本の世界へ強制トリップ~俺がやりたかったのはコレじゃない~

みなみ ゆうき

文字の大きさ
上 下
1 / 22

1.序章

しおりを挟む
昨日突然彼女にフラれた。
原因は俺の浮気。

向こうからアプローチしてきた上に、結構あっさりヤラせてくれたからてっきり軽いノリなのかと思ったら。

意外と嫉妬深くて束縛すごいし、どうでもいい事で一日に何度も連絡くるし。挙げ句にそれらを無視すれば怒り出すし。セックスしたいって言えば身体だけが目当てなの?って言われるし。

正直そんな彼女にちょっとうんざりし始めてたから、別れるって事になっても、まぁいいかって感じだったんだけど。

でもさー、彼女がいたことがバレて気まずくなった浮気相手にも見限られちゃって、結果フリーになってしまったのは全くの予想外だった。

ホントもう最悪……。

向こうから言わせると俺が最悪らしいけど、俺がモテるの知ってんだから付き合う相手が自分ひとりだって思うほうもどうかしてると思うんだよな。

常に誰かしらと付き合って、言葉は悪いがそれこそチンコが渇く暇すらないほどヤりまくってきた俺にとって、セックス出来ないって結構な死活問題だからさぁ。

かといっていちから丁寧に口説いたり、どこかでナンパしたりって面倒な手順を重ねてまで付き合いたい訳じゃない。

サッと知り合ってパッとやれればそれでいいんだよ。

あーあ、つまんねぇの……。
退屈だから余計そう思うのか?


俺の名前は源川みながわ 耀よう
女の子が放っておかないイケてる容姿とフットワークの軽さで、今まで下半身事情には一切不自由してこなかった十七歳だ。


そんでもって今は古典の授業中。

はっきり云って現代日本に生きてて昔の言葉なんて使うことないのに、こんな授業やって何の意味があるのかなって思う。

こっそりあくびを噛み殺しながら、ぼんやりと窓の外を眺めていると。


「こら、源川。ボケっとしてないで集中しろ」


古典担当の教師である桐山からすかさず注意を受けてしまった。


「……は~い。すいませんでした~」


俺は人間関係を円滑にするための武器である笑顔を浮かべながら、一応形だけの謝罪をする。

しかし。


「笑って誤魔化してもダメだぞ。お前いっつも上の空で聞いてないだろ?そんなだから古典の成績がイマイチなんだよ」


全く誤魔化されてはくれず、言われたくないことまで言われてしまった。

しかもスゲー嫌味っぽい。


桐山の言葉に、俺の斜め前の席にいる親友というか悪友である中頭なかず 将平しょうへいがニヤニヤしながら口パクで『ばーか』と言ってくるのも憎らしく、浮かべていた愛想笑いがちょっとだけひきつってしまった。

挙げ句に。


「まったく。注意されてるってのにキョロキョロしてんなよ。
仕方ない。一回お前とはサシで話そうと思ってたんだ。後で俺のところまでくるように」

「えー!?」

「文句言われんのが嫌だったら、まともな成績とるんだな」


完全に俺を小馬鹿にしたようなセリフに俺のこめかみがピクピク動く。

──俺、正直こいつ苦手。

一見人当たり良さそうに見えるけど、ダッセー黒縁眼鏡の奥に隠れた目が妙に鋭くて獰猛な印象になる時あるし。


「わかったら返事くらいしたらどうだ?」


そう言った今も一瞬そんな感じに見えた気がして、俺は慌てて謝罪の言葉を口にした。


「……はい。すみませんでした」


こういう時は変に反発したりせず素直に謝るのが一番だ。

桐山は少しの間俺の顔をじっとみつめていたが、やがて大袈裟にため息を吐くと何事もなかったかのように授業を再開した。

俺も注意されたばかりである以上、一応真面目に授業を受ける振りをする。


今授業でやっていたのは『源氏物語』。

平安時代に書かれたっていうその物語は、タイトルは知っててもちゃんと読んだことある人ってどのくらいいるんだろうって疑問に思うほど長い話らしいっていうくらいの認識しかない。

真面目に前を向いて見たものの、桐山が今黒板に書いて説明しているよく分からない文法の解説に微塵も興味が持てなかった俺は、ちょっとした暇潰しにでもなればと古典の便覧を開いて見ることにした。

『源氏物語』は主人公の光源氏の生涯とその死後の次世代に何があったのかを描いた長編小説で、そこに書かれている概要をざっと見た限り、光源氏っていうハイスペックイケメンがあちこちの女に次から次へと手を出していくっていう感じの話だった。

……何ソレ。羨ましすぎ。やりたい放題じゃん!
しかも何人とそんな関係になってもオッケーってまさにパラダイスでしょ!?

いいなぁ~。俺もそんな世界に行って色んな相手とヤりまくりて~。

そんな事を考えていたその時。


『その願い。叶えましょう』


突然そんな声が聞こえ、反射的に顔をあげてしまった。

途端にちょうどこっちを見ていたらしい桐山と目が合い睨まれる。

今度は何も言われなかったが、後でまとめて説教コースが確定したも同然の状況に、俺は今度こそ真面目に授業を受けている振りをするため、黒板に書かれたよく分からない説明を必死にノートに書き写したのだった。



そして放課後。

桐山からの呼び出しで向かった先は『国語科準備室』。

教室がある校舎とは中庭を挟んで反対側に位置する校舎の二階の端にあるその部屋は、職員室から遠いせいなのかあまり使っている先生がいないらしく、普段からそこに常駐しているのは桐山ひとりだと聞いている。


「失礼しまーす」


二回ノックした後、返事を待たずに勝手にドアを開けるとそこには誰の姿も見えなかった。

なんだよ!呼び出しといて自分がいないとかあり得ねーんだけど。

ちょっとだけムカつきながらも、滅多に訪れることのないある意味レアな空間についキョロキョロと部屋中を見回してしまう。


壁際に置かれたスチール製の本棚にびっしりと並べられた本。
机の上にも色んな本や資料らしきものが綴じられたファイルが山積みになっていて、本人以外どこに何が置いてあるのか判別不可能な状態になっている。

でもその中に一冊だけ、表紙にも背表紙にも何も書かれていない紫色のハードカバーの本があり、何故かそれが気になって仕方がなくなった俺は触っちゃいけないってことは頭ではわかっていても、ついそれに手を伸ばしてしまった。


すると。

エレベーターで高層階に一気に移動する時のような変な浮遊感感じ、身体がグラついた気がしたと思ったら。

何故か俺の視界は暗転した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

アリスの苦難

浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ) 彼は生徒会の庶務だった。 突然壊れた日常。 全校生徒からの繰り返される”制裁” それでも彼はその事実を受け入れた。 …自分は受けるべき人間だからと。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

王道学園なのに会長だけなんか違くない?

ばなな
BL
※更新遅め この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも のだった。 …だが会長は違ったーー この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。 ちなみに会長総受け…になる予定?です。

平凡な俺が総受け⁈

雫@更新予定なし
BL
平凡な俺が総攻めになる⁈の逆バージョンです。高校生活一日目で車にひかれ異世界へ転生。顔は変わらず外れくじを引いたかと思ったがイケメンに溺愛され総受けになる物語です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

陛下の失われしイチモツをみつけた者を妃とする!………え、ヤバいどうしよう!?

ミクリ21
BL
主人公がヤバいことしてしまいました。

処理中です...