49 / 71
49.クルトさんのお願い
しおりを挟む
早速クルトさんが王弟殿下と交渉してくれた結果。
私の貧血が酷いという理由で、あと三日間ほど街の宿屋に滞在することに決まった。
意外にも王弟殿下があっさり承諾してくれたことに驚きつつも、ただでさえ私の力不足で旅の行程が遅れているとこにきて更に足止めしてしまうことに、さすがに申し訳無さを感じずにはいられない。
あまりに申し訳ないので、クルトさんに魔法でどうにかならないか聞いてみたところ、即座に却下されてしまった。
理由は簡単。
治癒魔法や回復魔法は病気の根本的な解決にはならないからだ。
その上、自然の摂理に反する使い方をすると、身体に負荷がかかってしまい、後々体調に異変をきたすこともあるらしい。
治癒魔法は基本、目に見える傷付いた箇所を修復するというものなので、見えない身体の中までは治せないということになっている。
なので、この間カイル様が王弟殿下に使った酔いを醒ます浄化魔法は、見えない身体の中の血液を浄化するというもののため、普通の人は危険過ぎて真似出来ない魔法だと聞かされてビックリ。
カイル様ってやっぱりすごい……。
そして、回復魔法は体力を回復させる、つまりは疲労回復ということなので、一時的に元気になったように見えても、病気が治る訳ではないので気休め程度にしかならない。
疲れてる時には効果抜群なんだけどね……。
ちなみにさっき私が考えた身体の時間を操作するという魔法は『時間操作魔法』いって、『精神干渉系の魔法』と同じく禁術とされているものだった。
黙って使わなくてホントによかった……。危うくまた罪が増えるところでした。
私が密かにホッと胸を撫で下ろしていると、クルトさんから思わぬ提案が。
「私はこれから街へ出て必要なものを調達してきます。あなたは無理をせず少し休んでいて下さい」
え……?それってもしかして。
「宿の女性に聞けばこういう時に必要なものを売っている店を教えてくれるでしょうから、すぐに行ってきます」
やっぱり私のものだったー!!
私は大慌てでクルトさんを止めた。
「いえいえいえいえ。大丈夫です。自分で行きます。男性であるクルトさんにそんな買い物はさせられません!」
男の人が生理用品を買いに行くなんて、本人はもちろんのこと、聞かれた宿屋の女性も店の人もさぞかし気不味いだろうし、病気でもないのにそこまでしてもらうのは申し訳ない。
「それを言うのなら、あなたも今は男性ということになっているのですけど」
断ったにも関わらず、笑いながらあっさりそう返されてしまった。
しかし、私としてもここで簡単に引き下がる訳にもいかない。
「女性の格好で行くので大丈夫です。今はこんなですけど、一応女性なので」
私の言葉を聞いた途端、クルトさんは急に神妙な面持ちになった。
「いくらあなたが女性だと知っていても、女性の格好で出掛けるのは賛成できません。あなたは全てを捨ててフェリクス殿下に忠誠を誓った身。万が一元のあなたを知っている人間にでも会ったらどうするつもりですか?」
確かに。
いくらロザリーとしての知り合いが少ないとはいえ、表向きは『神の花嫁』になっている私がこんなところに現れたと知られるのは非常にまずい。
そしてそれが王太子殿下に知られてしまうのはもっとまずい。
ニッコリと笑いながら『キミ、馬鹿なの?』と言っている姿が目に浮かぶようだ。
いっそ、別人だったら問題ないんだろうけど……。
その時ふと、最初に『聖魔の書』を見た時に、『自分の姿を理想どおりのものに変える』という呪文があったことを思い出した。
載ってるってことは、使えるってことだよね!?
私は早速その案をクルトさんに伝えることにした。
「魔法で姿を変えるのはどうでしょう?本来の私とは全くの別人に姿を変えれば問題ないと思うのですが」
私の提案に、クルトさんの動きが完全に止まる。
あれ?またやっちゃった?これも禁術?
