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21.罪の自覚
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実証実験により、推定無罪から確定有罪になってしまった私は、ショックのあまり前後不覚に陥りながらも、『悪いようにはしないから』という王太子殿下の言葉に促され、なんとか自分の足で図書館を後にすることができた。
来た時と同じようにエセルバート公爵家の馬車に乗り込み、今度はクレイストン伯爵家を目指す。
本来ならばすぐにでも王城へ上がり、今回の一件についての私の処遇を聞かなければならないのだが、いくら公に出来ない事情があって非公式の場になるとはいえ、今着ているようなワンピース姿のままで登城するわけにはいかないため、自宅で身支度を整えることになったのだ。
馬車の中にいるのは私とカイル様だけ。
気まずい沈黙が続く中、私は今更ながらに少しずつ周りが見え始め、ようやく物事を少しだけ冷静に考えることができるようになっていた。
今回の一件に関しての最初の私の認識は──、
物語に出てくるような素敵な男性に生まれて初めての恋をしたものの、残念ながら想いは実らなかった。思いを絶ちきれずにいたところ、偶然にも同じ夜会に参加していることがわかって、運命の再会だとを信じて疑わなかった私は、もう一度彼の瞳に私という存在を映して欲しい一心で、偶々図書館で見つけた古い本に載っていたおまじないを試しただけという事だったのだが。
結果としては──、
恋した相手は王族。私は全く相手にされていなかったにも関わらず、未練がましく想い続け、偶々同じ夜会に参加していたことを勝手に運命と勘違いして付け回し、得体のしれないおまじないを使って彼に振り向いてもらおうとした。
……というお粗末なものだった。
しかもおまじないだと思って使ったものは古代の魔法。
それも強力な精神干渉系であり、あまりに危険すぎるために禁術とされている類いのものだということは、既に王太子殿下とカイル様から説明されている。
知らずにしてしまった事とはいえ、結果はあまりにも重大だ。
この国の法律では正当な理由なく禁術を使った場合は、厳罰に処せられる決まりになっている。
意図して使った訳ではなくとも、私が王族に対してその禁術を用いてしまった事実に間違いはない。
それが既に言い逃れできない事実であることは、王太子殿下の身を呈した実証実験により証明されてしまった。
私は、自国の王族に対し、禁術を用いて精神に危害を加えようとしたというとんでもない大罪に問われることになってしまったのだ。
そんな状況にも関わらず、私がすぐに拘束されず、ほんの一時とはいえ、クレイストン伯爵邸へと戻れる訳。
──それはおそらくカイル様の温情に他ならない。
全ての事実が明らかになり、私の罪が確定した今、おそらくロザリー・クレイストンという人間はそう遠くない未来、確実にこの世界から消えるだろう。
今を逃せばもう二度と、私はロザリー・クレイストンとして住み慣れた家に足を踏み入れることは叶わなくなる。
クレイストン伯爵邸で登城の支度を整える。
たったそれだけのことではあるが、今の私にとってはかけがえのない時間となるのだ。
先程までは露ほどにも気付けなかったカイル様の優しさに、私は複雑な気持ちになっていく。
目の前にいるこの人は私を断罪する人だ。
でもそれはあくまでも王族に仇なす人間だからということであって、私個人に対する好き嫌いという私的感情はどこにも介在しないらしい。
だからこそ余計に、こんな時に急に向けられた私個人に対する優しさが身に染みる。
──罪を憎んで、人を憎まず。
そんな綺麗事、実践できる人がいるんだな……。
すっかり心が荒んでいた私は、ぼんやりとそう思うことしか出来なかった。
視野の狭い私にはどだい無理な話だ。
ようやく自分の罪を自覚したばかりの私に出来ることは、自分の愚かな行為のとばっちりが自分以外にまで及ばないよう祈ることだけ。
自分のことはともかくとして、他のことに関しては、『悪いようにはしない』と言った王太子殿下の言葉にすがるしかない。
そこまで考えたところで、自然と大きなため息がでてしまう。
不意に顔をあげると、向かい側に座っていたカイル様が物言いたげな顔でこちらを見ていることに気付いてしまった。
ずっと見られていたのだろうか……。嫌だな……。
そうは思っても無視する訳にもいかず、私は仕方なく口を開いた。
「……何でしょうか?」
