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9.突撃!噂の未亡人
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詩歌担当のじいさん先生に繋ぎを取ってもらって、やってきたのは六条御息所という未亡人が住む邸。
巷で貴婦人中の貴婦人と噂される女性に会えるということでもうワクワクドキドキが止まりません!
でも大人の女性らしく浮わついた若造が苦手だっていう事前情報をゲットしてるから、最初はまず様子見しながら徐々に攻めていく感じにしないとマズいかなとは思っている。
何回くらい通えば深い関係(←俺にしては上品な表現)になれるかな~、とか考えながら自分なりに憧れの貴公子光源氏を演じてみたんだけど。
うん。これ。無理かも。
なんかめっちゃ拒否オーラ出てね?
六条御息所に仕えている女房の案内で御息所様がいるっていう部屋に案内されたまでは良かったんだけど、肝心の御息所様はデカい御簾で隔てられた向こう側にいて姿を見ることも叶わず、その上直接話をするのが苦手だということで俺達の会話は女房を介してか筆談というなんとも味気ないものになった。
全然楽しくねぇ……。
さすがに俺だって、会った初日に口説き落としてヤれるとは思ってなかったけど、ここまで徹底してるとさすがに嫌われてるってことくらいわかるわー。
こりゃ多分次はもうねぇな、って思いながらスゴスゴと家路に着いたわけでしたが。
意気消沈しながらも帰ってから即お礼の手紙なんかを認めた数日後。
なんとまた六条御息所からお招きいただいちゃいましたよ!
もしかして俺が思ってるほど気まずい感じじゃなかったのかな~。
なぁんて甘いことを考えながら二度目の対面を果たしたんだけどさぁ……。
──初日と全然変わってねぇ……。
相変わらず会話は女房を介してか筆談のみ。
それでもここまで来て何の爪痕も残せないまま帰るのだけは避けたいとなんとか必死に食らいつくような気持ちで挑んでいった。
俺、何しに来てんだろ……。
それにしてもこの六条御息所という人は世捨て人同然のような暮らしをしてると言いながら、部屋にある調度品はシンプルながらもセンスのいいものだし、焚いてある香にしてもリラックス効果のあるもののようでいて、どこか魅惑的な香りがするような不思議な感じがするものを使っており、そんな香りを選ぶ人はどんな人なのか興味を持たずにいられないくなるような要素が満載だ。
最後までとはいかなくても、せめてこういう暮らしをしてる人の顔くらい見てみたい!
当初より目標が随分低い所になっちゃったけど、とりあえずその方向性で俺はひたすら頑張った。
その結果。
なんやかんやと話題を振り、直接言葉を交わさずとも一応話が弾んだと実感できるようになった頃には、日も暮れかけ良い具合に辺りが暗くなってた。
ヨッシャ!ここまでよくやった!自分で自分を褒めてやりたい。
内心ガッツポーズを取りつつ、燭台に灯りを灯しにやってきた女房に声を掛ける。
「今宵は月が明るい。せっかくですからこのままにしておきましょう。
『燭火を背けてはともに憐れむ深夜の月』と言いますからね」
学がある所を見せつつ、ちょっとロマンチックな雰囲気を演出するための提案をすれば、女房はそのまま下がってくれた。
月を見上げる振りをしつつ、ここからどうするか考えを巡らせていると、思いがけず御簾の向こう側で人が動く気配がした。
もしかしたらちょっとくらい透けて見えないかと目を凝らして見るものの、残念ながらシルエットくらいしかわからない。
でも、そのシルエットにどことなく違和感のようなものを覚えた俺は不覚にもそのまま御簾の方をガン見してしまった。
クスリと小さく笑われ、我に返った俺はごく自然に見えるよう視線を逸らす。
すると、なんと御簾の向こう側から声がして、俺はマジでビビってしまった。
「『花を踏んでは同じく惜しむ少年の春』」
それはさっき俺が口にした漢詩の続きで、『燭火を背けては』とセットで合言葉チックに使われている言葉。
こういう場合の返しはこれで正しい。でもさ。
──今の声。明らかに男のものっぽくね?
どう考えても成人男性としか思えない声に俺は酷く困惑した。
六条御息所という人が低い声の女の人で、それがコンプレックスだから喋らなかったっていう可能性も捨てきれない。
しかし、さっきのシルエットを見た時の違和感を足して考えると、中身が男である可能性は捨てきれない。
なんかデカいと思ったのは俺の気のせいじゃなかったってことか!?
前の夢とは違いこの夢は男が姫って呼ばれてる訳じゃないと思ってたけど、もしかして違ってた!?
今までしっかり中身を確認出来てなかったし、見た目も女性そのものにしか見えなかったから俺が勘違いしてただけ?
それとも最初から俺を相手にする気がなくて入れ替わってたとか?
プチパニックになりながらも、これ以上は危険だと判断した俺は、即座にこの場を離れることを決意した。
ところが。
「さて、噂に名高い源氏の君が私に近付いてきた本当の目的を教えていただこうか」
言うが早いが御簾の中にいた人物は粗野な手付きで御簾を捲り、俺の方へと歩み出てきたのだ。
えっ!!!
その姿は俺と同じ種類の平安貴族の装いで、この人物が確実に男であることを教えてくれていた。
しかもその顔は俺にとって非常に馴染みのあるもので。
「やっぱり男じゃん!」
現実世界での俺のクラス担任である六条そのものといっていい顔に驚愕した俺は、ついうっかりそんな事を口走ってしまった。
「──へぇ、やはり私の秘密に気付いて近付いてきたというわけか」
軽く眇められた目に俺は底知れぬ恐怖を感じつつも、目を逸らすことが出来なかった。
秘密ってなに!?さっぱり訳がわかんないんだけど!!
「お察しのとおり私は君と同じ男であり、御息所と呼ばれる存在にはなりえない者だ」
「……では本物の御息所様は?」
「御息所は流行り病に倒れ亡くなった。ここに移り住む前のことだ」
え……?なんかそんな感じの話、別口で聞いたような……。
「私が何者かもう察しがついているのだろう?」
いえ!全然わかってません!!
そう素直に答えるわけにもいかず口を閉ざしていると。
「さて、どうしてくれようか」
そう言いながら今にも舌舐めずりでもしそうな獰猛な表情で俺を見下ろしてきた六条に、俺は自分の危機を確信して青くなった。
──ヤベェ。これ、俺、絶対食われる。(色んな意味で。)
巷で貴婦人中の貴婦人と噂される女性に会えるということでもうワクワクドキドキが止まりません!
でも大人の女性らしく浮わついた若造が苦手だっていう事前情報をゲットしてるから、最初はまず様子見しながら徐々に攻めていく感じにしないとマズいかなとは思っている。
何回くらい通えば深い関係(←俺にしては上品な表現)になれるかな~、とか考えながら自分なりに憧れの貴公子光源氏を演じてみたんだけど。
うん。これ。無理かも。
なんかめっちゃ拒否オーラ出てね?
六条御息所に仕えている女房の案内で御息所様がいるっていう部屋に案内されたまでは良かったんだけど、肝心の御息所様はデカい御簾で隔てられた向こう側にいて姿を見ることも叶わず、その上直接話をするのが苦手だということで俺達の会話は女房を介してか筆談というなんとも味気ないものになった。
全然楽しくねぇ……。
さすがに俺だって、会った初日に口説き落としてヤれるとは思ってなかったけど、ここまで徹底してるとさすがに嫌われてるってことくらいわかるわー。
こりゃ多分次はもうねぇな、って思いながらスゴスゴと家路に着いたわけでしたが。
意気消沈しながらも帰ってから即お礼の手紙なんかを認めた数日後。
なんとまた六条御息所からお招きいただいちゃいましたよ!
もしかして俺が思ってるほど気まずい感じじゃなかったのかな~。
なぁんて甘いことを考えながら二度目の対面を果たしたんだけどさぁ……。
──初日と全然変わってねぇ……。
相変わらず会話は女房を介してか筆談のみ。
それでもここまで来て何の爪痕も残せないまま帰るのだけは避けたいとなんとか必死に食らいつくような気持ちで挑んでいった。
俺、何しに来てんだろ……。
それにしてもこの六条御息所という人は世捨て人同然のような暮らしをしてると言いながら、部屋にある調度品はシンプルながらもセンスのいいものだし、焚いてある香にしてもリラックス効果のあるもののようでいて、どこか魅惑的な香りがするような不思議な感じがするものを使っており、そんな香りを選ぶ人はどんな人なのか興味を持たずにいられないくなるような要素が満載だ。
最後までとはいかなくても、せめてこういう暮らしをしてる人の顔くらい見てみたい!
当初より目標が随分低い所になっちゃったけど、とりあえずその方向性で俺はひたすら頑張った。
その結果。
なんやかんやと話題を振り、直接言葉を交わさずとも一応話が弾んだと実感できるようになった頃には、日も暮れかけ良い具合に辺りが暗くなってた。
ヨッシャ!ここまでよくやった!自分で自分を褒めてやりたい。
内心ガッツポーズを取りつつ、燭台に灯りを灯しにやってきた女房に声を掛ける。
「今宵は月が明るい。せっかくですからこのままにしておきましょう。
『燭火を背けてはともに憐れむ深夜の月』と言いますからね」
学がある所を見せつつ、ちょっとロマンチックな雰囲気を演出するための提案をすれば、女房はそのまま下がってくれた。
月を見上げる振りをしつつ、ここからどうするか考えを巡らせていると、思いがけず御簾の向こう側で人が動く気配がした。
もしかしたらちょっとくらい透けて見えないかと目を凝らして見るものの、残念ながらシルエットくらいしかわからない。
でも、そのシルエットにどことなく違和感のようなものを覚えた俺は不覚にもそのまま御簾の方をガン見してしまった。
クスリと小さく笑われ、我に返った俺はごく自然に見えるよう視線を逸らす。
すると、なんと御簾の向こう側から声がして、俺はマジでビビってしまった。
「『花を踏んでは同じく惜しむ少年の春』」
それはさっき俺が口にした漢詩の続きで、『燭火を背けては』とセットで合言葉チックに使われている言葉。
こういう場合の返しはこれで正しい。でもさ。
──今の声。明らかに男のものっぽくね?
どう考えても成人男性としか思えない声に俺は酷く困惑した。
六条御息所という人が低い声の女の人で、それがコンプレックスだから喋らなかったっていう可能性も捨てきれない。
しかし、さっきのシルエットを見た時の違和感を足して考えると、中身が男である可能性は捨てきれない。
なんかデカいと思ったのは俺の気のせいじゃなかったってことか!?
前の夢とは違いこの夢は男が姫って呼ばれてる訳じゃないと思ってたけど、もしかして違ってた!?
今までしっかり中身を確認出来てなかったし、見た目も女性そのものにしか見えなかったから俺が勘違いしてただけ?
それとも最初から俺を相手にする気がなくて入れ替わってたとか?
プチパニックになりながらも、これ以上は危険だと判断した俺は、即座にこの場を離れることを決意した。
ところが。
「さて、噂に名高い源氏の君が私に近付いてきた本当の目的を教えていただこうか」
言うが早いが御簾の中にいた人物は粗野な手付きで御簾を捲り、俺の方へと歩み出てきたのだ。
えっ!!!
その姿は俺と同じ種類の平安貴族の装いで、この人物が確実に男であることを教えてくれていた。
しかもその顔は俺にとって非常に馴染みのあるもので。
「やっぱり男じゃん!」
現実世界での俺のクラス担任である六条そのものといっていい顔に驚愕した俺は、ついうっかりそんな事を口走ってしまった。
「──へぇ、やはり私の秘密に気付いて近付いてきたというわけか」
軽く眇められた目に俺は底知れぬ恐怖を感じつつも、目を逸らすことが出来なかった。
秘密ってなに!?さっぱり訳がわかんないんだけど!!
「お察しのとおり私は君と同じ男であり、御息所と呼ばれる存在にはなりえない者だ」
「……では本物の御息所様は?」
「御息所は流行り病に倒れ亡くなった。ここに移り住む前のことだ」
え……?なんかそんな感じの話、別口で聞いたような……。
「私が何者かもう察しがついているのだろう?」
いえ!全然わかってません!!
そう素直に答えるわけにもいかず口を閉ざしていると。
「さて、どうしてくれようか」
そう言いながら今にも舌舐めずりでもしそうな獰猛な表情で俺を見下ろしてきた六条に、俺は自分の危機を確信して青くなった。
──ヤベェ。これ、俺、絶対食われる。(色んな意味で。)
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