──そういえばすっかり忘れてたけど、『聖魔の書』って禁術が載ってる本だってカイル様が言ってたような……。
内心冷や汗ものでクルトさんの反応を窺っていると。
「あなたは『姿変えの魔法』が使えるのですか?」
いつもと変わらない穏やかな表情と口調でそう尋ねられた。
「……使ったことはないですが、やろうと思えば出来ると思います」
今更出来ないとは言えず、あくまでもまだ一回も使ったことがないことを強調しつつ仕方なく肯定すると、クルトさんは何故か深ーいため息を吐きながら、「あなたという人はどこまで規格外なんですか……」と呟いている。
これは一体どういう意味だろう?規格外ってたぶん褒め言葉じゃないよね……?
私は言葉の真意を確かめるべく、おずおずと口を開いた。
「……もしかして、これも禁術ですか?」
「いいえ。『姿変えの魔法』はアルフレッド様がよく使われる『目眩ましの魔法』と似たようなもののはずなので禁術ではありませんが、とても難しい魔法な上に消費する魔力も大きいので、今は使う人はほとんどいない魔法だと言われています」
「そうなんですね……」
やはりというか何というか。普通の人はやらないというか、やれない魔法をやれると言ったことが『規格外』だったということらしい。
もちろん私も現代魔法でやれと言われたら無理だし、術式を説明しろと言われたら出来ないけどね。
クルトさんの言い方だと、既存の『姿変えの魔法』も魔力が必要なだけで術式の構築はされているようなので、呪いの恩恵を使ってもそれほどマズいことにはならない気がする。
とりあえず今回は呪いの力を使うことにして、一般的な術式は今度余裕が出来たら調べてみよう。
そう考えたところで、クルトさんが何か物言いたげな表情をしている事に気付き、私は思わず首を傾げた。
「……何でしょうか?」
「大変申し上げにくいのですが」
「はい」
「よかったら私の目の前でその『姿変えの魔法』を使ってみてくださいませんか?」
「……はい?」
「魔術を嗜む者として純粋に興味があるのです。絶対に口外はしないと誓います。見せていただくだけでいいので、どうかお願い出来ないでしょうか?」
「はい!?」
当然のことながら、クルトさんの『お願い』に応える訳にはいかない私は、頭の中で必死に断るための言い訳を考え続ける羽目になったのだった。
私の貧血が酷いという理由で、あと三日間ほど街の宿屋に滞在することに決まった。
意外にも王弟殿下があっさり承諾してくれたことに驚きつつも、ただでさえ私の力不足で旅の行程が遅れているとこにきて更に足止めしてしまうことに、さすがに申し訳無さを感じずにはいられない。
あまりに申し訳ないので、クルトさんに魔法でどうにかならないか聞いてみたところ、即座に却下されてしまった。
理由は簡単。
治癒魔法や回復魔法は病気の根本的な解決にはならないからだ。
その上、自然の摂理に反する使い方をすると、身体に負荷がかかってしまい、後々体調に異変をきたすこともあるらしい。
治癒魔法は基本、目に見える傷付いた箇所を修復するというものなので、見えない身体の中までは治せないということになっている。
なので、この間カイル様が王弟殿下に使った酔いを醒ます浄化魔法は、見えない身体の中の血液を浄化するというもののため、普通の人は危険過ぎて真似出来ない魔法だと聞かされてビックリ。
カイル様ってやっぱりすごい……。
そして、回復魔法は体力を回復させる、つまりは疲労回復ということなので、一時的に元気になったように見えても、病気が治る訳ではないので気休め程度にしかならない。
疲れてる時には効果抜群なんだけどね……。
ちなみにさっき私が考えた身体の時間を操作するという魔法は『時間操作魔法』いって、『精神干渉系の魔法』と同じく禁術とされているものだった。
黙って使わなくてホントによかった……。危うくまた罪が増えるところでした。
私が密かにホッと胸を撫で下ろしていると、クルトさんから思わぬ提案が。
「私はこれから街へ出て必要なものを調達してきます。あなたは無理をせず少し休んでいて下さい」
え……?それってもしかして。
「宿の女性に聞けばこういう時に必要なものを売っている店を教えてくれるでしょうから、すぐに行ってきます」
やっぱり私のものだったー!!
私は大慌てでクルトさんを止めた。
「いえいえいえいえ。大丈夫です。自分で行きます。男性であるクルトさんにそんな買い物はさせられません!」
男の人が生理用品を買いに行くなんて、本人はもちろんのこと、聞かれた宿屋の女性も店の人もさぞかし気不味いだろうし、病気でもないのにそこまでしてもらうのは申し訳ない。
「それを言うのなら、あなたも今は男性ということになっているのですけど」
断ったにも関わらず、笑いながらあっさりそう返されてしまった。
しかし、私としてもここで簡単に引き下がる訳にもいかない。
「女性の格好で行くので大丈夫です。今はこんなですけど、一応女性なので」
私の言葉を聞いた途端、クルトさんは急に神妙な面持ちになった。
「いくらあなたが女性だと知っていても、女性の格好で出掛けるのは賛成できません。あなたは全てを捨ててフェリクス殿下に忠誠を誓った身。万が一元のあなたを知っている人間にでも会ったらどうするつもりですか?」
確かに。
いくらロザリーとしての知り合いが少ないとはいえ、表向きは『神の花嫁』になっている私がこんなところに現れたと知られるのは非常にまずい。
そしてそれが王太子殿下に知られてしまうのはもっとまずい。
ニッコリと笑いながら『キミ、馬鹿なの?』と言っている姿が目に浮かぶようだ。
いっそ、別人だったら問題ないんだろうけど……。
その時ふと、最初に『聖魔の書』を見た時に、『自分の姿を理想どおりのものに変える』という呪文があったことを思い出した。
載ってるってことは、使えるってことだよね!?
私は早速その案をクルトさんに伝えることにした。
「魔法で姿を変えるのはどうでしょう?本来の私とは全くの別人に姿を変えれば問題ないと思うのですが」
私の提案に、クルトさんの動きが完全に止まる。
あれ?またやっちゃった?これも禁術?
──そういえばすっかり忘れてたけど、『聖魔の書』って禁術が載ってる本だってカイル様が言ってたような……。
内心冷や汗ものでクルトさんの反応を窺っていると。
「あなたは『姿変えの魔法』が使えるのですか?」
いつもと変わらない穏やかな表情と口調でそう尋ねられた。
「……使ったことはないですが、やろうと思えば出来ると思います」
今更出来ないとは言えず、あくまでもまだ一回も使ったことがないことを強調しつつ仕方なく肯定すると、クルトさんは何故か深ーいため息を吐きながら、「あなたという人はどこまで規格外なんですか……」と呟いている。
これは一体どういう意味だろう?規格外ってたぶん褒め言葉じゃないよね……?
私は言葉の真意を確かめるべく、おずおずと口を開いた。
「……もしかして、これも禁術ですか?」
「いいえ。『姿変えの魔法』はアルフレッド様がよく使われる『目眩ましの魔法』と似たようなもののはずなので禁術ではありませんが、とても難しい魔法な上に消費する魔力も大きいので、今は使う人はほとんどいない魔法だと言われています」
「そうなんですね……」
やはりというか何というか。普通の人はやらないというか、やれない魔法をやれると言ったことが『規格外』だったということらしい。
もちろん私も現代魔法でやれと言われたら無理だし、術式を説明しろと言われたら出来ないけどね。
クルトさんの言い方だと、既存の『姿変えの魔法』も魔力が必要なだけで術式の構築はされているようなので、呪いの恩恵を使ってもそれほどマズいことにはならない気がする。
とりあえず今回は呪いの力を使うことにして、一般的な術式は今度余裕が出来たら調べてみよう。
そう考えたところで、クルトさんが何か物言いたげな表情をしている事に気付き、私は思わず首を傾げた。
「……何でしょうか?」
「大変申し上げにくいのですが」
「はい」
「よかったら私の目の前でその『姿変えの魔法』を使ってみてくださいませんか?」
「……はい?」
「魔術を嗜む者として純粋に興味があるのです。絶対に口外はしないと誓います。見せていただくだけでいいので、どうかお願い出来ないでしょうか?」
「はい!?」
当然のことながら、クルトさんの『お願い』に応える訳にはいかない私は、頭の中で必死に断るための言い訳を考え続ける羽目になったのだった。
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。
夜乃トバリ
恋愛
シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。
今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。
※他の作品と書き方が違います※
『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる