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71.見えた光明
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「ということは魔力を消費している根本をどうにかしないとダメだということですよね……」
いくら魔力を注いでも王弟殿下がなかなか目覚めなかった理由を知り、私はひとり思案していた。
術を掛けた相手は目の前にいる『聖邪の書』ことアスールを執念だけでロイド村に縛り続けるほどの術者。しかも死に際にかけた呪いとなるとその威力は凄まじい。
二冊の魔術書と契約を果たした私でもこの呪いを解くのは難しいのではないだろうかと思われる。
だったらどうするか……。
その時ふと、以前、旅に出た最初の街で月のものが来てしまった時に思い付いたことが頭を過った。
──いっそのこと、王弟殿下の身体を呪いがかけられる前に戻したらどうだろう?
禁呪とされている『時間操作魔法』。これを使ったら案外上手くいくのではないだろうか。
呪いを解こうとか、身体の状態を回復させようとするから困難なのであって、身体に異常が何にもなかった時まで王弟殿下の時間を戻せれば話が早い。
でもそんな事、果たして可能なんだろうか……?
私は思わず二人の魔術書を交互に見てしまった。
「その様子だと俺達に聞きたいことがあるんでしょ?」
「……教えて下さい。時間操作魔法で王弟殿下の身体を呪いを受ける前の状態に戻したら、呪いはどうなりますか?」
「なるほど。そうきたかー」
私の問い掛けに『聖魔の書』ことロッソはどことなく嬉しそうな顔をした。アスールは相変わらず表情ひとつ変えることなく黙って私達の話を聞いている。
「結論から言えば、その方法なら呪いは無くなるとは思うよ」
「本当ですか!?」
「うん。本当。でもねー、あんまりオススメできないかなー?」
呪いが無くなるのなら、すぐにでも現実世界に戻って実行したいのに、オススメ出来ないってどういう事……?
「あのさ、身体の時間を呪いを受ける前まで戻すってことは、身体だけじゃなくて記憶も一緒に戻っちゃうってわかってる?
その王弟殿下って人。ここ数年間の記憶をごっそり無くすことになるけどいいの?」
ロッソの問い掛けに私は『良いに決まってる!』と即答することが出来なかった。
全く考えてもいなかった盲点。
身体の状態だけじゃなく記憶も一緒に変化するなんて……。
あの魔法が精神干渉系の魔法と同じく禁呪とされている意味が良くわかった。
これ、個人の判断で気軽に使っちゃいけないものだ。
でも、だからって他の方法って言われると……。
気持ちを切り替えて他の方法を考えてみようと思うものの、確実に呪いが消えるということがわかってしまった以上、これが最善としか思えなくなってしまっている。
「……他に方法が無いのならやるしかないと思います。ここ数年間の記憶が無くなってしまう王弟殿下はお気の毒ですが、あの方はベルク王国にとって失えない方。命が懸かっているとなれば尚更のこと。いくら禁呪といえどもこの方法を提案すれば許しをいただけると思います」
「まあ、本人にとっちゃ記憶が消えるっていうデメリットはあるけど、呪いは解けるし若返るし、何よりキミの言うとおり命が助かるんだからメリットのほうが大きいだろうね。
──でもさー、ロザリーはそれでいいわけ?」
「私、ですか?」
聞かれている意味がよくわからずに思わず首を傾げた。
そもそも私が提案した事なのだ。良いに決まってる。なのに何故こんな聞き方をされるのかさっぱりわからない。
すると。
「その術を使うと、あやつはお前と出会った事すら忘れてしまう。正確には忘れるというより出会い自体がなかったことになるのだがな。そうなってもお前は良いのかと聞かれている」
私がこの方法を思い付いて以来ずっと口を開かなかったアスールが淡々とした口調でそう告げた。
出会い自体が無かったことに……?
