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47.遅れてきたもの
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私は今、結構なピンチを迎えていた。目の前の状況に暫し呆然としてしまう。あまりの予想外の出来事に思考回路が停止してしまったのだ。
たっぷり五分ほど固まって、漸く我に返った私が思ったこと。それは──。
──どうしよう……。
とにかくその一言に尽きるのだった。
無事に素材が採れる状態で魔物を倒すことに成功した私は、あれからすぐに次の街へと移動し、念願叶ってお風呂付きの個室に宿泊することが出来た。
昨夜はのんびりと一週間ぶりのお風呂を堪能し、フカフカのベッドの感触を満喫しながらここ最近なかった幸せな気分で眠りに就いたのだ。
──で、翌朝。
たっぷり睡眠を取って英気を養った私は気持ちのいい朝を迎える予定だったのだが……。
何でこんな事に!?
つい先程まで気持ちよく眠っていたベッドを見て途方に暮れる。そこには僅かではあるが赤いシミが付着しているシーツが見えた。
──そう、私の身体には今朝突然予想もしていなかった『お客さん』が訪れたのである。
考えてみれば、最後に『月のもの』が来たのはまだ私がロザリー・クレイストンとして生活していた頃であり、アーサー・ロイドとして生きることになってからは一回もない。
なので、正直そんなことが毎月あることすらはっきり言って忘れてた。……というか、思い出す余裕がなかっただけともいうけどね。
どうやら極度の緊張と過酷な環境に置かれたストレスが原因で大幅に遅れていただけで、呪いのせいで髪や胸は無くなったものの、身体の構造自体が変わった訳ではないので、女性としての生理現象は普通にあるらしい。
私、やっぱり女の子だったんだな……。
しみじみとそう実感しながらも、その反面、これから先、男性として生きていかなければならない以上、毎回何らかの対策が必要だということに気付き、気が重くなった。……はっきり言って複雑な気分だ。
とりあえず、これ、どうにかしないと……。
私は汚れてしまったものを綺麗にするために浄化の魔法を使い、ついでに服も着替えると、綺麗になった下着に汚れを防ぐための布を当てた。
万が一呪いが解けた時のためにと思って用意してきたサラシが役に立って良かった……。
しかし、二ヶ月という期間で行われる予定の旅はまだ始まって一週間しか経っていない。
この分ではもう一回くらい当たりそうな気がするし、今この状態でまた旅に出るのはちょっと辛い。
今回は個室だったから良かったものの、相部屋や野宿の場合は誤魔化しきれる自信がないし、何より私二日目は結構重いほうなのだ。
うーん。どうしよう……。いっそのこと魔法でどうにかならないかな……?
例えば自分の身体だけ時間を早めてさっさと終わらすとか。あ、でもそれだと身体ばかりが歳取っていきそうだから、逆に時を戻すほうがいいかな……。
何とか良い対処法は無いものかと、無い頭を振り絞って必死に考えていた、その時──。
扉をノックする音と共にクルトさんの声がする。
私は慌てて扉に駆け寄り扉を開けた。
「おはようございます。アーサー。今よろしいですか?」
「はい。おはようございます。クルトさん。どうされたんですか?」
私の問い掛けにクルトさんは何故か少しだけ怪訝そうな顔をする。
え……?何?私何かした?
「……少しだけ部屋にお邪魔してもいいですか?」
「はい。どうぞ」
私は素早くベッドに視線をやり、先程の痕跡が無いことを確認すると、クルトさんを招き入れた。
扉を閉めてクルトさんと向かいあうなり、そっと頬に手を伸ばされ、ドキリとさせられる。
ジッと私の顔を見つめてくるクルトさんの目は真剣そのもので、私は男の人に触れられているという気恥ずかしさよりも、秘密を暴かれるのではないかという不安と、隠し事をしているという後ろめたさでドキドキしたのだ。
「何だか顔色が良くないようですね。私には医術の心得もありますので、不調があるようなら遠慮なく言って下さい」
「いえ、特に具合が悪いとかではないので……」
月経はなかなかに大変なことが多いものではあるが、病気ではないので具合が悪いとも言いづらい。ましてやこの状況なら尚更だ。
私が大丈夫だと言うように何とか愛想笑いを見せると。
「そうですか。──ちょっと失礼」
クルトさんはそう言うなり、突然両手の親指で私の目の下をグイッと引っ張った。
「は、えっ!?」
あまりに突拍子のない事をされ、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
そんな私を他所にクルトさんはあっさり手を離すと、今度はその手で私の両肩をガッチリと掴んできた。
「いくつかあなたに聞きたい事があります。答えづらいのは百も承知ですが、正直に答えていただけるとありがたいです」
暗に『逃がさないから、嘘は吐くなよ』と言われてる気がするんだけど……。
私が恐る恐るクルトさんの顔を見上げると、クルトさんは少しだけ逡巡しているような様子を見せた。
もしかして聞きづらいことなのかな……?何聞かれるんだろう……?怖い……。
「……違っていたら申し訳ありません。
──もしかして『月のもの』が訪れたのではないですか?」
「……は?」
何を言われたのかよく理解出来ず、反射的に聞き返す。
今、クルトさんの口から『月のもの』って言葉が出たような……。もしかして聞き間違い……?
すると。
「女性にこのような不躾な質問をして本当に申し訳ありません」
え!?今『女性』って……?
またしても本来ならば聞こえてくる筈のない単語を聞き、驚きに目を見開いたまま固まる私に、クルトさんが真剣な表情で口を開いた。
「申し訳ありません。私はあなたが女性だということを知っています」
「は……?」
クルトさんの思いがけない告白に私の脳内はすっかりパニックになっており、何も答えることが出来なくなっていたのだった。
どうしてバレた!?
たっぷり五分ほど固まって、漸く我に返った私が思ったこと。それは──。
──どうしよう……。
とにかくその一言に尽きるのだった。
無事に素材が採れる状態で魔物を倒すことに成功した私は、あれからすぐに次の街へと移動し、念願叶ってお風呂付きの個室に宿泊することが出来た。
昨夜はのんびりと一週間ぶりのお風呂を堪能し、フカフカのベッドの感触を満喫しながらここ最近なかった幸せな気分で眠りに就いたのだ。
──で、翌朝。
たっぷり睡眠を取って英気を養った私は気持ちのいい朝を迎える予定だったのだが……。
何でこんな事に!?
つい先程まで気持ちよく眠っていたベッドを見て途方に暮れる。そこには僅かではあるが赤いシミが付着しているシーツが見えた。
──そう、私の身体には今朝突然予想もしていなかった『お客さん』が訪れたのである。
考えてみれば、最後に『月のもの』が来たのはまだ私がロザリー・クレイストンとして生活していた頃であり、アーサー・ロイドとして生きることになってからは一回もない。
なので、正直そんなことが毎月あることすらはっきり言って忘れてた。……というか、思い出す余裕がなかっただけともいうけどね。
どうやら極度の緊張と過酷な環境に置かれたストレスが原因で大幅に遅れていただけで、呪いのせいで髪や胸は無くなったものの、身体の構造自体が変わった訳ではないので、女性としての生理現象は普通にあるらしい。
私、やっぱり女の子だったんだな……。
しみじみとそう実感しながらも、その反面、これから先、男性として生きていかなければならない以上、毎回何らかの対策が必要だということに気付き、気が重くなった。……はっきり言って複雑な気分だ。
とりあえず、これ、どうにかしないと……。
私は汚れてしまったものを綺麗にするために浄化の魔法を使い、ついでに服も着替えると、綺麗になった下着に汚れを防ぐための布を当てた。
万が一呪いが解けた時のためにと思って用意してきたサラシが役に立って良かった……。
しかし、二ヶ月という期間で行われる予定の旅はまだ始まって一週間しか経っていない。
この分ではもう一回くらい当たりそうな気がするし、今この状態でまた旅に出るのはちょっと辛い。
今回は個室だったから良かったものの、相部屋や野宿の場合は誤魔化しきれる自信がないし、何より私二日目は結構重いほうなのだ。
うーん。どうしよう……。いっそのこと魔法でどうにかならないかな……?
例えば自分の身体だけ時間を早めてさっさと終わらすとか。あ、でもそれだと身体ばかりが歳取っていきそうだから、逆に時を戻すほうがいいかな……。
何とか良い対処法は無いものかと、無い頭を振り絞って必死に考えていた、その時──。
扉をノックする音と共にクルトさんの声がする。
私は慌てて扉に駆け寄り扉を開けた。
「おはようございます。アーサー。今よろしいですか?」
「はい。おはようございます。クルトさん。どうされたんですか?」
私の問い掛けにクルトさんは何故か少しだけ怪訝そうな顔をする。
え……?何?私何かした?
「……少しだけ部屋にお邪魔してもいいですか?」
「はい。どうぞ」
私は素早くベッドに視線をやり、先程の痕跡が無いことを確認すると、クルトさんを招き入れた。
扉を閉めてクルトさんと向かいあうなり、そっと頬に手を伸ばされ、ドキリとさせられる。
ジッと私の顔を見つめてくるクルトさんの目は真剣そのもので、私は男の人に触れられているという気恥ずかしさよりも、秘密を暴かれるのではないかという不安と、隠し事をしているという後ろめたさでドキドキしたのだ。
「何だか顔色が良くないようですね。私には医術の心得もありますので、不調があるようなら遠慮なく言って下さい」
「いえ、特に具合が悪いとかではないので……」
月経はなかなかに大変なことが多いものではあるが、病気ではないので具合が悪いとも言いづらい。ましてやこの状況なら尚更だ。
私が大丈夫だと言うように何とか愛想笑いを見せると。
「そうですか。──ちょっと失礼」
クルトさんはそう言うなり、突然両手の親指で私の目の下をグイッと引っ張った。
「は、えっ!?」
あまりに突拍子のない事をされ、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
そんな私を他所にクルトさんはあっさり手を離すと、今度はその手で私の両肩をガッチリと掴んできた。
「いくつかあなたに聞きたい事があります。答えづらいのは百も承知ですが、正直に答えていただけるとありがたいです」
暗に『逃がさないから、嘘は吐くなよ』と言われてる気がするんだけど……。
私が恐る恐るクルトさんの顔を見上げると、クルトさんは少しだけ逡巡しているような様子を見せた。
もしかして聞きづらいことなのかな……?何聞かれるんだろう……?怖い……。
「……違っていたら申し訳ありません。
──もしかして『月のもの』が訪れたのではないですか?」
「……は?」
何を言われたのかよく理解出来ず、反射的に聞き返す。
今、クルトさんの口から『月のもの』って言葉が出たような……。もしかして聞き間違い……?
すると。
「女性にこのような不躾な質問をして本当に申し訳ありません」
え!?今『女性』って……?
またしても本来ならば聞こえてくる筈のない単語を聞き、驚きに目を見開いたまま固まる私に、クルトさんが真剣な表情で口を開いた。
「申し訳ありません。私はあなたが女性だということを知っています」
「は……?」
クルトさんの思いがけない告白に私の脳内はすっかりパニックになっており、何も答えることが出来なくなっていたのだった。
どうしてバレた!?
応援ありがとうございます!
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