45 / 71
45.センスの問題
しおりを挟む
あれから私達は王都から一番近い魔物の生息地帯である『魔の森』で三日もの時間を過ごすことになった。
通常なら半日ほどで抜けられる森に何故三日も滞在することになったのか……。
それはひとえに私のせいです……(汗)。
次の街へ行く前にこの森で魔物を狩って素材を手に入れ、旅の軍資金を得て街に向かう予定だったのだが、その素材集め自体が予想以上に難航しているのだ。
『魔の森』と呼ばれているだけのことはあり、素材となる魔物がウヨウヨとまではいかなくてもそれなりにいる。
もちろんその魔物の強さもピンキリなのだが、基本ひとりでは手に負えないような強さの魔物は生息していない。
それにも関わらず素材集めが捗っていないのは、私がその魔物を素材が取れる状態で仕留められてないからだった。
私。壊滅的に戦いのセンスがないようで……。
エセルバート公爵家での一ヶ月間の特訓の成果もあり、剣や魔法での攻撃は一応魔物に通用するレベルにはなっている。
ただ、剣の稽古や魔法の練習の時のように、『これからこういうことをこういう感じでやるぞ』という心構えをすることが出来ないせいか、魔物と対峙しなきゃならない状況で咄嗟の判断での加減というものが一切出来ないのだ。
その結果。
身体強化の魔法を使いつつ剣を振るえば、大事な素材となる部分を損傷させ。火魔法や雷魔法を使えば消し炭にし。水魔法を使えば周りを全て水没させ。氷魔法を使えば魔物以外も全て凍りつかせて自分まで戦闘不能状態になり。風魔法に到っては、勢いが強すぎて一瞬で目の前から魔物が消えたりすることもある。
お陰で素材集めが捗らないどころか、自分や味方にまで被害が出る始末。
王弟殿下の私を見る目が最初の苛立ちや呆れたようなものから、段々と可哀想な子を見るような感じになってきてるのがいたたまれない。
「お前さ、力を加減するとかっていう融通は効かねぇワケ?」
「……スミマセン」
効かせようと頑張ってるんですが、まだそこまで使いなれてないんです。
そう言ったところで天才と名高い王弟殿下に通用するとは思えないので、とりあえず神妙な顔で謝っておく。
呪いの恩恵で膨大な魔力量があるらしい私は、意識して加減をしないと結構な威力の魔法になってしまうらしいのだ。
普通の状態なら魔法の規模も調整することが出来るのだが、咄嗟の場合だと、どの程度の力で魔法を使えば丁度いいのか考えてる余裕がない。
ここに来るまで魔法においては術式の構築が最大の難関だと思っていた私だったが、余裕のない状況で魔法の威力を判断するということもなかなかの難易度だということがわかった。
これってやっぱり剣の事も含めてセンスの問題だと思うのです。
王弟殿下にそう進言してみたところ。
「じゃあ、センスのない奴は身体が覚えるまで反復しろ」
あっさりそう返され、私は身体が覚えるまでひたすらこの森の魔物を狩ることが決定したのだった。
サヨナラ……。私の快適宿屋ライフ……。いつになったら野性味溢れるこの生活とおさらば出来るんだろう……。
お風呂入りたい。ベッドで寝たい。フカフカのパンが食べたい……。
そこに辿り着くまでの道のりがあまりに遠く感じて、私は涙目になっていく。
「俺もそろそろこんな禁欲生活に耐えられねぇから、すぐにでも次の街に進みてぇんだよ。マジで気合い入れてさっさと覚えてくれ」
最初に基本自給自足だって言ってたくせに自分勝手な理由で発破をかけられ、私のやる気は一気にダウンした。
「アルフレッド様。そんな言い方では折角のやる気も無くなってしまいます。それに出来ないことを一番気にしてるのは本人ですよ。こういう場合は本人がやる気になれるような言葉掛けを心掛けてください」
救いの神が来た!!
