですからこのままにしておきましょう。
燭火ともしびを背けてはともに憐れむ深夜の月』と言いますからね」


学がある所を見せつつ、ちょっとロマンチックな雰囲気を演出するための提案をすれば、女房はそのまま下がってくれた。

月を見上げる振りをしつつ、ここからどうするか考えを巡らせていると、思いがけず御簾の向こう側で人が動く気配がした。

もしかしたらちょっとくらい透けて見えないかと目を凝らして見るものの、残念ながらシルエットくらいしかわからない。

でも、そのシルエットにどことなく違和感のようなものを覚えた俺は不覚にもそのまま御簾の方をガン見してしまった。

クスリと小さく笑われ、我に返った俺はごく自然に見えるよう視線を逸らす。

すると、なんと御簾の向こう側から声がして、俺はマジでビビってしまった。


「『花を踏んでは同じく惜しむ少年の春』」


それはさっき俺が口にした漢詩の続きで、『燭火を背けては』とセットで合言葉チックに使われている言葉。

こういう場合の返しはこれで正しい。でもさ。


──今の声。明らかに男のものっぽくね?


どう考えても成人男性としか思えない声に俺は酷く困惑した。


六条御息所という人が低い声の女の人で、それがコンプレックスだから喋らなかったっていう可能性も捨てきれない。

しかし、さっきのシルエットを見た時の違和感を足して考えると、中身が男である可能性は捨てきれない。

なんかデカいと思ったのは俺の気のせいじゃなかったってことか!?

前の夢とは違いこの夢は男が姫って呼ばれてる訳じゃないと思ってたけど、もしかして違ってた!?

今までしっかり中身を確認出来てなかったし、見た目も女性そのものにしか見えなかったから俺が勘違いしてただけ?

それとも最初から俺を相手にする気がなくて入れ替わってたとか?

プチパニックになりながらも、これ以上は危険だと判断した俺は、即座にこの場を離れることを決意した。


ところが。


「さて、噂に名高い源氏の君が私に近付いてきた本当の目的を教えていただこうか」


言うが早いが御簾の中にいた人物は粗野な手付きで御簾を捲り、俺の方へと歩み出てきたのだ。


えっ!!!


その姿は俺と同じ種類の平安貴族の装いで、この人物が確実に男であることを教えてくれていた。


しかもその顔は俺にとって非常に馴染みのあるもので。

「やっぱり男じゃん!」

現実世界での俺のクラス担任である六条そのものといっていい顔に驚愕した俺は、ついうっかりそんな事を口走ってしまった。


「──へぇ、やはり私の秘密に気付いて近付いてきたというわけか」


軽く眇められた目に俺は底知れぬ恐怖を感じつつも、目を逸らすことが出来なかった。

秘密ってなに!?さっぱり訳がわかんないんだけど!!


「お察しのとおり私は君と同じ男であり、御息所と呼ばれる存在にはなりえない者だ」

「……では本物の御息所様は?」

「御息所は流行り病に倒れ亡くなった。ここに移り住む前のことだ」


え……?なんかそんな感じの話、別口で聞いたような……。


「私が何者かもう察しがついているのだろう?」


いえ!全然わかってません!!

そう素直に答えるわけにもいかず口を閉ざしていると。


「さて、どうしてくれようか」


そう言いながら今にも舌舐めずりでもしそうな獰猛な表情で俺を見下ろしてきた六条に、俺は自分の危機を確信して青くなった。


──ヤベェ。これ、俺、絶対食われる。(色んな意味で。)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

アリスの苦難

浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ) 彼は生徒会の庶務だった。 突然壊れた日常。 全校生徒からの繰り返される”制裁” それでも彼はその事実を受け入れた。 …自分は受けるべき人間だからと。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

王道学園なのに会長だけなんか違くない?

ばなな
BL
※更新遅め この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも のだった。 …だが会長は違ったーー この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。 ちなみに会長総受け…になる予定?です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

陛下の失われしイチモツをみつけた者を妃とする!………え、ヤバいどうしよう!?

ミクリ21
BL
主人公がヤバいことしてしまいました。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...