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69.思い付いた方法
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カイル様と共に朝食を済ませ、カイル様が用意して下さった馬車で王宮に向かうことになった私は、初めて明かされたこれまで隠されていた事情に最早言葉も出なかった。
クルトさんとディルクさんが只者ではないこともわかっていたし、国王陛下に近しい人物であることは想像出来ていたのだけれど……。
まさかまさかの国王陛下の両翼と称される二人だとは誰が想像できたでしょうか……!!
驚愕のあまり顔色を悪くする私に、向かい側の席に座っているクルトさんとディルクさんは困ったような表情で顔を見合わせている。
「私のせいで陛下の両翼と称されるお二人にこのような事に付き合わせてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
改めて深く頭を下げると、すぐに正面から手が伸びてきて私の頭をポンポンと撫でてくれた。
「謝らないで下さい。これは陛下のご提案ではありますが、それを受けたのはあくまでも我々の意思。
それに未来の国の宝となる若者と共に旅をし、その能力をこの目にすることが出来た事に後悔はありません」
「俺も久々に限界ってやつを経験して、ここで満足せずもっと上を目指そうという気になれた。まだまだ若いのには負けられんからな」
それが完全に私を慰めるための言葉だとはわかっていても、二人の温かい気持ちが込められた言葉に、すっかり落ち込んでいた私の心は少しだけ軽くなった。
「ありがとうございます。お二人と肩を並べられるような立派な魔術師に絶対になってみせますから」
私は決意を新たにすると、まずは王弟殿下を死の淵から救うために全力を注ぐ決意をした。
王宮に到着し、国王陛下への挨拶もそこそこに王太子殿下に促されカイル様と共に王弟殿下の部屋へと向かう。短い間ではあったが苦楽を共にしたクルトさんとディルクさんとはここでお別れだ。
次に会った時は先程までのように気安く頭を撫でてもらえるような存在ではないことが少し淋しい。
私はこの二人から受けた恩に報いるためにも自分自身に気合いを入れ、昏睡状態の王弟殿下と対面した。
身体中にあった傷は回復していたものの、未だに意識不明。しかし幸いなことに身体の機能に問題はないらしく、この状態は全て魔力の枯渇によるものだという。
試しに魔力を注いでみたのだが王弟殿下の体内に魔力が満たされるどころか、本当にあっという間に枯渇状態に戻っていった。
眠り続けていれば自然と回復してくるため、今すぐ死に繋がることはないが、このまま栄養が取れなければ肉体のほうが先に限界を迎えるだろう。
魔力の譲渡でその流れは感じることが出来ても、それが王弟殿下の体内に留まるということを実感することは出来ないということは……。これは魔力を回復させる方法ではなく、魔力が溜まっていかない根本的な原因を突き止めないことには前に進めないということかもしれない。
私は今まで本を読んで蓄えてきた知識の中から役に立つものがないかと必死に脳をフル稼働させてみたものの、それらしい対処方法に思い当たることはなかった。
クルトさんは穴のあいた水瓶っていう言い方をしてたけどまさにそんな感じ。
容量いっぱいに満たしたつもりでも、勝手に漏れだしていく水瓶に水を溜めるにはやっぱり漏れの原因となっている箇所を塞ぐしかない。
でもその方法も皆目見当がつかないんだよね……。うーん。水を満たす方法か……。
その時ふと、ある数学の問題が頭を過る。
詮が抜けた状態の風呂桶に、水が流れ出る速度より速い速度で水を入れると満杯になるのは何分後かという時間を計算する数式だ。
抜ける速度より、入れる速度を早くすれば一応魔力が回復したことになって、王弟殿下にも何か変化があるかもしれない。
──ただ、私の魔力がそこまで続くかどうかわからないけどね。今ちょっと使っちゃったし。それに何より有効な手段かどうかもわからない。でも!
私は一旦王弟殿下から離れると、私のやることをじっと見守っていた王太子殿下へと向き直った。
「王太子殿下にお願いがございます」
「聞こう」
「私に今一度魔力の譲渡をしていただけませんか」
「は?それ本気で言ってるの? まさかとは思うけどもう魔力を使い切ったわけ?」
思い切り訝しげな表情をする王太子殿下に私は即座に自分の考えを披露した。
「いいえ。それはまだですが、少し試してみたいことがあるので、魔力を分けていただきたいのです。なるべく残量が多いほうがいいので」
さっき思い付いたことを説明し、それを実践するには少しでも私の魔力が多いほうがいいということを話すと、王太子殿下は眉根を寄せながらも、渋々了承して下さった。
確実とはいえない方法の為に魔力を提供してもらうのも申し訳ないけれど、少しでも可能性があるのならそれに賭けてみたいのだ。
早速向かい合わせに立ち、王太子殿下をじっと見上げると、何故かばつが悪そうな表情をされてしまう。挙げ句に。「そんなに見るなよ。デリカシーないな」そう言いながらやや強引に腕を引かれたと思ったら、いきなり王太子殿下の手で目隠しされ一瞬にして視界が塞がれた。
「…………!」
驚きの声をあげる暇もなく唇が重ねられ、王太子殿下の魔力がゆっくりと流れ込んでくる。
そうだった!!王弟殿下をどうにかすることにばかり頭がいってたし、今までは意識のない相手だったからすっかり人工呼吸的な意味合いにしか考えてなかったけど、起きてる者同士でしたらキスだよね!?
漸く王太子殿下のあの複雑そうな表情と言葉の意味に気付いた私は、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになりながらも王太子殿下からの魔力の譲渡を受け続けたのだった。
クルトさんとディルクさんが只者ではないこともわかっていたし、国王陛下に近しい人物であることは想像出来ていたのだけれど……。
まさかまさかの国王陛下の両翼と称される二人だとは誰が想像できたでしょうか……!!
驚愕のあまり顔色を悪くする私に、向かい側の席に座っているクルトさんとディルクさんは困ったような表情で顔を見合わせている。
「私のせいで陛下の両翼と称されるお二人にこのような事に付き合わせてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
改めて深く頭を下げると、すぐに正面から手が伸びてきて私の頭をポンポンと撫でてくれた。
「謝らないで下さい。これは陛下のご提案ではありますが、それを受けたのはあくまでも我々の意思。
それに未来の国の宝となる若者と共に旅をし、その能力をこの目にすることが出来た事に後悔はありません」
「俺も久々に限界ってやつを経験して、ここで満足せずもっと上を目指そうという気になれた。まだまだ若いのには負けられんからな」
それが完全に私を慰めるための言葉だとはわかっていても、二人の温かい気持ちが込められた言葉に、すっかり落ち込んでいた私の心は少しだけ軽くなった。
「ありがとうございます。お二人と肩を並べられるような立派な魔術師に絶対になってみせますから」
私は決意を新たにすると、まずは王弟殿下を死の淵から救うために全力を注ぐ決意をした。
王宮に到着し、国王陛下への挨拶もそこそこに王太子殿下に促されカイル様と共に王弟殿下の部屋へと向かう。短い間ではあったが苦楽を共にしたクルトさんとディルクさんとはここでお別れだ。
次に会った時は先程までのように気安く頭を撫でてもらえるような存在ではないことが少し淋しい。
私はこの二人から受けた恩に報いるためにも自分自身に気合いを入れ、昏睡状態の王弟殿下と対面した。
身体中にあった傷は回復していたものの、未だに意識不明。しかし幸いなことに身体の機能に問題はないらしく、この状態は全て魔力の枯渇によるものだという。
試しに魔力を注いでみたのだが王弟殿下の体内に魔力が満たされるどころか、本当にあっという間に枯渇状態に戻っていった。
眠り続けていれば自然と回復してくるため、今すぐ死に繋がることはないが、このまま栄養が取れなければ肉体のほうが先に限界を迎えるだろう。
魔力の譲渡でその流れは感じることが出来ても、それが王弟殿下の体内に留まるということを実感することは出来ないということは……。これは魔力を回復させる方法ではなく、魔力が溜まっていかない根本的な原因を突き止めないことには前に進めないということかもしれない。
私は今まで本を読んで蓄えてきた知識の中から役に立つものがないかと必死に脳をフル稼働させてみたものの、それらしい対処方法に思い当たることはなかった。
クルトさんは穴のあいた水瓶っていう言い方をしてたけどまさにそんな感じ。
容量いっぱいに満たしたつもりでも、勝手に漏れだしていく水瓶に水を溜めるにはやっぱり漏れの原因となっている箇所を塞ぐしかない。
でもその方法も皆目見当がつかないんだよね……。うーん。水を満たす方法か……。
その時ふと、ある数学の問題が頭を過る。
詮が抜けた状態の風呂桶に、水が流れ出る速度より速い速度で水を入れると満杯になるのは何分後かという時間を計算する数式だ。
抜ける速度より、入れる速度を早くすれば一応魔力が回復したことになって、王弟殿下にも何か変化があるかもしれない。
──ただ、私の魔力がそこまで続くかどうかわからないけどね。今ちょっと使っちゃったし。それに何より有効な手段かどうかもわからない。でも!
私は一旦王弟殿下から離れると、私のやることをじっと見守っていた王太子殿下へと向き直った。
「王太子殿下にお願いがございます」
「聞こう」
「私に今一度魔力の譲渡をしていただけませんか」
「は?それ本気で言ってるの? まさかとは思うけどもう魔力を使い切ったわけ?」
思い切り訝しげな表情をする王太子殿下に私は即座に自分の考えを披露した。
「いいえ。それはまだですが、少し試してみたいことがあるので、魔力を分けていただきたいのです。なるべく残量が多いほうがいいので」
さっき思い付いたことを説明し、それを実践するには少しでも私の魔力が多いほうがいいということを話すと、王太子殿下は眉根を寄せながらも、渋々了承して下さった。
確実とはいえない方法の為に魔力を提供してもらうのも申し訳ないけれど、少しでも可能性があるのならそれに賭けてみたいのだ。
早速向かい合わせに立ち、王太子殿下をじっと見上げると、何故かばつが悪そうな表情をされてしまう。挙げ句に。「そんなに見るなよ。デリカシーないな」そう言いながらやや強引に腕を引かれたと思ったら、いきなり王太子殿下の手で目隠しされ一瞬にして視界が塞がれた。
「…………!」
驚きの声をあげる暇もなく唇が重ねられ、王太子殿下の魔力がゆっくりと流れ込んでくる。
そうだった!!王弟殿下をどうにかすることにばかり頭がいってたし、今までは意識のない相手だったからすっかり人工呼吸的な意味合いにしか考えてなかったけど、起きてる者同士でしたらキスだよね!?
漸く王太子殿下のあの複雑そうな表情と言葉の意味に気付いた私は、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになりながらも王太子殿下からの魔力の譲渡を受け続けたのだった。
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