「クレイストン伯爵邸に着く前に少し話があるのだがいいか?」
どうやら私の気持ちが少し落ち着くタイミングを待っていてくれたらしい。
私は気が進まないながらも、小さく頷いた。
来た時と同じようにエセルバート公爵家の馬車に乗り込み、今度はクレイストン伯爵家を目指す。
本来ならばすぐにでも王城へ上がり、今回の一件についての私の処遇を聞かなければならないのだが、いくら公に出来ない事情があって非公式の場になるとはいえ、今着ているようなワンピース姿のままで登城するわけにはいかないため、自宅で身支度を整えることになったのだ。
馬車の中にいるのは私とカイル様だけ。
気まずい沈黙が続く中、私は今更ながらに少しずつ周りが見え始め、ようやく物事を少しだけ冷静に考えることができるようになっていた。
今回の一件に関しての最初の私の認識は──、
物語に出てくるような素敵な男性に生まれて初めての恋をしたものの、残念ながら想いは実らなかった。思いを絶ちきれずにいたところ、偶然にも同じ夜会に参加していることがわかって、運命の再会だとを信じて疑わなかった私は、もう一度彼の瞳に私という存在を映して欲しい一心で、偶々図書館で見つけた古い本に載っていたおまじないを試しただけという事だったのだが。
結果としては──、
恋した相手は王族。私は全く相手にされていなかったにも関わらず、未練がましく想い続け、偶々同じ夜会に参加していたことを勝手に運命と勘違いして付け回し、得体のしれないおまじないを使って彼に振り向いてもらおうとした。
……というお粗末なものだった。
しかもおまじないだと思って使ったものは古代の魔法。
それも強力な精神干渉系であり、あまりに危険すぎるために禁術とされている類いのものだということは、既に王太子殿下とカイル様から説明されている。
知らずにしてしまった事とはいえ、結果はあまりにも重大だ。
この国の法律では正当な理由なく禁術を使った場合は、厳罰に処せられる決まりになっている。
意図して使った訳ではなくとも、私が王族に対してその禁術を用いてしまった事実に間違いはない。
それが既に言い逃れできない事実であることは、王太子殿下の身を呈した実証実験により証明されてしまった。
私は、自国の王族に対し、禁術を用いて精神に危害を加えようとしたというとんでもない大罪に問われることになってしまったのだ。
そんな状況にも関わらず、私がすぐに拘束されず、ほんの一時とはいえ、クレイストン伯爵邸へと戻れる訳。
──それはおそらくカイル様の温情に他ならない。
全ての事実が明らかになり、私の罪が確定した今、おそらくロザリー・クレイストンという人間はそう遠くない未来、確実にこの世界から消えるだろう。
今を逃せばもう二度と、私はロザリー・クレイストンとして住み慣れた家に足を踏み入れることは叶わなくなる。
クレイストン伯爵邸で登城の支度を整える。
たったそれだけのことではあるが、今の私にとってはかけがえのない時間となるのだ。
先程までは露ほどにも気付けなかったカイル様の優しさに、私は複雑な気持ちになっていく。
目の前にいるこの人は私を断罪する人だ。
でもそれはあくまでも王族に仇なす人間だからということであって、私個人に対する好き嫌いという私的感情はどこにも介在しないらしい。
だからこそ余計に、こんな時に急に向けられた私個人に対する優しさが身に染みる。
──罪を憎んで、人を憎まず。
そんな綺麗事、実践できる人がいるんだな……。
すっかり心が荒んでいた私は、ぼんやりとそう思うことしか出来なかった。
視野の狭い私にはどだい無理な話だ。
ようやく自分の罪を自覚したばかりの私に出来ることは、自分の愚かな行為のとばっちりが自分以外にまで及ばないよう祈ることだけ。
自分のことはともかくとして、他のことに関しては、『悪いようにはしない』と言った王太子殿下の言葉にすがるしかない。
そこまで考えたところで、自然と大きなため息がでてしまう。
不意に顔をあげると、向かい側に座っていたカイル様が物言いたげな顔でこちらを見ていることに気付いてしまった。
ずっと見られていたのだろうか……。嫌だな……。
そうは思っても無視する訳にもいかず、私は仕方なく口を開いた。
「……何でしょうか?」
「クレイストン伯爵邸に着く前に少し話があるのだがいいか?」
どうやら私の気持ちが少し落ち着くタイミングを待っていてくれたらしい。
私は気が進まないながらも、小さく頷いた。
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