それは以前、王弟殿下と偶然に出会い、一方的に好きになった挙げ句にあやしいお呪いを使い、人生を狂わせることになってしまった私が何より強く望んだことだった。
だからそんな事は気にするところというよりは、むしろ喜ぶべきことなのだ。
──そう思うのが普通の筈なのに……。
残念な事にこの時私の中に生まれた感情は喜びとは明らかに違うもので。
私は二人の魔術書の問い掛けにすぐに肯定の返事を返すことが出来なかった。
いくら魔力を注いでも王弟殿下がなかなか目覚めなかった理由を知り、私はひとり思案していた。
術を掛けた相手は目の前にいる『聖邪の書』ことアスールを執念だけでロイド村に縛り続けるほどの術者。しかも死に際にかけた呪いとなるとその威力は凄まじい。
二冊の魔術書と契約を果たした私でもこの呪いを解くのは難しいのではないだろうかと思われる。
だったらどうするか……。
その時ふと、以前、旅に出た最初の街で月のものが来てしまった時に思い付いたことが頭を過った。
──いっそのこと、王弟殿下の身体を呪いがかけられる前に戻したらどうだろう?
禁呪とされている『時間操作魔法』。これを使ったら案外上手くいくのではないだろうか。
呪いを解こうとか、身体の状態を回復させようとするから困難なのであって、身体に異常が何にもなかった時まで王弟殿下の時間を戻せれば話が早い。
でもそんな事、果たして可能なんだろうか……?
私は思わず二人の魔術書を交互に見てしまった。
「その様子だと俺達に聞きたいことがあるんでしょ?」
「……教えて下さい。時間操作魔法で王弟殿下の身体を呪いを受ける前の状態に戻したら、呪いはどうなりますか?」
「なるほど。そうきたかー」
私の問い掛けに『聖魔の書』ことロッソはどことなく嬉しそうな顔をした。アスールは相変わらず表情ひとつ変えることなく黙って私達の話を聞いている。
「結論から言えば、その方法なら呪いは無くなるとは思うよ」
「本当ですか!?」
「うん。本当。でもねー、あんまりオススメできないかなー?」
呪いが無くなるのなら、すぐにでも現実世界に戻って実行したいのに、オススメ出来ないってどういう事……?
「あのさ、身体の時間を呪いを受ける前まで戻すってことは、身体だけじゃなくて記憶も一緒に戻っちゃうってわかってる?
その王弟殿下って人。ここ数年間の記憶をごっそり無くすことになるけどいいの?」
ロッソの問い掛けに私は『良いに決まってる!』と即答することが出来なかった。
全く考えてもいなかった盲点。
身体の状態だけじゃなく記憶も一緒に変化するなんて……。
あの魔法が精神干渉系の魔法と同じく禁呪とされている意味が良くわかった。
これ、個人の判断で気軽に使っちゃいけないものだ。
でも、だからって他の方法って言われると……。
気持ちを切り替えて他の方法を考えてみようと思うものの、確実に呪いが消えるということがわかってしまった以上、これが最善としか思えなくなってしまっている。
「……他に方法が無いのならやるしかないと思います。ここ数年間の記憶が無くなってしまう王弟殿下はお気の毒ですが、あの方はベルク王国にとって失えない方。命が懸かっているとなれば尚更のこと。いくら禁呪といえどもこの方法を提案すれば許しをいただけると思います」
「まあ、本人にとっちゃ記憶が消えるっていうデメリットはあるけど、呪いは解けるし若返るし、何よりキミの言うとおり命が助かるんだからメリットのほうが大きいだろうね。
──でもさー、ロザリーはそれでいいわけ?」
「私、ですか?」
聞かれている意味がよくわからずに思わず首を傾げた。
そもそも私が提案した事なのだ。良いに決まってる。なのに何故こんな聞き方をされるのかさっぱりわからない。
すると。
「その術を使うと、あやつはお前と出会った事すら忘れてしまう。正確には忘れるというより出会い自体がなかったことになるのだがな。そうなってもお前は良いのかと聞かれている」
私がこの方法を思い付いて以来ずっと口を開かなかったアスールが淡々とした口調でそう告げた。
出会い自体が無かったことに……?
それは以前、王弟殿下と偶然に出会い、一方的に好きになった挙げ句にあやしいお呪いを使い、人生を狂わせることになってしまった私が何より強く望んだことだった。
だからそんな事は気にするところというよりは、むしろ喜ぶべきことなのだ。
──そう思うのが普通の筈なのに……。
残念な事にこの時私の中に生まれた感情は喜びとは明らかに違うもので。
私は二人の魔術書の問い掛けにすぐに肯定の返事を返すことが出来なかった。
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