声のした方向を見ると、そこにはいつもと変わらぬ柔和な笑みを浮かべるクルトさんがいた。
「クルトさん!」
思わず喜色満面でクルトさんの名前を呼ぶと、王弟殿下に盛大に舌打ちされてしまった。
「チッ!──単純なヤツめ……」
クルトさんは私と王弟殿下の中間あたりの位置で横に立つと、いつもどおりの笑みを浮かべながら口を開く。
「アルフレッド様。アーサーの場合は気合いを入れたくらいでどうにかなるものではないと思います。我々が一ヶ月間付きっきりで特訓してもダメだったものが、いくら環境が変わったとはいえ、たった三日で改善するとは思えませんから」
「お前も結構酷いこと言ってるけどな……」
王弟殿下はクルトさんの言葉を受けて、憐れむような視線で私の顔をチラリと見た。
「しかも言われた本人気付いてねぇし……」
ボソッと呟くようにそう言われたが、クルトさんが言ったことは事実なので、私は特に何とも思わない。
それに下手に何か言おうものなら王弟殿下の容赦ない口撃がやってくることは必至なので黙っておいた。
「ちょっと考えたんですけど」
クルトさんが私にチラリと視線を送る。
何だろう?
「アーサーは街に行ったらやりたいことってありますか?」
唐突な質問に戸惑いながらも、大きく頷く。
……そりゃ、山ほどあります。
返事をするために口を開きかけたところで、王弟殿下が先に喋りだしてしまった。
「だから、それがやりたかったら自分で稼げって最初に言っただろうが」
「アルフレッド様。おそらくそれではプレッシャーになるばかりで上手くいかないのだと思います。なので責任制ではなく、ご褒美制にしてみませんか?」
「どういう事だ?」
「とりあえず手っ取り早くやる気をアップさせましょう」
ニッコリと微笑むクルトさんの目が一瞬あざとい感じに見えたのは気のせい、だよね……?
「ねぇ、アーサー、魔物と対峙して臨機応変に対応できるようになったら、ご褒美をあげましょう。
──次の街であなたがやりたいこと、全て叶えてあげますよ」
「本当ですか!?」
それまで自分のセンスのなさに色んなことを諦めかけていた私は、クルトさんの提案に凄い勢いで食い付いた。
「ええ。それにはまず、素材を採取できる状態で魔物を倒せるよう頑張りましょうね。それが出来たら素材の価値に関係なく次の街に進みましょう。だから、そうなるまで諦めずに反復練習しましょうね。」
優しく耳障りのよいクルトさんの声が、やる気を無くした私の心に沁みていく。
やっぱりクルトさんって優しい……。
単純な私は俄然やる気を取り戻したのだった。
通常なら半日ほどで抜けられる森に何故三日も滞在することになったのか……。
それはひとえに私のせいです……(汗)。
次の街へ行く前にこの森で魔物を狩って素材を手に入れ、旅の軍資金を得て街に向かう予定だったのだが、その素材集め自体が予想以上に難航しているのだ。
『魔の森』と呼ばれているだけのことはあり、素材となる魔物がウヨウヨとまではいかなくてもそれなりにいる。
もちろんその魔物の強さもピンキリなのだが、基本ひとりでは手に負えないような強さの魔物は生息していない。
それにも関わらず素材集めが捗っていないのは、私がその魔物を素材が取れる状態で仕留められてないからだった。
私。壊滅的に戦いのセンスがないようで……。
エセルバート公爵家での一ヶ月間の特訓の成果もあり、剣や魔法での攻撃は一応魔物に通用するレベルにはなっている。
ただ、剣の稽古や魔法の練習の時のように、『これからこういうことをこういう感じでやるぞ』という心構えをすることが出来ないせいか、魔物と対峙しなきゃならない状況で咄嗟の判断での加減というものが一切出来ないのだ。
その結果。
身体強化の魔法を使いつつ剣を振るえば、大事な素材となる部分を損傷させ。火魔法や雷魔法を使えば消し炭にし。水魔法を使えば周りを全て水没させ。氷魔法を使えば魔物以外も全て凍りつかせて自分まで戦闘不能状態になり。風魔法に到っては、勢いが強すぎて一瞬で目の前から魔物が消えたりすることもある。
お陰で素材集めが捗らないどころか、自分や味方にまで被害が出る始末。
王弟殿下の私を見る目が最初の苛立ちや呆れたようなものから、段々と可哀想な子を見るような感じになってきてるのがいたたまれない。
「お前さ、力を加減するとかっていう融通は効かねぇワケ?」
「……スミマセン」
効かせようと頑張ってるんですが、まだそこまで使いなれてないんです。
そう言ったところで天才と名高い王弟殿下に通用するとは思えないので、とりあえず神妙な顔で謝っておく。
呪いの恩恵で膨大な魔力量があるらしい私は、意識して加減をしないと結構な威力の魔法になってしまうらしいのだ。
普通の状態なら魔法の規模も調整することが出来るのだが、咄嗟の場合だと、どの程度の力で魔法を使えば丁度いいのか考えてる余裕がない。
ここに来るまで魔法においては術式の構築が最大の難関だと思っていた私だったが、余裕のない状況で魔法の威力を判断するということもなかなかの難易度だということがわかった。
これってやっぱり剣の事も含めてセンスの問題だと思うのです。
王弟殿下にそう進言してみたところ。
「じゃあ、センスのない奴は身体が覚えるまで反復しろ」
あっさりそう返され、私は身体が覚えるまでひたすらこの森の魔物を狩ることが決定したのだった。
サヨナラ……。私の快適宿屋ライフ……。いつになったら野性味溢れるこの生活とおさらば出来るんだろう……。
お風呂入りたい。ベッドで寝たい。フカフカのパンが食べたい……。
そこに辿り着くまでの道のりがあまりに遠く感じて、私は涙目になっていく。
「俺もそろそろこんな禁欲生活に耐えられねぇから、すぐにでも次の街に進みてぇんだよ。マジで気合い入れてさっさと覚えてくれ」
最初に基本自給自足だって言ってたくせに自分勝手な理由で発破をかけられ、私のやる気は一気にダウンした。
「アルフレッド様。そんな言い方では折角のやる気も無くなってしまいます。それに出来ないことを一番気にしてるのは本人ですよ。こういう場合は本人がやる気になれるような言葉掛けを心掛けてください」
救いの神が来た!!
声のした方向を見ると、そこにはいつもと変わらぬ柔和な笑みを浮かべるクルトさんがいた。
「クルトさん!」
思わず喜色満面でクルトさんの名前を呼ぶと、王弟殿下に盛大に舌打ちされてしまった。
「チッ!──単純なヤツめ……」
クルトさんは私と王弟殿下の中間あたりの位置で横に立つと、いつもどおりの笑みを浮かべながら口を開く。
「アルフレッド様。アーサーの場合は気合いを入れたくらいでどうにかなるものではないと思います。我々が一ヶ月間付きっきりで特訓してもダメだったものが、いくら環境が変わったとはいえ、たった三日で改善するとは思えませんから」
「お前も結構酷いこと言ってるけどな……」
王弟殿下はクルトさんの言葉を受けて、憐れむような視線で私の顔をチラリと見た。
「しかも言われた本人気付いてねぇし……」
ボソッと呟くようにそう言われたが、クルトさんが言ったことは事実なので、私は特に何とも思わない。
それに下手に何か言おうものなら王弟殿下の容赦ない口撃がやってくることは必至なので黙っておいた。
「ちょっと考えたんですけど」
クルトさんが私にチラリと視線を送る。
何だろう?
「アーサーは街に行ったらやりたいことってありますか?」
唐突な質問に戸惑いながらも、大きく頷く。
……そりゃ、山ほどあります。
返事をするために口を開きかけたところで、王弟殿下が先に喋りだしてしまった。
「だから、それがやりたかったら自分で稼げって最初に言っただろうが」
「アルフレッド様。おそらくそれではプレッシャーになるばかりで上手くいかないのだと思います。なので責任制ではなく、ご褒美制にしてみませんか?」
「どういう事だ?」
「とりあえず手っ取り早くやる気をアップさせましょう」
ニッコリと微笑むクルトさんの目が一瞬あざとい感じに見えたのは気のせい、だよね……?
「ねぇ、アーサー、魔物と対峙して臨機応変に対応できるようになったら、ご褒美をあげましょう。
──次の街であなたがやりたいこと、全て叶えてあげますよ」
「本当ですか!?」
それまで自分のセンスのなさに色んなことを諦めかけていた私は、クルトさんの提案に凄い勢いで食い付いた。
「ええ。それにはまず、素材を採取できる状態で魔物を倒せるよう頑張りましょうね。それが出来たら素材の価値に関係なく次の街に進みましょう。だから、そうなるまで諦めずに反復練習しましょうね。」
優しく耳障りのよいクルトさんの声が、やる気を無くした私の心に沁みていく。
やっぱりクルトさんって優しい……。
単純な私は俄然やる気を取り戻したのだった。
0
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。
夜乃トバリ
恋愛
シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。
今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。
※他の作品と書き方が違います※
『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる