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57.大きな力
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真っ直ぐに私を見つめてくる王弟殿下の射るような視線が苦しい。
『魔術書に魅入られし者』
それが魔術書に勝手に選ばれた人間を指す言葉だとしたら、王弟殿下の推測は大正解だ。
私はこの状態を『魅入られる』どころか『呪われてる』としか思ってないのだが、その力の恩恵に与っていることに代わりはないので、そういう括りの中に入るのだろう。
「……仮に僕の力がそういうものだとして、殿下は一体何を仰りたいのですか?」
開き直ったようにそう言うと、王弟殿下は苦々しい表情で「否定しねぇのかよ……」と低く呟いた。
それって、そうじゃないって言って欲しかったって意味かな……?
でも否定したところで、王弟殿下がそれを信じて納得してくれるかどうかは別問題だと思うんだけど……。
私が戸惑いを隠せずにいると。
「俺はあの日。魔王と名乗ったアイツを殺して、力の源となっていた魔術書を破棄した。 もう二度とあんな悲劇を起こさないためにな……。でも自分がこの身に呪い受けて、それは間違いだったんじゃないかとずっと後悔してたんだ」
王弟殿下は私の方を向きながらも、私ではない別の人間を見ているかのようにどこか遠い目をしながら、苦しい胸の内を告白してきた。
──魔術書を破棄!? そんなこと出来るの!?
驚愕の事実に私が何も言葉を発せずにいると、王弟殿下は逃がさないとばかりに私の両肩を強く掴み、険しい表情で詰めよってきた。
「なぁ、お前は一体どういう存在だ? ロイド村出身の魔力持ちとか意味深に名乗ってるくらいだから、『魔術書に魅入られし者』に何か関係あるんだろ?! そうじゃなきゃ、その並外れた力の説明は出来ねぇよな!?」
「痛ッ」
「アルフレッド様!!」
身体をガクガクと揺さぶられ、段々と強くなっていく力に顔を顰めた私を見て、これまで何があってもずっと私達のやり取りを静かに見守ってきたディルクさんが、私達の間に割って入ってきた。
「……わかってる」
王弟殿下は気不味そうに視線を逸らし、肩を掴んでいた力を緩める。
「……悪い。ついカッとなっちまって……。 お前が俺の思ってるような存在なら、俺に掛けられた呪いも解けるんじゃないかと思ったら、なんか気が逸って……」
私は視線だけでディルクさんに感謝の意を示すと、改めて王弟殿下と向き合った。
呪いって、この間聞いたアレだよね? 単なるモテ自慢とも思えるような。
「……殿下はその呪いを解きたいと思っていらっしゃるのですか?」
「ああ、出来ればな」
「この間お聞きしたとおりの内容なら、それは男の人にとって垂涎ものの能力だと思うのですが……」
「どんな女にも目が合っただけで熱烈に好かれるんだぞ?しかも年齢関係なく。いくら俺でもそこまで節操のない女好きじゃねぇよ。 それにな、そんなの単なるトラブルの元でしかねぇし、仮に本当に好きになった女と両想いになったところで、相手の気持ちが俺に傾いたのは呪いのせいじゃないかって常に疑ってかからなきゃならないのが目に見えてる。 そんなの苦痛でしかねぇよな」
王弟殿下の苦悶の表情を見て、私は初めて目の前にいるこの人の本当の気持ちに触れたような気がした。
どんな方法でも相手の気持ちが手に入れば嬉しいと思っていた結果、『おまじない』という名の精神干渉系の魔法を使おうとした私は本当に何もわかっていない愚かな人間だったのだと思い知らされる。
こんな告白を聞いた以上、出来たら呪いを解く力になってあげたいけれど、何をどうすれば解呪出来るのか、正直さっぱり見当もつかない。
試しに呪いを解きたいと強く願ってみたのだが、魔法が発動した気配は見られなかった。
そういえば、私と同じく魔術書と契約したというカイル様は、『聖魔の書』に載っている呪文は使えないと言っていたし、どうもその本によって得意とするジャンルが違うようなことを言っていた気がする。
同じように契約した人間でも、本人じゃないとダメだということか、若しくは術者よりも高い魔力を持つ人間じゃないと無理だということか。
──ということはつまり、私はその人より魔力が弱いということなのだろう。
さっきまでの私は、こんな力をほぼ強制的に手に入れることになったことを不本意だと感じていた。 しかし、いざこういう現実を突き付けられると、自分の力不足を痛感する。
どうせ同じ呪われる状態になるのなら、王弟殿下の呪いを解くことが出来るくらい強い力が欲しかった。
……なんか悔しい。
そんな事を考えていたちょうどその時。
「え……?」
何かに呼ばれた気がして、私は咄嗟に振り返った。
「どうしました?」
突如、辺りをキョロキョロと見回すという不審な行動を取り始めた私に、クルトさんが心配そうに声を掛けてくる。
「今、何か聞こえませんでしたか?」
「……いえ、私の耳には何も」
ディルクさんを見ると、クルトさんに同意するように首を振り、王弟殿下はあからさまに私に訝しんでいる。
すると。
リィーーン……
鈴が鳴るような音が、私の頭の中に響き渡った。
──やっぱり呼ばれてる……。
その音に抗い難い不思議な力を感じ、一歩踏み出そうとしたその時。
明らかに王弟殿下の顔色が変化した。
「何だ!!この気配は!?」
王弟殿下のその一言で、全員に緊張が走る。
私も即座に魔力の探査を行うと。
今まで感じたことのないような大きな魔力の塊が、徐々にこちらへ近付いてくる気配を察知することが出来た。
「この魔力の大きさと、移動速度は……! まさか!!」
私と同じく探査を行ったクルトさんは、何が起きてるのかいまいち理解出来ていない私と違い、その魔力の正体が何なのかということに気付いたらしい。
「ああ、多分間違いねぇな。 やっぱり俺にとってこの場所は最悪の場所だったな……。
──こんな時に『翼竜』に目つけられるなんざ最悪だぜ……。」
王弟殿下は自嘲気味にそう呟くと、腰に佩ていた剣をスラリと抜いた。
『魔術書に魅入られし者』
それが魔術書に勝手に選ばれた人間を指す言葉だとしたら、王弟殿下の推測は大正解だ。
私はこの状態を『魅入られる』どころか『呪われてる』としか思ってないのだが、その力の恩恵に与っていることに代わりはないので、そういう括りの中に入るのだろう。
「……仮に僕の力がそういうものだとして、殿下は一体何を仰りたいのですか?」
開き直ったようにそう言うと、王弟殿下は苦々しい表情で「否定しねぇのかよ……」と低く呟いた。
それって、そうじゃないって言って欲しかったって意味かな……?
でも否定したところで、王弟殿下がそれを信じて納得してくれるかどうかは別問題だと思うんだけど……。
私が戸惑いを隠せずにいると。
「俺はあの日。魔王と名乗ったアイツを殺して、力の源となっていた魔術書を破棄した。 もう二度とあんな悲劇を起こさないためにな……。でも自分がこの身に呪い受けて、それは間違いだったんじゃないかとずっと後悔してたんだ」
王弟殿下は私の方を向きながらも、私ではない別の人間を見ているかのようにどこか遠い目をしながら、苦しい胸の内を告白してきた。
──魔術書を破棄!? そんなこと出来るの!?
驚愕の事実に私が何も言葉を発せずにいると、王弟殿下は逃がさないとばかりに私の両肩を強く掴み、険しい表情で詰めよってきた。
「なぁ、お前は一体どういう存在だ? ロイド村出身の魔力持ちとか意味深に名乗ってるくらいだから、『魔術書に魅入られし者』に何か関係あるんだろ?! そうじゃなきゃ、その並外れた力の説明は出来ねぇよな!?」
「痛ッ」
「アルフレッド様!!」
身体をガクガクと揺さぶられ、段々と強くなっていく力に顔を顰めた私を見て、これまで何があってもずっと私達のやり取りを静かに見守ってきたディルクさんが、私達の間に割って入ってきた。
「……わかってる」
王弟殿下は気不味そうに視線を逸らし、肩を掴んでいた力を緩める。
「……悪い。ついカッとなっちまって……。 お前が俺の思ってるような存在なら、俺に掛けられた呪いも解けるんじゃないかと思ったら、なんか気が逸って……」
私は視線だけでディルクさんに感謝の意を示すと、改めて王弟殿下と向き合った。
呪いって、この間聞いたアレだよね? 単なるモテ自慢とも思えるような。
「……殿下はその呪いを解きたいと思っていらっしゃるのですか?」
「ああ、出来ればな」
「この間お聞きしたとおりの内容なら、それは男の人にとって垂涎ものの能力だと思うのですが……」
「どんな女にも目が合っただけで熱烈に好かれるんだぞ?しかも年齢関係なく。いくら俺でもそこまで節操のない女好きじゃねぇよ。 それにな、そんなの単なるトラブルの元でしかねぇし、仮に本当に好きになった女と両想いになったところで、相手の気持ちが俺に傾いたのは呪いのせいじゃないかって常に疑ってかからなきゃならないのが目に見えてる。 そんなの苦痛でしかねぇよな」
王弟殿下の苦悶の表情を見て、私は初めて目の前にいるこの人の本当の気持ちに触れたような気がした。
どんな方法でも相手の気持ちが手に入れば嬉しいと思っていた結果、『おまじない』という名の精神干渉系の魔法を使おうとした私は本当に何もわかっていない愚かな人間だったのだと思い知らされる。
こんな告白を聞いた以上、出来たら呪いを解く力になってあげたいけれど、何をどうすれば解呪出来るのか、正直さっぱり見当もつかない。
試しに呪いを解きたいと強く願ってみたのだが、魔法が発動した気配は見られなかった。
そういえば、私と同じく魔術書と契約したというカイル様は、『聖魔の書』に載っている呪文は使えないと言っていたし、どうもその本によって得意とするジャンルが違うようなことを言っていた気がする。
同じように契約した人間でも、本人じゃないとダメだということか、若しくは術者よりも高い魔力を持つ人間じゃないと無理だということか。
──ということはつまり、私はその人より魔力が弱いということなのだろう。
さっきまでの私は、こんな力をほぼ強制的に手に入れることになったことを不本意だと感じていた。 しかし、いざこういう現実を突き付けられると、自分の力不足を痛感する。
どうせ同じ呪われる状態になるのなら、王弟殿下の呪いを解くことが出来るくらい強い力が欲しかった。
……なんか悔しい。
そんな事を考えていたちょうどその時。
「え……?」
何かに呼ばれた気がして、私は咄嗟に振り返った。
「どうしました?」
突如、辺りをキョロキョロと見回すという不審な行動を取り始めた私に、クルトさんが心配そうに声を掛けてくる。
「今、何か聞こえませんでしたか?」
「……いえ、私の耳には何も」
ディルクさんを見ると、クルトさんに同意するように首を振り、王弟殿下はあからさまに私に訝しんでいる。
すると。
リィーーン……
鈴が鳴るような音が、私の頭の中に響き渡った。
──やっぱり呼ばれてる……。
その音に抗い難い不思議な力を感じ、一歩踏み出そうとしたその時。
明らかに王弟殿下の顔色が変化した。
「何だ!!この気配は!?」
王弟殿下のその一言で、全員に緊張が走る。
私も即座に魔力の探査を行うと。
今まで感じたことのないような大きな魔力の塊が、徐々にこちらへ近付いてくる気配を察知することが出来た。
「この魔力の大きさと、移動速度は……! まさか!!」
私と同じく探査を行ったクルトさんは、何が起きてるのかいまいち理解出来ていない私と違い、その魔力の正体が何なのかということに気付いたらしい。
「ああ、多分間違いねぇな。 やっぱり俺にとってこの場所は最悪の場所だったな……。
──こんな時に『翼竜』に目つけられるなんざ最悪だぜ……。」
王弟殿下は自嘲気味にそう呟くと、腰に佩ていた剣をスラリと抜いた。
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