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54.クルトの事情聴取 その2※クルト視点
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アルフレッド様から事情を聞き終わった私は再びアーサーの部屋へと向かいました。
先程戻ってきた時に何か言いたそうにしていたことも気になりますし、どういった状況だったのか、アーサーのほうからも聞いてみないことには、本当にそのアルフレッド様が出会ったという魔力持ちの女性がアーサーだという確証も得られませんしねぇ。
それにあの子のことですから、おそらく我々がどういった話してるのか気になっても、自分から聞いてくるような不躾な真似はしないでしょうし。
アルフレッド様のあの無自覚でありながら熱に浮かされたような状態になっていることは伝える必要はないものの、大した話ではなかったことをちゃんと伝えて安心させてあげないと。
「アーサー、入ってもよろしいですか?」
声をかけるとすぐに中から返事があり、扉が開きました。
先程よりも随分顔色が悪くなっているところを見ると、相当具合が悪いのでしょう。
まあ、こういった症状の悪化はストレスが原因の場合もあるのですが。
「薬を持って参りました。痛み止めと造血作用のある薬です。とりあえずこれを飲んで下さい。話はそれからにしましょう」
「……はい。ありがとうございます」
そう言って微笑んでくれた顔は、私の話が何なのか気になって仕方ないといった顔でした。
さて。どう話を切り出しますかね……。
結局。アーサーが薬を飲み終わるのを待って、私は回りくどい言い方はせず、単刀直入に用件を切り出すことに決めました。
「アルフレッド様が街で会ったという女性は……」
「私です。……実は街で倒れそうになったところを助けていただいて……。それで、……あの、手を握られたり、……名前を聞かれたりしたんですけど……」
しどろもどろになりながら答えたアーサーの表情からは、そういった出来事を口にすることへの恥じらいは見られても、アルフレッド様に対する特別な気持ちが芽生えたような様子は見受けられません。
本当に呪いは効いていないようです。
「つかぬことを伺いますが、あなたはアルフレッド様と視線を合わせるとはなかったのですか?」
「……ありました。……でも、じっと見つめてこられたので、マズいと思って慌てて逸らしましたけど……」
アルフレッド様の仰っていた『目が合った瞬間、信じられないものを見るような目付きで逸らされた』という話も強ち嘘ではなかったようです。
挙げ句に。
「普段の王弟殿下を知ってるだけに微妙な気持ちにしかなれなくて……。それどころか、他人の秘密を覗き見してるみたいでいたたまれなくて、失礼だとは思いつつもつい耐えきれずに走って逃げて来ちゃったんです。これってやっぱり不敬罪になりますよね……」
微塵も異性として意識されていない様子のアルフレッド様の様子を聞くにつれ、いつもはまやかしの笑みを作るために働いている表情筋が自然と緩んでいくのを感じます。
すっかり悄気かえっているアーサーには悪いのですが、私は正直笑いを堪えるのに必死でした。
「大丈夫ですよ。アルフレッド様は本当のご身分を明かされた訳ではないのでしょう?それにアルフレッド様も魔法を使ったあの姿をあなただと気付いておられる訳ではないようですので、心配いりませんよ」
「本当ですか?」
「ええ。先程も申し上げましたが、あなたが女性だと知っているのも私だけですし、普段のあなたとはあまりにイメージがかけ離れ過ぎているので、気付く人は稀だと思いますよ」
アルフレッド様がその事に気付かれた時に、どういった反応をみせるか気に非常になるので、こっそりバラしてみたい気もしますが。
その余計な一言を笑顔の下に隠してそう言うと。
「そうですよね……。まさかあのゴージャス美女の中身が冴えない私だなんて気付く訳ないですよね」
明るい口調とは裏腹に、少し傷付いたようなアーサーの表情に、私は自分の言葉の至らなさを察しました。
しかし、ここで私が何か言っても、下手な慰めとしかとってもらえない可能性もあります。
私は彼女に何か言葉を掛ける代わりに、きっと以前は先程魔法で変身した姿のように長かったのであろう髪をそっと撫でました。頭を撫でるという行為は子供相手にするものだということはわかっていますが、この姿のアーサー相手だとついこういった行動をしてしまいがちです。
本来ならば年頃のお嬢さんにこんな風に触れてはならないのでしょうけど……。
そんなことを考えながら頭を撫で続けていると。
「男の人って皆、美人でナイスバディな女の人のほうが好きですよね……」
心なしか胡乱な目付きでそう言われ、私は申し訳ないと思いつつもつい笑ってしまいました。
「そんなことはないですよ。好みは人其々ですし、あなたはこのままで充分可愛らしいです」
本心で告げた言葉だったにも関わらず、彼女は少しも納得していないといった表情で私を憮然と見上げます。
その顔も充分可愛らしいと思いますよ。そう言ったところで信じてはくれないのでしょうけど。
彼女は自分の容姿に無頓着な上、普段の言動が相俟って非常気付き難いのですが、時折ハッとするような美しさが垣間見える瞬間があるのです。
アーサーは魔法で全くの別人に変わったのだと認識しているようですが、私の目から見ると劇的に変化したのはその色彩と体型のみで、基本的な顔の造作は元のままだったように思います。
月光を編んだような淡い金色の髪に、紫色の瞳。
その色彩を併せ持つものは非常に珍しく、古い時代には『精霊の申し子』の証とされていたのだと、古代の魔術書の研究をしている知り合いから聞いたことがあります。
今ではすっかり廃れてしまった考え方ですが、嘗ては、この世に存在するありとあらゆるものには精霊が宿っており、その精霊に力を貸してもらって使う力が魔法なのだと信じられていたそうです。
現在、魔法の仕組みが完全に解明された訳ではありませんが、精霊の存在はおとぎ話レベルになっており、代わりに魔素と呼ばれる魔法の力の源となるものを操ることが魔法なのだと云われております。
その魔素自体も空気と同じで目に見えるものではないので説明しづらいようなのですが。
さて、話がズレましたが、私が何を言いたいのかというと。
その昔。ベルク王国一の美姫と謳われ、高い魔力をお持ちだったという伝説が残っているアンジェリカ姫は、アーサーと同じ色彩をお持ちで、『精霊の申し子』と言われていたのです。
アーサー自身もアルフレッド様もお気付きではないようですが、先程姿替えの魔法を使ったアーサーは色彩こそ違っていたものの、以前王宮で目にしたそのアンジェリカ様の肖像画にそっくりでした。
もしかしたら、アーサーのあの力は『魔術書に魅入られし者』だからではなく、『精霊の申し子』だからかもしれませんねぇ。
まあ、それが非現実的な考えだということは否定出来ませんが、アーサーの持つ色彩が先祖返りの結果だということだけは間違いないでしょう。
──アンジェリカ様が降嫁されたのは、どこの貴族の元でしたでしょうか。
どちらにせよ、私の予想が当たっているならば、おそらく本来のアーサーは、王族の正妃になれるだけの身分を持った娘に違いありません。
そんな娘を性別を変えてまで側に置こうとされるフェリクス殿下と、それを知らずに彼女を王太子妃にと言い出したアルフレッド様。
……これは益々厄介な事になりそうな気がしてきました。
先程戻ってきた時に何か言いたそうにしていたことも気になりますし、どういった状況だったのか、アーサーのほうからも聞いてみないことには、本当にそのアルフレッド様が出会ったという魔力持ちの女性がアーサーだという確証も得られませんしねぇ。
それにあの子のことですから、おそらく我々がどういった話してるのか気になっても、自分から聞いてくるような不躾な真似はしないでしょうし。
アルフレッド様のあの無自覚でありながら熱に浮かされたような状態になっていることは伝える必要はないものの、大した話ではなかったことをちゃんと伝えて安心させてあげないと。
「アーサー、入ってもよろしいですか?」
声をかけるとすぐに中から返事があり、扉が開きました。
先程よりも随分顔色が悪くなっているところを見ると、相当具合が悪いのでしょう。
まあ、こういった症状の悪化はストレスが原因の場合もあるのですが。
「薬を持って参りました。痛み止めと造血作用のある薬です。とりあえずこれを飲んで下さい。話はそれからにしましょう」
「……はい。ありがとうございます」
そう言って微笑んでくれた顔は、私の話が何なのか気になって仕方ないといった顔でした。
さて。どう話を切り出しますかね……。
結局。アーサーが薬を飲み終わるのを待って、私は回りくどい言い方はせず、単刀直入に用件を切り出すことに決めました。
「アルフレッド様が街で会ったという女性は……」
「私です。……実は街で倒れそうになったところを助けていただいて……。それで、……あの、手を握られたり、……名前を聞かれたりしたんですけど……」
しどろもどろになりながら答えたアーサーの表情からは、そういった出来事を口にすることへの恥じらいは見られても、アルフレッド様に対する特別な気持ちが芽生えたような様子は見受けられません。
本当に呪いは効いていないようです。
「つかぬことを伺いますが、あなたはアルフレッド様と視線を合わせるとはなかったのですか?」
「……ありました。……でも、じっと見つめてこられたので、マズいと思って慌てて逸らしましたけど……」
アルフレッド様の仰っていた『目が合った瞬間、信じられないものを見るような目付きで逸らされた』という話も強ち嘘ではなかったようです。
挙げ句に。
「普段の王弟殿下を知ってるだけに微妙な気持ちにしかなれなくて……。それどころか、他人の秘密を覗き見してるみたいでいたたまれなくて、失礼だとは思いつつもつい耐えきれずに走って逃げて来ちゃったんです。これってやっぱり不敬罪になりますよね……」
微塵も異性として意識されていない様子のアルフレッド様の様子を聞くにつれ、いつもはまやかしの笑みを作るために働いている表情筋が自然と緩んでいくのを感じます。
すっかり悄気かえっているアーサーには悪いのですが、私は正直笑いを堪えるのに必死でした。
「大丈夫ですよ。アルフレッド様は本当のご身分を明かされた訳ではないのでしょう?それにアルフレッド様も魔法を使ったあの姿をあなただと気付いておられる訳ではないようですので、心配いりませんよ」
「本当ですか?」
「ええ。先程も申し上げましたが、あなたが女性だと知っているのも私だけですし、普段のあなたとはあまりにイメージがかけ離れ過ぎているので、気付く人は稀だと思いますよ」
アルフレッド様がその事に気付かれた時に、どういった反応をみせるか気に非常になるので、こっそりバラしてみたい気もしますが。
その余計な一言を笑顔の下に隠してそう言うと。
「そうですよね……。まさかあのゴージャス美女の中身が冴えない私だなんて気付く訳ないですよね」
明るい口調とは裏腹に、少し傷付いたようなアーサーの表情に、私は自分の言葉の至らなさを察しました。
しかし、ここで私が何か言っても、下手な慰めとしかとってもらえない可能性もあります。
私は彼女に何か言葉を掛ける代わりに、きっと以前は先程魔法で変身した姿のように長かったのであろう髪をそっと撫でました。頭を撫でるという行為は子供相手にするものだということはわかっていますが、この姿のアーサー相手だとついこういった行動をしてしまいがちです。
本来ならば年頃のお嬢さんにこんな風に触れてはならないのでしょうけど……。
そんなことを考えながら頭を撫で続けていると。
「男の人って皆、美人でナイスバディな女の人のほうが好きですよね……」
心なしか胡乱な目付きでそう言われ、私は申し訳ないと思いつつもつい笑ってしまいました。
「そんなことはないですよ。好みは人其々ですし、あなたはこのままで充分可愛らしいです」
本心で告げた言葉だったにも関わらず、彼女は少しも納得していないといった表情で私を憮然と見上げます。
その顔も充分可愛らしいと思いますよ。そう言ったところで信じてはくれないのでしょうけど。
彼女は自分の容姿に無頓着な上、普段の言動が相俟って非常気付き難いのですが、時折ハッとするような美しさが垣間見える瞬間があるのです。
アーサーは魔法で全くの別人に変わったのだと認識しているようですが、私の目から見ると劇的に変化したのはその色彩と体型のみで、基本的な顔の造作は元のままだったように思います。
月光を編んだような淡い金色の髪に、紫色の瞳。
その色彩を併せ持つものは非常に珍しく、古い時代には『精霊の申し子』の証とされていたのだと、古代の魔術書の研究をしている知り合いから聞いたことがあります。
今ではすっかり廃れてしまった考え方ですが、嘗ては、この世に存在するありとあらゆるものには精霊が宿っており、その精霊に力を貸してもらって使う力が魔法なのだと信じられていたそうです。
現在、魔法の仕組みが完全に解明された訳ではありませんが、精霊の存在はおとぎ話レベルになっており、代わりに魔素と呼ばれる魔法の力の源となるものを操ることが魔法なのだと云われております。
その魔素自体も空気と同じで目に見えるものではないので説明しづらいようなのですが。
さて、話がズレましたが、私が何を言いたいのかというと。
その昔。ベルク王国一の美姫と謳われ、高い魔力をお持ちだったという伝説が残っているアンジェリカ姫は、アーサーと同じ色彩をお持ちで、『精霊の申し子』と言われていたのです。
アーサー自身もアルフレッド様もお気付きではないようですが、先程姿替えの魔法を使ったアーサーは色彩こそ違っていたものの、以前王宮で目にしたそのアンジェリカ様の肖像画にそっくりでした。
もしかしたら、アーサーのあの力は『魔術書に魅入られし者』だからではなく、『精霊の申し子』だからかもしれませんねぇ。
まあ、それが非現実的な考えだということは否定出来ませんが、アーサーの持つ色彩が先祖返りの結果だということだけは間違いないでしょう。
──アンジェリカ様が降嫁されたのは、どこの貴族の元でしたでしょうか。
どちらにせよ、私の予想が当たっているならば、おそらく本来のアーサーは、王族の正妃になれるだけの身分を持った娘に違いありません。
そんな娘を性別を変えてまで側に置こうとされるフェリクス殿下と、それを知らずに彼女を王太子妃にと言い出したアルフレッド様。
……これは益々厄介な事になりそうな気がしてきました。
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