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46.試行錯誤の結果

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    次の街でやりたいことを全て叶えてもらえるというご褒美を目の前にぶら下げられた私は俄然やる気がアップした。

 人間というものは現金なもので、すぐ手の届く範囲に明確な目標があったり、自分の願いがすぐにでも叶うということがわかったら、がむしゃらに頑張れる生き物らしい。
 当然私も自分の欲望を叶えるために、死に物狂いで魔物を倒しまくった。


 その結果。


 森での生活一週間目にしてようやく素材が獲得出来るレベルになりました!!

 クルトさんから素材を採取できる状態で魔物を倒せるようになったら次の街へ進むと言われていた私は、ほぼ原型を留めたまま目の前で転がる魔物を見て小躍りした。

 これでようやく一週間ぶりにベッドで眠れる!

 達成感と共にそこはかとない安堵感が自分の中に湧き上がってくる。


 ところが。

 目標をクリアし自分の願いが叶う事に対し高揚する私に、王弟殿下からすげない一言が掛けられた。


「お前、こんなんでいいと思ってんのか?」

「……べつに。どういう手段で、とは言われてませんから」


 明らかに不服そうな王弟殿下に、私は次の街への期待で逸る気持ちを抑えながらも淡々とそう答えた。


「だからって、こんなやり方で魔物を倒してお前は満足なのか?」


 そう聞かれても、『もちろん大満足です』としか答えられない。それを馬鹿正直に言ったら怒られるだけだから言わないけどね……。

 それに。

 魔物の倒しかたについて何かルールがあったのなら最初に言っておいてもらわないと!それを予め明確にしておかないで、後から文句言うのはちょっと違うと思うのです。

 心の中でそう言葉を続けながら王弟殿下をジッと見上げると、盛大に舌打ちされてしまった。


「チッ。目先のことだけこなせばいいって考え方、俺は好きじゃねぇんだよ」


 薄々どころか結構はっきりわかっていたが、王弟殿下は私のやり方が相当お気に召さなかったらしい。

 そんな事言われても、王弟殿下が望むような方法でやってたら、まだまだ時間が掛かっていたことは明白で、一刻も早く次の街に向かいたかった私としては、正直形振り構っていられなかったのだ。

 もう一回王弟殿下の望むようなやり方やり直しとか言われたら面倒だな……。

 それまであった達成感が一気に無くなりかけたその時。


「アルフレッド様。その辺りでご容赦下さい。アーサーのやり方は確かに正攻法とは言い難いですが、自分にあったやり方を模索して結果を出したのですから、それは評価すべきだと思います。それにどんな方法であっても、素材が取れる状態で魔物を倒す事に成功したのですから、我々は約束を守らなければなりません」


 クルトさんがさりげなく私達の間に入ってくれて、まだまだ何か文句を言いたそうな王弟殿下をやんわりと制してくれたのだ。


 やっぱりクルトさんは救いの神だ!!

 私は心の中でこっそりガッツポーズをした。


「……わかったよ。守ればいいんだろ。──でも次回はもっとマシな手使えよな」


 怒ってるというよりは呆れられている風ではあるが、とりあえず次の街に行く許可が出たことにホッとする。


 私だって出来れば正攻法で行きたかった……。

 でも、そんな事してたらいつまで経ってもこの森から出られないと早々に気付いてしまったのだから仕方ない。


 最初は王弟殿下から言われたとおりとにかく反復して敵と戦う感覚を身体に染み込ませようと努力してみたのだが、出てくる魔物がいつも同じとは限らない上、剣でも攻撃魔法でも力加減を間違うと素材が獲得出来ない状態になったり、手加減すると自分の身が危険に晒される可能性が高まるため、早い段階で手段の変更が余儀なくされたのだ。


 そこで私は考えた。

 臨機応変に対応できなきゃ、ある程度パターン化すればいいんじゃないかと。


 そうして編み出された作戦は。

 魔物を足止めして、止まった状態のところを攻撃するというものだった。

 色々考えた結果、それが一番確実でリスクも少ないし、魔物の種類や大きさで有効な攻撃や適正な威力があらかじめわかっていれば慌てることもない。
 やり方のパターンがある程度確立するまで多少時間がかかったものの、実際これが私にはうってつけの方法だったのだ。

 魔物の足止めは、戦いにおいて唯一使い道がないと思っていた土魔法が大活躍した。

 まずはクルトさんから教えてもらった魔力の探索を使い、魔物がいる大体の位置を特定したら、少し離れたところから土魔法で魔物の足下に穴をあけ、魔物の動きを封じる。急に足下が不安定になると次のアクションに移るまで僅かではあるが時間が稼げるため、その間に攻撃魔法で止めを刺していくのだ。

 その攻撃魔法も最初は適切な威力がわからず失敗続きだったが、何度も対峙していくうちに魔物の種類によって一番効果がある魔法が何であるかを学び、尚且つ使う魔法の威力を段階的に弱めていくことで、魔物を倒すのに必要なギリギリのラインを見極めることに成功した。

 そしてたった今、ようやく素材を回収出来る状態で魔物を倒すことに成功したのだ。

 私にしてはなかなかよく考えられた作戦だと思っていたのだが、王弟殿下はそんな私の作戦の弱点と至らなさをあっさり指摘してくださった。


「今回は地面に足を着いてる魔物だったからこの方法でどうにかなったけど、空を飛ぶ魔物だったらどうする気だ?それにな、魔法ばっかで剣はからきしじゃ、とてもじゃないがフェリクスの理想どおりにはなれねぇぞ」


 尤もな意見に私はぐうの音も出なかった。

 自分の考えの甘さを指摘されただけでなく、王太子殿下の名前まで出されては、次の街に行けることを能天気に喜んでる場合じゃない。

 そうだった……。私には『天才魔術師としてデビュー』するという無謀とも云える使命があったんだった……。

 次の街でやりたい事ばかりに気がいってて、正直そんな事はすっかり頭の隅に追いやってしまっていた。マズい……。

 何となく後ろめたさを感じて目を泳がせてしまう小心者の私に対し、王弟殿下は険しい表情で口を開いた。


「お前さ、本気でフェリクスの側近になるつもりなのか?」

「……はい」


 私の人生においてそれしか選択肢がない以上、当然是と答えるしかない。


 すると。

 王弟殿下はいきなり私の頬を両手で挟むと、その青い瞳でじっと私の瞳を覗き込んできた。かつてドキドキさせられたその瞳は、今は逸らすことを許さないとばかりに鋭い光を湛え、私をじっと見据えている。


「その言葉忘れんなよ。……お前に二心あると判断したときには、王族の権限で俺がお前を殺す」


 全く思ってもみなかった言葉を言われ、私は驚きのあまり息を飲んだ。

 言われた意味がまだ完全に理解出来ないうちに、ゆっくりと王弟殿下が離れていく。


 え……?私、何か疑いを持たれるようなことしましたっけ?


 我に返り思わずこの言葉の解説を求めるようにクルトさんを見ると、何故か何も答えてもらえず曖昧に微笑まれてしまったのだった。
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