本の世界へ強制トリップ~俺がやりたかったのはコレじゃない~

みなみ ゆうき

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6.雨夜(あまよ)の品定め その1

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六条の車で送ってもらい、将平の手を借りて自分の部屋に戻った俺はベッドに突っ伏すなり気絶するように眠ってしまった。

今度あの夢を見る時には光源氏になってウハウハのハーレムライフを送るっていうことだけは、かろうじてベッドに着く前に考えておいたから、万が一あの夢を見てもおかしなことにはなっていない筈。

現実はこんな結果になったけど、せめて夢の中くらいは良い思いしたいよな……。



そして次に目を開けると、そこはまた平安チックな部屋でした。

うん。俺、今度はちゃんと希望どおりになってるっぽい。

着てるものは男物だし、周りの人は俺のこと『光る君』とか『源氏の君』って呼んでるし。


でもそもそも源氏物語の詳しい内容知らないし、自分がどういう設定になってるのかさっぱりだった俺は、まず俺の乳兄弟で従者だっていう惟光これみつという男に自分がどういう人間なのかということを教えてもらった。

惟光は突然記憶喪失になった俺を怪しんでいる様子だったが、ちょっと冗談で鬼に記憶を喰われたと言ってみたところ、あっさり信じてくれただけじゃなく、生活全般のことまで親身になってあれこれ教えてくれた。

さすが夢。俺に都合良く出来てる。

まあ言葉使いや、立ち振舞いは徹底的にダメ出しされたけどな。

それも惟光と俺の努力の結果、なんとかそこそこのレベルまで出来るようになったから、とりあえず問題ナシっことで。


チュートリアルも終了し、ヒャッホー!これで誰にも文句を言われずやりたい放題!!って思ってたんだけど……。

……全然上手くいかねぇ。


奥さんがいるっていうからわざわざ奥さんの家まで会いに行ったのに拒否られるし、他に付き合ってる人がいるのかと惟光に尋ねれば、そういう噂はあっても実際にはそういった仲ではないようだと言われるし、適当にナンパしようにもこの世界の女の人って外に出るどころか、邸の奥深くに閉じ込もって姿を現す事すらないんだよ!

ちなみにこの世界の結婚は通い婚っていうやつで、言い方は悪いがヤりたい時に奥さんの家に行く感じ。
だから普段は独身と変わらないし、甲斐性さえあればわりと奔放な感じなので他にいいなと思う人がいたらガンガン攻めても問題ないらしい。

手順を踏めば夜這いだってオッケー。

でもさすがに他人の奥さんとかに手を出すのはちょっとまずいみたいだけど。

まあ、自分の奥さんにも相手にされてない俺が他人の奥さんとどうこう出来るとはさすがに思わないけど、チャンスがあれば絶対いっときたいのが人妻と未亡人だからさ。

この間偶然人妻とお知り合いになれるチャンスだったんだけど、夜這いする直前で上着一枚残して逃げられちゃったしな……。
オッケーサイン出てたと思ったのにまさかの惨敗。

そんな事続きだから、俺ホントに光源氏なのかな、と最近疑い始めてんだけど。


ちやほやされてモテてはいる。でも狙った相手は落とせずハーレムには程遠い。

その上この光源氏っていうやつは帝の息子で国のお偉いさんだから案外仕事も忙しくて遊んでる暇もなくて、毎日御所ごしょと呼ばれる帝が住んでいる場所兼平安貴族の仕事場と、自分の家の往復しか出来ていない。

現実じゃまだ高校生なのに、夢の中では仕事人間。

なんか思ってたのと全然違うんだけど……。


しかもここは夢の中の筈なのに何日過ごしても目が覚める気配がないんだよな。
寝てる間にスゲー勢いで脳が動いてんのかな?


今日は宿直とのいと呼ばれる夜勤の日。

昼間は皆が出勤してるから心配ないけど、夜の間は人が少なくなるから警備のために泊まり込むらしい。

貴族なのに順番で夜勤まであるなんて、平安時代って大変だよなぁ。
今日は雨で夜遊び出来ないからいいけどさ。


それにしてもやることないな~。

こっそりあくびを噛み殺していると。


「おや。源氏の君は随分お疲れのご様子。今度のお相手はどちらの姫君でしょう」


興味津々といった様子で尋ねてきたのはとう中将ちゅうじょう

父親は左大臣。帝の子供の俺ほどではないが、抜群の血筋とイケメンぶりで宮中で俺と人気を二分するほどのモテ男。

顔は将平そっくり。俺より歳上だけど何かというと俺とセットで動くことが多いからよく話もするし、結構下世話な話も明け透けにしたり出来るから、現実世界の将平同様一緒にいて気が楽な存在だ。


「そういうのじゃありません。ちょっと最近色々あって疲れてて」

「もしかして我が妹が何か?」


実はこの将平のそっくりさんは俺の奥さんの兄ちゃんなのだ。
義理の兄弟とか言われてもそもそも肝心の奥さんに会ったことないからピンとこないけどな。


「いや。それはあんまり関係ないかな……。中将どのこそ色々あるんでしょ?」


京中の目ぼしい女とヤりまくってるって話だし。


「私はただ理想の姫君を探しているだけなのですよ。でも中々見つからないものでね……」


理想なんて見つからなくてもヤれるだけいいじゃん。なんて思っていたら。

やたらと真面目な表情をした中将にじっと見つめられていることに気が付いた。

あれ?この表情。将平もしてた気がする……。


「最近気になる人がいるのですよ」


ああ、そうだ。ついに本命が出来たからもう適当に遊ぶのやめるって言ってた時にしてた表情だ。

夢の中まで同じ表情で同じような事言うんだなと思ったら、なんか複雑な気持ちにさせられた。

つい最近まで俺と一緒にどの女が良かったとか言い合ってたのに、いつの間に本命なんて作ったんだよ。
俺なんてあっちでもこっちでも上手くいってないっていうのに。

なんかひとりだけ取り残されてるみたいで、淋しいような複雑な気持ちにさせられた俺は、現実の将平には聞けなかった本命の話を夢の中の将平に尋ねてみることにした。

どんな答えが返ってきても所詮は夢だからな。


「その方とはどこまでいってるんですか?中将どののことだからとっくにモノにしてるんでしょ?」

「残念ながら相手に触れるどころか想いすら伝えておりません。相手は私が一方的に懸想していることなど想像だにしていないでしょうから」


ちょっとだけ切なそうな表情で微笑む中将に、やっぱり俺はこれ以上踏み込んだことが聞けずに押し黙る。


一方的に懸想って片想いってことだよな?
うわー、気になる。どこの誰だよ。
中将が惚れるくらいの相手だったら、絶対に噂になってそうだけど。
後で惟光にでも聞いてみるか。


なんて考えながら勝手にこの会話に終止符を打っていたら。


「源氏の君」


いつの間にかすぐ近くに移動してきていたらしい中将に耳許で名前を呼ばれ、俺はその擽ったさに肩を竦めた。


「何でしょう」


ちょっとだけ身体を引いて距離をとりつつ、平常心を装って口を開くと。


「もし、貴方が思いもよらぬ相手から愛を告げられたらどうしますか?」


真摯な瞳で見つめられ、俺は何となく気まずくてつい視線を逸らしてしまった。
だって、真面目な恋バナとか俺の柄じゃないし。


「えー、とりあえず一回ヤって身体の相性を確かめてから考える、かな?」


いくら夢の中とはいえ、将平相手に真面目に答えるのが恥ずかしくて、冗談めかしてそう言った俺に。

中将は酷く魅惑的な笑みを浮かべたのだった。
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