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49.クルトさんのお願い

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    早速クルトさんが王弟殿下と交渉してくれた結果。
 私の貧血が酷いという理由で、あと三日間ほど街の宿屋に滞在することに決まった。

 意外にも王弟殿下があっさり承諾してくれたことに驚きつつも、ただでさえ私の力不足で旅の行程が遅れているとこにきて更に足止めしてしまうことに、さすがに申し訳無さを感じずにはいられない。
 あまりに申し訳ないので、クルトさんに魔法でどうにかならないか聞いてみたところ、即座に却下されてしまった。

 理由は簡単。

 治癒魔法や回復魔法は病気の根本的な解決にはならないからだ。

 その上、自然の摂理に反する使い方をすると、身体に負荷がかかってしまい、後々体調に異変をきたすこともあるらしい。

 治癒魔法は基本、目に見える傷付いた箇所を修復するというものなので、見えない身体の中までは治せないということになっている。
 なので、この間カイル様が王弟殿下に使った酔いを醒ます浄化魔法は、見えない身体の中の血液を浄化するというもののため、普通の人は危険過ぎて真似出来ない魔法だと聞かされてビックリ。

 カイル様ってやっぱりすごい……。

 そして、回復魔法は体力を回復させる、つまりは疲労回復ということなので、一時的に元気になったように見えても、病気が治る訳ではないので気休め程度にしかならない。
 疲れてる時には効果抜群なんだけどね……。

 ちなみにさっき私が考えた身体の時間を操作するという魔法は『時間操作魔法』いって、『精神干渉系の魔法』と同じく禁術とされているものだった。

 黙って使わなくてホントによかった……。危うくまた罪が増えるところでした。

 私が密かにホッと胸を撫で下ろしていると、クルトさんから思わぬ提案が。


「私はこれから街へ出て必要なものを調達してきます。あなたは無理をせず少し休んでいて下さい」


 え……?それってもしかして。


「宿の女性に聞けばこういう時に必要なものを売っている店を教えてくれるでしょうから、すぐに行ってきます」


 やっぱり私のものだったー!!

 私は大慌てでクルトさんを止めた。


「いえいえいえいえ。大丈夫です。自分で行きます。男性であるクルトさんにそんな買い物はさせられません!」


 男の人が生理用品を買いに行くなんて、本人はもちろんのこと、聞かれた宿屋の女性も店の人もさぞかし気不味いだろうし、病気でもないのにそこまでしてもらうのは申し訳ない。


「それを言うのなら、あなたも今は男性ということになっているのですけど」


 断ったにも関わらず、笑いながらあっさりそう返されてしまった。
 しかし、私としてもここで簡単に引き下がる訳にもいかない。


「女性の格好で行くので大丈夫です。今はこんなですけど、一応女性なので」


 私の言葉を聞いた途端、クルトさんは急に神妙な面持ちになった。


「いくらあなたが女性だと知っていても、女性の格好で出掛けるのは賛成できません。あなたは全てを捨ててフェリクス殿下に忠誠を誓った身。万が一元のあなたを知っている人間にでも会ったらどうするつもりですか?」


 確かに。

 いくらロザリーとしての知り合いが少ないとはいえ、表向きは『神の花嫁』になっている私がこんなところに現れたと知られるのは非常にまずい。

 そしてそれが王太子殿下に知られてしまうのはもっとまずい。

 ニッコリと笑いながら『キミ、馬鹿なの?』と言っている姿が目に浮かぶようだ。

 いっそ、別人だったら問題ないんだろうけど……。

 その時ふと、最初に『聖魔の書』を見た時に、『自分の姿を理想どおりのものに変える』という呪文があったことを思い出した。

 載ってるってことは、使えるってことだよね!?

 私は早速その案をクルトさんに伝えることにした。


「魔法で姿を変えるのはどうでしょう?本来の私とは全くの別人に姿を変えれば問題ないと思うのですが」


 私の提案に、クルトさんの動きが完全に止まる。


 あれ?またやっちゃった?これも禁術?


 ──そういえばすっかり忘れてたけど、『聖魔の書』って禁術が載ってる本だってカイル様が言ってたような……。

 内心冷や汗ものでクルトさんの反応を窺っていると。


「あなたは『姿変えの魔法』が使えるのですか?」


 いつもと変わらない穏やかな表情と口調でそう尋ねられた。


「……使ったことはないですが、やろうと思えば出来ると思います」


 今更出来ないとは言えず、あくまでもまだ一回も使ったことがないことを強調しつつ仕方なく肯定すると、クルトさんは何故か深ーいため息を吐きながら、「あなたという人はどこまで規格外なんですか……」と呟いている。


 これは一体どういう意味だろう?規格外ってたぶん褒め言葉じゃないよね……?

 私は言葉の真意を確かめるべく、おずおずと口を開いた。


「……もしかして、これも禁術ですか?」

「いいえ。『姿変えの魔法』はアルフレッド様がよく使われる『目眩ましの魔法』と似たようなもののはずなので禁術ではありませんが、とても難しい魔法な上に消費する魔力も大きいので、今は使う人はほとんどいない魔法だと言われています」

「そうなんですね……」


 やはりというか何というか。普通の人はやらないというか、やれない魔法をやれると言ったことが『規格外』だったということらしい。
 もちろん私も現代魔法でやれと言われたら無理だし、術式を説明しろと言われたら出来ないけどね。

 クルトさんの言い方だと、既存の『姿変えの魔法』も魔力が必要なだけで術式の構築はされているようなので、呪いの恩恵を使ってもそれほどマズいことにはならない気がする。
 とりあえず今回は呪いの力を使うことにして、一般的な術式は今度余裕が出来たら調べてみよう。

 そう考えたところで、クルトさんが何か物言いたげな表情をしている事に気付き、私は思わず首を傾げた。


「……何でしょうか?」

「大変申し上げにくいのですが」

「はい」

「よかったら私の目の前でその『姿変えの魔法』を使ってみてくださいませんか?」

「……はい?」

「魔術を嗜む者として純粋に興味があるのです。絶対に口外はしないと誓います。見せていただくだけでいいので、どうかお願い出来ないでしょうか?」

「はい!?」


 当然のことながら、クルトさんの『お願い』に応える訳にはいかない私は、頭の中で必死に断るための言い訳を考え続ける羽目になったのだった。
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